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第二十二話 「ミイラは一日にしてならず」

第二十二話 「ミイラは一日にしてならず」


「うぉわっ」


 いつものようにびーこを引き連れての学園からの帰り。

 いつものようにマンションのドアを開け、いつものように部屋の中に入ると、そこにはとある不法侵入者が居た。

 

 まぁ、それすらいつものことなんだが。


「わー、包帯男さんですね?」

 包帯男? 成る程、そりゃ惜しいが違う。

「ちっと違うぜ。あれはな、俗に言うミイラ男って奴さ」


 恐らく、びーこに惹き付けられてこんな日本くんだりまでやってきちまったんだろう。

 まったくもってご苦労なこった。

 

 あたしは、いつものように部屋の隅に置かれたバッドを手に取り、構えたものの…… ふと、とある考えが脳裏をよぎり、その構えを解いた。


 ミイラ男。

 こういっちゃ何だか、雑魚中の雑魚。

 特筆した殺傷能力を持ち合わせていないし、動きも鈍く、耐久力も低く、脆い。

 言うなれば、あたしにとって羽虫を潰すようなレベル・感覚である。

 

 だが、びーこにとってはどうだろう?

 ……… つまり、あたしが何を言いたいかといえば。


「びーこ。丁度いい機会だ。あのミイラ男、お前が屠れ」

「はい! ………… え? ええ? ええええええええ」

 部屋内にびーこの叫び声が木霊する。ったく、うるせーなー。

「言ってたじゃねーか、あたしに頼りっきりの自分から卒業したいって」

「た、確かに言いましたけど、だって、だって」

「でももだっても禁止だぜ」

「そんなー。まだ心の準備が出来ていないといいますか、何といいますか」

 この期に及んで及び腰とは、びーこのやつは相変わらずだ。

 だが、ここで変わらねーといつまでたっても一歩を踏み出せない。

 びーこ風に言うなら、ローマは一日にしてならずってやつさ。

「まぁ、そう身構えるなよ。何かあったら必ずあたしが助けに入ってやる。だから、まずは一人で何とかしてみな。びーこの思うようにやってみればいい」

  

 いつもと違うあたしの真剣さが伝わったためか、びーこは覚悟を決めたように一度大きく頷くと、あたしたちの前方のミイラ先生を改めて直視した。

 ふん、やっぱりいい眼つきをしやがるじゃねーか。


 びーこには才能がある。

 それはもう、全世界の霊能力者達が揃ってドン引きするくらいの才能がある。

 実用的な業や知識は学園側が提供してくれる。

 つまり、今のびーこに足りないのは…… 経験と心構えだろう。

 それを補う事こそ、つまりはあたしの大切な仕事の一部なのである。


「つーんだ。分かりました。私の実力ってやつを英子ちゃんに見せてあげますからね」

「いいねー、その意気だ」

 びーこはカバンからゴソゴソと大量の退魔関連グッズを取り出し、のろのろとこちらに歩み寄るミイラ先生に向かっていった。

 

 よし、頑張れびーこ。

 お前なら出来る、はず。



          ◆



 ……………… どうしてこうなった?



 

 あれから数十分。

 あたしの眼の前では、とある奇跡が起こっていた。


 何と、一体だった筈のミイラが二体に増えたのだ。

 なんてミラクル。ああ、やっぱりこの世ってのは不思議な出来事で溢れ返ってやがるってわけだな? 流石のあたしも、不覚にも感動しちまったぜ!


 って、アホか!!!!!!!!!!


「びーこの大馬鹿野郎! てめー、ミイラ取りがミイラになってどーすんだよ!!」


 この諺のこれ以上ナイスで的確な使い方を、あたしは知らない。

 恐らく、あたしの人生の中で、もっと的確なタイミングでの使い方だろう。


 って、知るかよ!!!!!!!!! 


 あたしもなんで冷静に、んなくだらねーこと考えてんだよ。

 駄目だ、なんつーか、駄目だ。

 流石はびーこ。あたしの想像の斜め上を、軽々と飛び越えてくれる。つーか飛び越えすぎ。むしろそのまま太陽に突っ込んで死んでるレベル。

 まぁ、今はこれくらいが限界だろう。


 あたしは、包帯ぐるぐる巻きになったびーこを引きずり、手繰り寄せ、その包帯を解いていく。

「っぷぅはぁあああ。はぁはぁ、く、苦しかった、です。ミイラ男、侮りがたし」

「ギブアップか? まぁ、びーこにしちゃナイスファイトだったと思うぜ?」

「冗談。英子ちゃん、私は、今、猛烈に燃えてきちゃいました。逆に火がつきました」

 お、おお。

 びーこが燃えてやがる。珍しい事もあるもんだぜ。

 あたしとしちゃ、こんな姿を見れただけでも成果はあったと思うわけだが、ここはびーこのやる気ってやつに期待してみようじゃねーか。


「一つ、思いついたといいますか、試してみたい事があります」

 そう言うと、びーこは件のミイラ男の全身に巻かれた包帯のほつれた一部を手に取った。

「むっふっふー。覚悟してくださいね、包帯男さん?」 

 直後、びーこが長く伸びた包帯を強引に引っ張り、ミイラ男をくるくると回転させながら包帯を解き始めた。

 イメージとしちゃ、時代劇なんかの悪代官の定番、よいではないかーってやつ。

 ま、あたしの見た感じとしちゃ、トイレットペーパーをからからと思い切り引っ張ってるようにしか見えねーが。


 いずれにしても、どうやらびーこは、包帯男の包帯を全部剥ぎ取っちまおうって考えらしい。


 ………… たかがミイラ野郎一匹屠るにゃ随分とメンドクせー、回りくどいやり方だが、悪くない。悪くは無い。

 実にびーこらしいやり方。

 そう、それでいいんだ。


 最後の一切れまで包帯を剥ぎ取りきったびーこ。

 ミイラ男は、とうとうそのカラカラの体を完全に露出させた。


 そして、音も無く、消え去る。


「ミイラ男ってのはよ、あくまで包帯あってのミイラ男なんだよ。この包帯に守られてねーと、この世に魂を留めておけねーってわけ」

 果たしてその事をびーこが知っていたのか、はたまた偶然だったのかはさておき、これで一先ずミッション達成。

「やったな、びーこ。お前はやり遂げた。自信を持って良い」

「ふふん。私の実力を持ってすれば当然ですよー。えっへん。ところで、英子ちゃん。この包帯、トイレットペーパーとして使いますか?」 

「誰が使うか! つーか、てめーはあたしを何だと思ってんだよ! せっかく良い感じに終わったと思ったのに、どうにも締まらねーじゃねーかよ。ったく」


 びーこが一人前になる日も、そう遠くは無い……… はず。

 あたしは心の底からそう願いながら、びーこの頭を二度三度と撫でるのであった。


END


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