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第三十話 「Calling Me」

第三十話 「Calling Me」


 またまた今晩は、びーこです。

 こんな登場の仕方もかれこれ3度目ということで、いい加減新鮮味に欠けるなーと思う今日この頃。

 私は今、一人でお留守番をしています。


 あっ、誰ですか? 今、お前一人で大丈夫か? って言った人は。

 答えは勿論… 大丈夫だ、問題ない! です。 え? ネタが古い? え~、私の中では未だに絶賛大ヒット中のネタなんだけどなー。

 でもでも、私だって子供じゃないんです。お留守番くらい出来て当然です。


 ……… はぁーっ。


 いい加減一人語りも飽きちゃいました。あーあ、やっぱり一人は退屈です。

 英子ちゃん、早く帰ってこないかなー。



 唐突に部屋の電話のベルが鳴ったのは、丁度私がそんな事を考えていたときでした。



 英子ちゃんにはいつも馬鹿にされてしまうのですが、私はこの電話のベルの音が苦手です。

 部屋中に鳴り響く金属製のベル音が、どうしても好きになれません。

 ちなみに、この部屋の電話はダディの趣味のアンティーク調の木製電話。確かにお部屋の雰囲気にはぴったりなんですけどねー。



 

 でも、何より苦手なのが…… 真夜中に突然掛かってくる電話。


 

 英子ちゃんは、私には滅多に電話してきません。

 『そもそも一緒に住んでるんだし、お前がどこにいて何をしてるかなんて、大体想像出来るからな。電話する意味なんてねーだろ』というのが英子ちゃんの言い分です。うーん、それはそれで嬉しいような寂しいような… ってそんなこと考えてる場合じゃないですね。


 私は慌てて電話の受話器をとりました。

「はい、法楽です」

「あ、もしもし? オレオレ、オレだよ」

 随分慌てた様子の、何だか聞き覚えのない男性の声。

「あのー、どなた様でしょうか?」

 ちょっとだけ思案した後、受話器の向こうの相手様はこう答えました。

「いやいや、お父さんだよ。実は交通事故起こしちゃってさ、早急にお金が必要なんだよ。お母さんに代わってくれるか?」

 まぁ大変! 

 …… なーんちゃんて。このびーこ、見くびってもらっては困ります。幾ら私だって、それが嘘だって事くらい分かりますからねー。

 だってだって、日頃英子ちゃんに、ウンザリするほど言われていますから。

 『お前は騙され易くて信じやすい。詐欺被害者の素質がある』だなんて失礼な話ですよね? ね?

 それにしても、これはこれは型通りのオレオレ詐欺さんですね。

 

 私は、小さなため息を漏らしつつ、そのまま受話器をそっと戻すのでした。

 

 その時です。

 まるでタイミングを見計らったかのように、再び電話のベルが部屋中に響き渡りました。

 私は、大きく深呼吸して、気分を落ち着かせてから再び受話器をとります。


「はい、法楽です」

「……………」


 あわ、あわわわ。今度は無言電話さんです。

 こういうものって、何故タイミングが重なるんでしょうか?  

 そもそも、この部屋の電話が鳴ることは殆どありません。それなのに、たまに鳴ったと思ったらこの有様です。英子ちゃんだったら、こういう時どうやって対処するのでしょうか? そういえばこの前は、相手さんに向けて大音量でお経を流していたような…。

 

 私は、苦笑しながらそのまま受話器をそっと戻すのでした。


 あっ、そうそう。因みに、先ほどから私が口にしている「法楽」という名前。これは、何を隠そう英子ちゃんの苗字なのです。

 普段はこの苗字を使うというのが、この家での私と英子ちゃんのルールなんです。この方が何かと都合がいいからって。

 と言っても、英子ちゃん曰く『そもそもあたしの場合は名前も苗字も偽名』なんだそうですが。

 うーん、英子ちゃんの本名? それって知りたいような知りたくないような。

 私の場合、英子ちゃんと知り合ってからずっと英子ちゃんって呼んでますし、今更他の呼び方をするのも何だか変な気がします。


 二度ある事は三度ある。

 何だかもう一度くらい電話が鳴るかもしれない。私のカンがさっきからそう囁いています。自慢ではありませんが、私のカンって良く当たるんですよ? だって、ほら、ね?


