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第三十八話 「Christmas派 VS Xmas派」

第三十八話「Christmas派 VS Xmas派」



「おい、びーこ。そろそろ帰るぞ」

「はーい。英子ちゃん英子ちゃん、美味しかったですねー。また来ましょうね? ね?」

「はいはい。ってか、お前は食いすぎだぞびーこ。その小さい体のどこにアレだけの量が入るってんだよ」


 いつものようにびーこを迎えての学園からの帰り道、今日は特別授業があったとかでいつもより遅い帰宅となった。

 ただでさえ寒さの厳しいこの時期にあって、生憎の雨模様。冷たく降りしきる雨は、あたし達の体温を容赦なく奪い去る。

 こんな時、無性に食べたくなるものは何だろう? 

 あたしの場合は、そう、ラーメンだ。ここ数日、びーこのボディーガードとして様々なパーティやら何やらに出席させられたからな。時期が時期だけに、家柄が家柄だけに仕方ねーとはいえ、正直なところ、いい加減ラーメンの味ってやつが恋しくなってたところだった。

 だからこそ、あたしとびーこは学園の帰り道、行きつけのラーメン屋に顔を出していた。


「わ、私は小さくなんかありません! 英子ちゃんのその大きさが反則的なだけです! 自慢ですか? 自慢ですね?」

 びーこが何故かあたしの体の一部をジト目で睨みつけながら、そう叫ぶ。

「いや、何の話だよ。あたしは身長の話をしただけだぜ? にしても、雨の野郎、まだまだ止まねーみたいだな」

「ぷーん、すぐそうやってごまかすんですから。でも、今日は1日雨だって天気予報で言ってましたよ?」

「やれやれ。食ってる間に止むかもしれない、なんて都合良くはいかねーか。仕方ない、このまま帰るか。びーこ傘間違えんなよ」

 

 あたし達は揃ってのれんをくぐり店の外へ出る。目の前で冷たい雨が降り続いているのを確認し、若干憂鬱な気分に浸りながらも立てかけていた傘を手に取る。

「雨ってやつは、どうしてこうも人の気分を憂鬱にさせるんだろうな?」

「えーっそうですか? 私は結構好きですよ、雨の日って」

 いつもと変わらぬにこにこ顔で、傘立てから自分の傘を手にしながら続けて言う。

「こうやって、お気に入りの可愛い傘を差しながら歩くってのもいいものですよ?」


 そのびーこの表情が一変し、喜声が奇声へと変わったのは、正にびーこが自身の傘を開いた、そんな瞬間の事だった。


「きやあああああああっ。やだぁあああ」

 雨、傘、びーこと来れば何が起こったかの相場は自ずと決まってくる。

 あたしは、開きかけた傘を再び閉じ、後ろを振り返りながら尋ねる。

「どうした、びーこ? って聞くまでもねーな」

「うえぇえええ、英子ちゃーん。私の、私のお気に入りの傘がー」


 びーこのお気に入りだと言う、そのピンクの花柄模様の白い傘。が、今は既に見る影も無い。

 何故かって?

 答えは簡単。

 びーこの傘が…… 唐傘お化けって奴にに変わっちまっていたからだ。


 妖怪唐傘。

 言わずもがな、あの傘の妖怪だ。日本では結構有名な妖怪だし、映画や漫画などでも代表的な妖怪として目にする事が出来る筈。その性質としては、傘に化けて人間を驚かすっていう一本足一つ目のアノ妖怪だ。

 有名ではあるものの、伝承クラスと異なり、強大な力を保有してるってわけじゃない。単に人を驚かすのが生きがいっていう、何ともはた迷惑なだけの妖怪。下級妖怪だ。傘ってやつは、その素材こそ変われど性質本質そのものはここ数百年殆ど変わっていない。だからこそ、コイツも現代までその姿を変える事無くしぶとく生き残ってる妖怪の一種ってわけだ。


「まぁ、落ち着けびーこ。この手の奴はな、ペースを乱されてパニックにでもなろうもんなら相手の思う壺だぜ」

「で、でもでもー」

「でももだっても禁止だって言ってるだろ?」

 

 びーこは今や随分と太ましくなってしまった傘の柄、というか唐傘お化けの足を持ち、尚且つそれを振り回しつつ、若干パニック状態に陥っている。

 つーか、まずはソイツを離しゃいいのにと思いつつも、あたしは続けて言う。

「コイツは、基本的には人を驚かせるだけの下級妖怪。当然、あたしにとっちゃ造作も無い存在ってわけだ。だがな、何時ものようにあたしが始末したんじゃ面白くないだろ?」

「もう! 面白い面白くないの問題じゃありません!」

 何故か知らんが顔を真っ赤にして頬を膨らませ、あたしに向かってそう叫ぶびーこ。いやいや、八つ当たりもいいとこだろ。

「あのなぁ、何度も言うがあたしはびーこと違ってシスターの卵でもエクソシストでも退魔師でもねーんだよ。この意味が分かるか?」

 あたしのそんな言葉を受け、一瞬きょとんとした表情を浮かべたものの、あっ、と気が付くびーこ。そう、そうなんだよ。

「あたしが始末を付けるって事は、結果としてこいつを、つまりはびーこの傘をぶった切っちまうってことだ。それはスマートじゃねーし、何よりお前が納得しないだろ?」

 渋々、と言ったところではあるものの、びーこは静かに一度だけ頷いた。


 …… 勿論、一番手っ取り早いのは何時ものようにコイツをぶった切って無間送りにしてやること。だがまぁ、実際のところはいかようにもやり方は存在する。けど、それじゃびーこのためにならねーからな。ま、びーこ風に言うなら経験に勝る教師無しってやつさ。こうやって実践を積ませてやることが、あたしに出来るあたしなりのやり方。悪く思うなよ、びーこ。


