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第三十ニ話 「腐乱死体だ★フランちゃん!」

第三十ニ話「腐乱死体だ★フランちゃん!」


 とうとう。

 とうとうここまでやって来てしまった…… ぴょン。


 思えば長い道のりだった。目を瞑れば思い出す、長く険しかった苦難の道のり。

 あれもこれも、全ては我が一族復興のため。


 そう。

 だからこそ、アタイは今、ここにいる! …… ぴょン。



「で、さっきからお前は何やってんだ? 人ン家の部屋の前で」

「ぴょン? ……… ほ、ほぎゃあああアアアア嗚呼」

「いや、そんなに驚かれるようなことしちゃいねーだろ、まだ。それとも、何か疚しい事でもあんのか? 事と場合によっては生かしちゃおけねーが」


 あ、あわわわわ。焦るな、焦るなアタイ。まずは落ち着くぴょン。 

 この展開は予想通り。想定済み、想定の範囲内ぴょン。

 

 アタイの目の前、と言うかいつの間にか背後に立っていた威圧感抜群の鬼のようなこの女こそ、噂に聞くアイツに違いない。

 そう。

 地獄の門番ペットショ…… じゃ無くて、地獄の門番、法楽英子に違いないぴょン。

 ぐぬぬ。しかし、早くもジョーカーのお出ましとは。まずはこいつを何とかしないとぴょン。


 アタイがそんな風に瞬時のうちに108の謀略を巡らせていた正にその時、唐突にマンションの部屋のドアが開いた。

 そして、ドアの隙間からひょっこりと顔を出した人物。アタイが遠路はるばるここまでやってきた目的。それは…



「英子ちゃん? どなたかの声がしたと思ったら、ドアの前で一体何をしているんですか?」

「びーこか。今帰ってきたんだが、あたし達の部屋の前に見知らぬ奴がいたもんでな。いや、むしろ見知らぬ奴というより、思い切り不審人物。つーか、まぁ、いつものパターンだなこりゃ」

「そうやって決め付けるのは良くないですよ、英子ちゃん。ほら、花子ちゃんのような例もありますし。そもそも、そういう悪い幽霊さんや妖怪さんだったら、こうやってドアから部屋に入ろうとはしないものです」

「詭弁だな。例えドアから入ってこようが、トイレから入ってこようが、こいつが不審人物であることに変わりは無い。だってこいつ……… 腐ってるし」


           ◆


 こちらの意思をガン無視した二人の話し合いの末、何故かすんなりと奴らの居住スペースへの侵入に成功したアタイ。

 アタイは、リビングルームに案内され、一つのテーブルを挟んでターゲットと向き合っている。ちなみに側のソファーには、だらりとくつろぎながらも、その目だけは先ほどからアタイを鋭く射抜いている地獄の門番がギロリ。

 このパターンは、我が108の事前シミュレーションにも無かったパターンだぴょン。

 とはいえ、ここからが本番。

 我が使命のため、ターゲットにはアタイのこの手で、完全なる死を与えなければならないぴょン。


 それはそうと、先ほどからちょっとだけ緊張してきたかも。

 ほら、さっきからアタイの心臓の音が…… 全く、聞こえないぴょン。だってだって、アタイは腐乱死体だからNE★

 というわけで、いざ、ミッションスタートぴょン。


「… で、最初の質問に戻るわけだが。結局のところお前は何もんだ? 何を企んでここまでやって来た」

「はいはいはーい。私、知ってます。あなたはキョンシーさんですよね? ね?」


 何故かテンションの高いターゲット。地獄の門番の制止を振り切ってアタイを部屋に招きいれたのもコイツだし、これってもしかしてもしかすると…… 聞いていたよりチョロイぴょンか? くぷぷぷ、警戒心がなさ過ぎぴょン♪ 後は適当に話を合わせて。


「いかにも。由緒正しきキョンシー一族が一人、フランとはアタイのことぴょン」

「待て待て。まずそのキョンシーってのが胡散臭い。キョンシーってのは、額にお札を貼った死体の癖に、一切腐敗せず好き勝手に動き回るっていう中国産の妖怪だぜ?」

 うむむ、流石は地獄の門番だぴょン。こちらのことは何でもお見通しってわけだぴょンね? だがしかし、こちらも負けるわけにはいかないぴょン。

「いかにもいかにも。正にアタイのことぴょンね」

「お前、自分の姿を鏡で見たことあるか? つーか、金髪西欧人のキョンシーがどこの世界にいるってんだよ。しかも腐ってる! おまけにウサ耳だと? ふ ざ け る な。認めない。あたしは断じて認めねーぞ。この面白ゾンビ野郎」

「ゾンビじゃないぴょン! キョンシーだぴょン! この通り、ちゃんとお札もついてるぴょン! ぴょンぴょン跳ねるぴょン!」

「おいおい、興奮して臓物を撒き散らすなよ」

「キョ、キョンシーには良くあることぴょン」 


 …… 法楽えいこぉおおおお。

 さっきから聞いていれば、アタイのグラスハートにガンガン傷をつけてきやがってぇええええ。

 話に聞いた通り、まるで鬼のような、悪魔のような女ぴょン。

 こいつ、人の悪口を言ってはいけませんって、学校で習わなかったぴょンか?