 一人っきりの部屋に良く響く三度目のベルの音。私はちょっとだけうんざりしながら受話器をとりました。

「はーい、法楽です」

「……………………………」

 これはちょっと予想外。またまた無言電話さんです。今夜は悪戯電話のバーゲンセールなのでしょうか?

 何だかちょっとだけ怖くなった私は、ガチャンと大きな音を立ててすぐに受話器を置いてしまいました。


 はぁ。どうしよう。どうすれば良かったんでしょうか?

 何故でしょうか、何となくまた掛かってきそうな予感がします。ここは一つ、英子ちゃん流に私もお経でも流してみましょうか?

 でも英子ちゃんにみたいに上手くやれる自信はありませんし… だめだめ、ここで弱気になってはいけません。私には私なりのやり方が、私にしか出来ないやり方がある筈です。

 やはり、このままお互いに一方通行ではいけないと私は思うのです。次、もしもまた電話が掛かってきたら、私の思いのたけをぶつけてみようと思います。お互いに納得して理解しあえれば、きっとそれが一番の解決方法に違いありませんから。

 

 私がそんな決意を新たにしたその時、予想通り四度目のベルの音が部屋に響き渡りました。

 仮にも私はシスターの卵です。だからこそ、私は私の言の葉を信じて突き進むのみなのです。


「法楽です」

「………………… ワタシ、メリーさん。今、」

 あれ? 今何か仰ったような? でも一度決意した私は簡単には止まりません。

「いいですか? あなたの無言電話がいかに相手に迷惑をかけているか、どれだけ不安にさせているか分かりますか? あなたには思いやりが足りていません。相手の立場や気持ちになって考えてみてください。あなただって誰かにいぢわるされたら嫌でしょ? 私は嫌です。でもでも、英子ちゃんってばいっつもいぢわる言うんですよ? 酷いですよねー? 誰にだって好き嫌いくらいありますもんね? ってごめんなさい、少し話が逸れちゃいましたね。つまりですね、私が何を言いたいかと言うとですね、ほんの少しでも、人間同士がお互いに思いやる気持ちを持つことが出来たら、この世界から争いや犯罪、戦争だってきっと無くなると、私はそう信じています。だからこそ、まずは私達が気持ちを通わせ、互いに思いやることが出来たらきっと素敵で素晴らしい一歩になると思いませんか? だからもう、無言電話なんて止めましょう? ね? ね?」

「え? エエ。ハイ。す、スミマセンデシタ」


 やった! やりました。私の言の葉が受話器の向こうの無言電話さんの心を動かしたんです! 流石私です。どうですか英子ちゃん! 私だって日々シスターとして成長してるんですよ?


 私は、今日初めて気分良く受話器を置くことが出来たのでした。ちゃんちゃん。


          ◆


「びーこ! 無事か! ……… って何だよ、全然何ともなさそーじゃねーか。あたしの勘違いか?」

 

 先ほどの無言電話さんから約10分後。何故か息を切らした英子ちゃんが大慌てで私達のマンションへと帰ってきました。


「おかえりなさい英子ちゃん。どうしたんですか? そんなに息を切らせて」

「あー、いや。なんつーか、びーこに魅せられて引寄せられた馬鹿の気配がしたよな気がしてさ、急いで戻って来たんだけどな」

「私は何ともありませんでしたよ? 心配性さんですねー、英子ちゃんは。でもでも、それより聞いてください。私、無言電話さんを改心させちゃったんですよ。どーです、凄いでしょ?」

「…… はあ?」


 こうして、私のお留守番は幕を閉じたのでした。

 こんな私でもこんな形で世の中のお役に立てるのでしたら、たまにはお留守番も悪くないですよね? ね?

 


END


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