第二十五話 「サボりたい時がサボり時」
第二十五話「サボりたい時がサボり時」
目を開けると、眼の前には体温計と氷枕を持ったびーこが、心配そうにあたしの顔を覗き込んでいた。
何だ? 何だこの状況?
何であたしの部屋にびーこがいるんだ? つーか、あたしは何やってんだ?
冷静に周りや眼の前のびーこを観察すると、どうやらあたしはそのびーこに看護されていたのだという事が分かる。
直後、あたしの脳内にメデューサとの死闘が一気に蘇る。
ああ、そうか。どうやらあたしはまた、びーこの奴を心配させちまったらしい。
状況が飲み込めたあたしは、眼の前で何故かニコニコしているびーこに語りかける。
「よぅ、びーこ。わりぃな、また手間掛けさせちまったか」
「なーに言ってるんですか英子ちゃん。私が英子ちゃんの看病をするなんて当たり前じゃないですかー。水臭いなーもう」
嬉々としてそう語るびーこ。そんな彼女に、あたしは更に突っ込んで質問する。
「そうか? ところでびーこ。あたしはどれくらい寝てた?」
「そうですねぇー。英子ちゃんがあのメデューサさんをやっつけてから丸々一日ですね。でもでも、安心してください。蛇さんの毒は一過性のもので、後遺症や命に別状は無いみたいですよ? それに、私がずーっと看病してましたから。えっへん」
…丸々一日か。流石はバケモン。いや、相手のレベルを考えれば、むしろ一日程度で済んだのが不思議なくらいだ。
でもそうか、あの神経毒は抜けたのか…。
だが、あたしが声を大にして言いたいのはそんな些細な事じゃない。それは勿論
「びーこ、お前今、一日中あたしの看病をしてたって言ったよな? あたしの認識が間違ってんのかもしれねーから一応確認しとくが、昨日も今日も平日だよな? な?」
そんなあたしの問いかけに対して、露骨に視線を逸らすびーこ。
「あ、あいどんのー。私、ガイコクジンだから日本語、ワッカリマセーン」
成る程。何て分かりやすい奴。
つまりはびーこめ、学園、サボりやがったな?
「ふざけんな! てめーはそんな見た目に反して、日本語しか喋れねーだろうが!」
あはは、と苦笑いのびーこ。
と、まぁ、本来ならこのまま続けて説教モードに突入したいところではあるんだが、いかんせん事情が事情だ。
今回は、あたしにも非はあった。実際こうして看護されてるわけだし。
それに、びーこの気持ちも分からなくは無い。
「私は、まだまだ英子ちゃんのように強くありません。いくら英子ちゃんに護られっぱなしの自分を卒業したいと思っていても、現状はまだ以前と何も変わっていない。だから、だからこそ。その英子ちゃんが怪我をしたときくらい、私に護らせて欲しい。そう思ったんです」
そう言ってその目を潤ませるびーこ。
…ちっ。
やっぱり分がわりーな。こういうのは苦手なんだよ、あたしは。
あたしは顔を見られないようにあえてびーこと逆の方を向いて言う。
「びーこ。氷枕、取り替えてくれるんだろ? それ」
「あ、はい。勿論です! 私が用意したんですよ? 私が」
「はいはい。分かったからとっとと取り替えてくれ」
ま、あたしもこんな状況だったしな。
びーこの馬鹿親、失礼、親バカな両親があたしの代わりを寄越したんだろうが、こいつはそれを拒否して、丸一日あたしの看病をしてたってわけか。
「この包帯もびーこが巻いてくれたのか?」
「えへへ。授業で習いましたから。どうですか? 結構上手でしょ」
「… ところでびーこ。今日の授業予定は何だったんだ?」
「はい。ひたすら校外マラソンで体力づくりです。もう、ズル休みしたくもなりますよね? …… あっ」
ったく、しょーがねー奴。
……… 今回だけは、大目に見てやるけどな。 本当、やれやれだぜ。
END