「さて、ここで問題だ。人間を驚かす事が本質であるコイツを退けるには、一体どーすりゃいーでしょうか?」

「ぅえーん、英子ちゃんのいぢわる。私がクイズ苦手なの知ってるくせにぃー」

「大丈夫。ほら、前にミイラ男を屠った時の事を思い出してみろよ。びーこなら出来るはずだぜ」


 んー、と唸りながら手にした唐傘お化けを振り回すびーこ。… いや、だからね、一旦ソイツ離してやれよ。


「あー! ふっふっふ、英子ちゃん、こんな諺を知っていますか? 目には目を歯には歯を」

「幾らあたしでもそれくらいは知ってるっての。んで、つまりは?」

「この唐傘さんの趣味が人を驚かす事だと言うのならば、逆に脅かし返してやればいいのです!!」

「へぇ。やるじゃねーかびーこ、その通りだ。んじゃ、やり方が分かったところで次の段階。問題はどうやって驚かせるか、だぜ?」


 むむー、と再び唸りながら手にした唐傘お化けをぶん回すびーこ。結果、唐傘お化けはぐわんぐわん目を回しながら、口から吐しゃ物を撒き散らしている。なんつーか、この時点で驚かせるうんぬんとかもはや関係なくなってきている気がするのは、単なるあたしの気のせいってわけじゃないはず。


「で? どうだびーこ。出来そうか?」

「私、驚かせるのは得意ではありませんので、上手に出来るかどうかはわかりませんが、一先ずやってみます!」

「ああ。いいねー、その意気だぜ」

 びーこは一体どんな方法を使って奴を驚かせるのか? あたしは腕組みをしつつそんな一人と一匹の様子を見守る。


「では、コホン。英子ちゃん英子ちゃん」

「あ? 何だよ」

「英子ちゃんが大切に育てていた、たま○っち。今朝、死んでましたよ?」

「……… は? ってか、え? あたし、の? … ぅ、う、嘘だあああああああああああああああああああ」


 あたしが、あたしが手塩にかけて育て上げた年齢カンストおやじっちがああああああああああああああああああああああああ。

 慌ててジーンズのポケットを探るあたし。が、そんなあたしの必死っぷリを見たびーこが一言。


「ウッソでーす」

 そう言ってテヘペロとばかりに舌を出すびーこ。

「…… なん、だと? 嘘? ってか、待て待て待て。あたしを驚かせてどーすんだよ! 一体何のつもりだ? びーこ」

 そんなあたしの文句に対し、ニヤリと微笑みを浮かべるびーこ。

「でも、でもほら、ね? 英子ちゃんのあまりのオーバーリアクションっぷりに驚いて、逃げちゃいましたよ? 唐笠さん。私、やりました。ブイ」

 ドヤ顔ブイサインのびーこを尻目に、何も言えないあたし。

 やられた… やられた? もしこれが狙ってやったことだとしたら… びーこ、恐ろしい子。

 まぁ、偶然だろうけど。それにしても、ったく、やれやれだぜ。


「ぷっ、くっくっく、あっはっはっはっは。びーこ、やっぱりお前良いよ、サイコーだ。あんたにゃ敵わねーぜ、ほんと」

「ど、どうして笑うんですか!?」

「わりぃわりぃ、でもよ、確かに奴は退散はしたが… 良く見てみな。傘、無いだろ?」

「え? あっ。あーーーーーっ、私の、私のお気に入りのかさー」

 

 確かにびーこの計略によって、唐傘お化けは退けられた。びーこにしては、悪くない手段だったとあたしも思う。だが、最大の誤算は、唐傘お化けが、あたしの叫び声に対してあまりに驚いちまったもんで、びーこの傘に憑依したまま逃げちまったってところだ。


「クスン。私の傘ぁー」

「ほら、いつまで泣いてんだよ。お前はアイツを追い払ったんだ、良くやった。もっと胸を張って良いんだぜ?」

 そう言ってびーこの頭を二度三度と優しく撫でるあたし。

「おっ、雨が雪に変わりやがったな。こりゃますます冷えそうだ。ほれ、とっととあたしの傘に入りな? いい加減帰ろうぜ」

「え? いいんですか?」

「良いも何も、傘、これしかねーんだから当然だろ?」

 えへへーと笑いながら、嬉々としてあたしの隣へとやってくるびーこ。

「何で嬉しそうな顔してんだよ。んなことより、積もる前にとっとと帰るぜ」

「はいっ!」


 泣いたカラスがもう笑う。

 ま、びーこの場合カラスって言うよりアルバトロスって感じだけどな。

 

 勿論、色んな意味で。



END


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