 ターゲットを屠るためにも、やはりまずはあいつを何とかしないと…… そうだ! いっその事あいつをこちら側に引き入れてしまえばいいぴょン。

 あいつを味方に出来れば文字通り鬼に金棒ぴょン。くぷぷぷ。さっすがアタイ、実に冴えてる♪

 よーし。そうと決まれば善は急げぴょン。何とかを隙を見ていっちょガブリと一かじりしてやるぴょン。


「あっ、急に眩暈が」

 アタイは、極々自然なそぶりでふらっと法楽英子の側に倒れこみ、極々自然なそぶりでお口をあんぐり、牙むき出し。

 が、憎たらしい法楽英子はひらりと身をかわす。

 Shit!!

 コンチクショウ!! 

「お前さ、今、露骨にあたしの事噛もうとしただろ? やっぱりキョンシーじゃなくてゾンビじゃねーか」

「ひ、貧血ぴょン。ゾンビは常に血が足りないんだぴょン。その上アタイ、低血圧なんだぴょン」

「やっぱりゾンビじゃねーか! 今、自分で言ったよな? 確かに言ったぜ! つーか、もっとまともな言い訳はねーのかよっ。… まぁ、この際お前が何者なのかなんざ、どうでもいい。問題はお前がここに何の目的でやってきたかだ」

「そ、それは……」


 どうする? どうするアタイ。

 ここで選択肢を間違えれば一発アウト。地獄の門番、鬼の法楽英子の妖刀の錆になってしまうぴょン。

 と言うかさっきから物凄い睨まれまくってるぴょン。こ、怖いぴょン。ひしひしと殺意の波動を感じるぴょン。殺る気満々ぴょン。ガクガクブルブル。アタイ、何かもう色んなところから色んなものが駄々漏れしそうだぴょン。し、心臓が今にも止まりそうだぴょン…… 勿論、キョンシーだからとっくの昔に止まってるけどNE★

 ということで、ここは慎重に、あくまで慎重に…。


「英子ちゃん英子ちゃん、そんなの簡単ですよ。この子はきっと、私とお友達になるために来て下さったに違いありません!」

「…… グッド! その通りぴょン」

「なーにがグッドだ、ゾンビ野郎。脳みそまで腐ってんのか知らねーが、どうせびーこを殺して一族の名を上げようとか、復興させようとか、んなくだらねーことを企んでのこのこやってきたんだろ? しかも仮にもキョンシーの癖して、たった一人で乗り込んでくるあたり、まともな仲間のいないはぐれモノってとこだな。もしかすると、自分を馬鹿にした同胞達を見返してやりたいってのが、本音かもな。違うか?」

「く、腐ってないぴょン! この通り、ぴょンぴょンしてるぴょン」

「イヤ、そこは否定すんなよ。実際腐ってるし、手、もげてんぞ。しっかりくっつけとけよな。びーこもびーこだ、脳内お花畑も大概にしろよ? 普通に考えりゃ分かることじゃねーか。こいつはまともじゃない、そんなの餓鬼でも分かるぜ」



 ぐぬぬぬぬ、法楽英子許すまじ!!


 …… でも、実際のところ奴の言う通り。

 アタイはこの見た目のせいで、キョンシー仲間達から受け入れられていないのけ者。アタイのセンス溢れるあまりに未来的なこの姿は、仲間達からは嘲笑の的。アタイはそれが悔しくて、奴らを見返したくて、単身ここまで乗り込んできたんだぴょン。

 だが、それもこれまで。

 正体どころか素性まで地獄の門番に見抜かれてしまった今、作戦は完全に失敗。所詮アタイは出来損ないの腐乱死体。まともなキョンシーにすら成れなかった落ちこぼれぴょン。

 アタイは、アタイは…。



「そんな言い方はあんまりです英子ちゃん! 彼女がどんな姿であれ、見た目であれ、心はキョンシーそのものなんです。私達が信じてあげなくて誰が信じるって言うんですか。フランちゃんは立派なキョンシーさんです。それでいいじゃないですか。さぁ、私とお友達になりましょうフランちゃん。皆仲良く、平和が一番です。ね? ね?」

「あ、アタイのこと、キョンシーって認めてくれるぴょンか? こんな風に腐ってて西欧人でウサ耳のアタイを、キョンシーだって信じてくれるぴょンか?」

「勿論です。フランちゃんはとても良いキョンシーさんです。私が保証します」

「… うっうぅうう、うううう、あり、がとう。そして、ありがとう、ぴょン」

 

 そんなターゲットからの優しい声かけに対し、気が付けばアタイは、涙ながらに実にイイ声でそう言うのであった。 完。


 え? あれ? アタイ、一体何しにわざわざこんなところまで来たんだっけ?

 うーん。

 まぁいっか。

 キョンシーには良くあることだよNE★

 それに、アタイ今、何だか凄く晴れ晴れとした実に良い気分なんだぴょン。



「いやいやいや、良いのかこれで? つーか、なんなんだよ、この茶番劇は」



 …… そんなの、むしろアタイが聞きたいぴょン。



END



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