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第四十三話 「ホライゾン・ホラー依存・蓬莱ゾーン」

第四十三話「ホライゾン・ホラー依存・蓬莱ゾーン」



 こんにちわ、びーこです。

 

 突然ですが、一言だけ言わせてください。

 私は自分で言うのもなんなのですが、自分の事を空気の読める人間だと思っています。 

 

 だからこそ、今日はちょっとだけシリアスモード。


 いつもの私達のお部屋なのに、いつもと違うこの空気。

 私は、英子ちゃんみたいに鈍感さんではありません。だから、私達の間に流れるこの微妙な空気、この異様な雰囲気に気がつかないはずがないのです。

 きっとこれは、私の知らないところで私の知らない何かがあったに違いありません!

 英子ちゃんは、また一人で何もかも背負ってしまおうと考えているに違いないのです!

 そんなの、他の誰が許しても、この私だけは絶対に許さないんだから。


 … はい。正直に白状します。

 私、何故だか昨日の記憶が殆どないんです。確か昨日は、学園がお休みでした。英子ちゃんは朝から用事があると出て行ったきり、私は花子ちゃんと一緒にお留守番していて、それから…。

 駄目、どうしても思い出せません。


 でもでも、例え記憶は無くたって、私には分かります。


 きっときっと、とても悲しくて、とても大切で、とても重要な何かが起こったんだって。


 だから私は、せめて私だけは、いつもの笑顔で居ようとそう決めたのです。

 


 今日、どんな真実が明らかになったとしても、私は、もう、絶対に泣かない。



          ◆



「英子ちゃん、英子ちゃーん、大丈夫ですか? どこかお加減が悪いんですか?」

 英子ちゃんが起きてこない。

 私の学園がお休みの休日などは、普段からお昼前までお寝坊しているという事も多い英子ちゃんですが、今日はまた一段と起きてくる気配がありません。それどころか、本当にお部屋で寝ているのかどうかすら、何だか不安になってしまいそうなほど、英子ちゃんの部屋はしんと静まり返っていました。


 何故か溜まらなく嫌な予感がします。

 こうなってしまっては、もう実際にこの眼で確認するしかありません。私は少しだけ躊躇したものの、思い切って英子ちゃんの部屋のドアノブに手を掛けました。

 … いつもなら、何のためらいもなく開ける事の出来るこのドアが、今日に限っては何故かとても重苦しい。

 

 駄目です、ここで諦めてはいけません! 私は、私はただ英子ちゃんの事が心配なだけなんです。


 私は、意を決してドアノブを回しました。

 

 その瞬間、ドアの置くからまるで唸る様にして聞こえてきた英子ちゃんの声。


「来るな!!!」

「英子ちゃん? 英子ちゃんどうなさったのですか? 大丈夫ですか?」

「…… ああ。悪い、心配かけちまったか? あたしの事なら大丈夫だ、心配すんな。それと、悪いついでにもう一つ。今日は、あたしを一人にしてくれないか? すまねーが… この部屋に近づかないで欲しいんだ」

「で、でもでも」

「でももだっても禁止だって、いつも言ってんだろ? まぁ、安心しろよ。今日だけだ。今日だけは、あたしを一人にして欲しい。たったそれだけの話さ」


 自分で言うのもなんですが、私は空気の読める人間です。あっ、これ大切な事なので2回言いました。

 でもでも、私は誰かさんに似て、諦めの悪い人間でもあるのです。


「分かりました、英子ちゃん。ですが、一つだけいいですか?」

「何だよ。言うだけならタダだぜ」

「英子ちゃん、何か私に言うことはありませんか? 私に隠していることはありませんか? また一人で、ぜーんぶ背負おうとしていませんか?」

「おいおい。一言じゃねーだろ、それ」

「誤魔化さないでください! 私は真剣なんです!」

 

 ドアとドア。遮られる私と英子ちゃんの空間。ドア越しの会話。

 今、一体英子ちゃんはどんな顔をして私の話に耳を傾けているのでしょうか?

 私は、英子ちゃんからの返答をじっと待ちました。


「花子が…」

「花子ちゃん? 花子ちゃんがどうかしたのですか?」

「あいつは、暫くここには来ない」

「どうして? 何故ですか?」

「あー、うん。そう、あれだ、旅に出たんだよ」

「旅? こんなに突然ですか? 私達になにも言わずに?」

「ああ。真のトイレの神様になるためにな」

「もうっ! 私は真剣なんですよ!」

「…… 悪いなびーこ。いつか、お前にはちゃんと真実を話すよ。けど今は、今だけはあたしを信じてそれで納得してくれないか?」


 英子ちゃんは頑固さんです。恐らく、これ以上私が粘ったところで真実は見えてこないでしょう。

 英子ちゃんの…… ばかっ。


「絶対ですからね?」

「ああ。約束だ」


 ドア越しの指きり。指は絡めなくても、私達は今、確かに約束を結びました。

 そっか。結局、私は今回もまた、皆さんに助けられてしまったのですね? 

 英子ちゃんに、そして花子ちゃんに。

 何も出来ない自分が、本当にもどかしくて、情けなくて、悔しくて。


 きっと私は、これからもいろんな人達に支えられて、助けられて、それでも1歩ずつ進んでいかなければならないのかもしれません。

 私は、強くなりたい。


 皆を、名前も知らない誰かを、みんな、みーんな護れるくらいに。


 

      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 … やれやれだぜ。

 

 思った通り、びーこにあの時の記憶はないようだった。

 それはびーこにとってもあたしにとっても、せめてもの救い。不幸中の幸いだったと言える。

 今の不安定な状態のびーこに、真実を話すことが必ずしもプラスに働くという保障はどこにもない。

 びーこには本当に悪いと思っちゃいるが、今はただ信じてもらうしかない。あたしの事、花子の事。



 力の反動。

 恐怖。引力。依存。

 副作用。

 

 あたしのようなただの人間一人が持つには、あまりに限定的で、あまりに異次元的で、あまりにイレギュラーな力。

 能力使用中のあの凶暴性に特化しちまう性格もそうだが、一番の問題は… 使用後に訪れるこの副作用、この姿。

 「異端」な能力の副作用も、やはり「異端」と相場は決まってる。


 今はまだ一時的なものとは言え、「コレ」があたしの姿なんだと思うと、正直生きた心地がしない。

 というより、現実感が無いというほうが正しいのだろうか? こんなのが生ある者の姿とは、思いたくなかった。断じて。例えそれが、変わり果てちまった自分自身の姿だったとしても、だ。


 … だが、後悔は無い。 


 びーこを護るためだったら、あたしは鬼にでも悪魔にでも、何にだってなってやる。そう誓ったのだから。それが、あたしと花子との… いや、この世界でないどこか遠くの、アイツらとの約束だから。


 例えそれが、人間とは程遠いナニカに近づいて逝く行為だったとしても。あたしは、びーこの行き付く先。到達する未来。その地平線の先を見てみたい。それだけだ。


 それが、あたしにとっての「たった一つのシンプルな答え」ってやつなのだから。


END



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