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第十八話 「ダジャレ好きに悪い奴はいない」

第十八話 「ダジャレ好きに悪い奴はいない」




 皆さんこんばんは、びーこです。


 誰ですか? 今、露骨に嫌そうな顔をした人は。

 もう! 英子ちゃんじゃなくて残念でしたー。べーっ。


 ……凄く、虚しいです。


 でもでも、独り言くらい許してください。

 何か喋っていないと、私、可笑しくなってしまいそうだから。


 だって、だってぇええー。


 だーーーれも、いないんですもん。

 

 しんと静まりかえった学園内。

 誰も居ない教室。

 見当たらないクラスメイト達。

 いつまでも始らない授業。

 やって来ないいぢわる先生… あっ、それは別にいいんですけどね。

 

 そういうわけで私は、教室で唯一人、ぽつんと席に座って待ちぼうけをしているのでした。

 可笑しいです。こんなの絶対可笑しいです。

 英子ちゃんだったら絶対に、やれやれだぜー とか言ってるレベルです。

 うーん、今日は皆さんお休みなのでしょうか?

 皆さん風邪をひいちゃったとか?

 それとも学園に行くのが億劫になってしまったのでしょうか? 分かります。私にはその気持ちが良く分かります。

 私も日曜の夜などには英子ちゃんに…… あれ? そういえば今日は、何曜日なのでしょうか?

 何月何日の何曜日の何時ごろ? 


 私は、慌てて教室内の時計やカレンダーを探しますが、何故か一向に見当たりません。


 待って、待ってください。

 私はいつからここにいるのでしょうか? どうしてここにいるのでしょうか?

 

 そもそも私は、学園にいるにも関わらず制服を着ていません。部屋着である諺Tシャツを着ています。

 ちなみに今日の諺は「天を怨みず、人を咎めず」です。とってもステキな諺ですよね? ね?


 … ごほん。ちょっとだけ話が脱線してしまいましたが、これは明らかに変です。

 もう何もかも変です。あべこべです。

 英子ちゃんのパジャマくらい変です。

 

 だからといって、このまま何もしないでいるわけにはいきません。

 例え寂しくても、怖くても、虚しくても、泣きたくても、立ち止まっているわけにはいきません。

 だって私は、英子ちゃんに頼りっきりの私を卒業すると心に誓ったのですから。

 

 だから私は、涙を拭いて椅子から立ち上がったのでした。

 

 とはいえ、何のプランも無い私。

 一先ず学園の外に出てみたものの、やっぱりだーれもいません。しんと静まり返った、まるで映画のセットのような町並み。

 世界はこんなに広いのに、ここにいるのは私だけ。 

 私一人に、この世界は広すぎます。

 やっぱり、私の隣には英子ちゃんがいてくれないと。

 

 だから私は、私と英子ちゃんのマンションを目指す事にしました。


 いつもは英子ちゃんと二人の登下校。 

 だけど、今日は私一人の帰り道。

 誰もいない道路を一人で歩くのは確かに寂しいですが、やっぱり隣に英子ちゃんがいないのが一番寂しいのです。


 普段からお嬢様ーとか、天然なんて、さんざん英子ちゃんに馬鹿にされていますが、私だって帰り道くらい知ってます。

 英子ちゃんに護られなくても、私一人でも安全に帰れます。


 だって、私以外にはだーーれもいないんですから。


           ◆


 どれくらい歩いたのでしょうか? 

 時計もないし、そもそも誰もいないので時間を尋ねることも出来ません。おまけにどれだけ歩いても雲一つ動かない、可笑しな空。


 英子ちゃんは、神様を信じていません。

 例え神を信じていなくても、地獄はある。それが酔った時の英子ちゃんの口癖です。

 もしかしたら私は、その地獄という場所に紛れ込んでしまったのかもしれません。


 そんな諦めにも似た思考が、私の脳内を占拠し始めたその時、私の眼の前に見慣れたマンションがその姿を現しました。

 ああ、天国はここにあったのですね?

 私は、それまでの疲れが嘘のように全力疾走でマンションの入り口へと駆けました。 


 幾つかの暗証番号と指紋入力のセキュリティを超えて、私は、とうとう私達の部屋へとたどり着きました。

 私は、震える手で恐る恐るドアを開きます。

 もし、もしもここに英子ちゃんが居なかったら? 

 ううん、駄目。悪い方にばかり考えてしまうのは私の悪い癖。


 私は、勢い良くドアを開き、部屋の中へ進入しました。

 

 いない。英子ちゃんがいない。どこにもいない。

 私は、今日ほどこのマンションの広さを怨んだ事はありませんでした。

 そして、最後の一部屋を探し終わり、私は絶望を携えリビングへと戻りました。 

「英子ちゃんが、どこにもいません。私は、私は、やっぱり一人ぼっちなんです。世界に一人だけ。ここはきっと、私の地獄なのですね」

 孤独と静寂。

 それは、私に対してあまりにも皮肉な世界。

 絶望に支配された私は、その場で蹲り声を上げて泣きました。


 その声は、正にそんな瞬間に聞こえてきたのでした。


「いや、その考え方はあながち間違っちゃいねーぜ、びーこ」


 ああ、何て懐かしく暖かい声なのでしょうか。

 私は、その声に導かれるかのように、ゆっくりとその意識の糸を手放していったのでした。


          ◆ ◆ ◆


 あたしは、紅く煌くナイフを床に放り投げ、びーこの体をソファーに横たえた。

 びーこのやつ、何とかこっち側に戻れたらしい。

 ったく、やれやれだぜ。心配と苦労ばっかりかけさせやがって。


 「セカイニヒトリダケ」


 何の事は無い。全てはびーこが採ってきたこの怪しげなキノコが原因だ。

 まぁ、名称は今あたしが付けたんだけどよ。悪くないだろ?


 それはそれとして、つまり、事の顛末はこうだ。

 いつものごとく、その才能と収集癖を遺憾なく発揮し、怪しさ120%のキノコを拾ってきたびーこ。

 あたしが発見したときには、既にそいつを食っちまった後で、びーこは床にぶっ倒れながら、うんうんと独り言を延々と呟いている始末。


 そんなびーこの独り言によると、このキノコ、食った人間の脳みそを孤独と静寂の世界へと連れ出しちまうって代物らしい。

 ある意味天国と言えなくも無い世界だが、どうやらびーこにとっては地獄だったらしい。

 

 つーわけで、どう考えてもびーこの迷惑この上ない才能が惹き寄せたこの異端なキノコを解毒ならぬ、取り除くため、あたしは件のシリアルキラーに放ったのと同じ紅の煌きで、びーこの中の異端、つまり、キノコの作用を取り除いてやったってわけだ。


 脳内の話だったとは言え、あいつもこれでちったー懲りただろう。これからは、こういうバカげたフリーダムかつ自由人すぎる行動は自重してくれるとありがたいんだがなぁ。

 …… と、思ったが、やっぱり今回もその望みは薄いかもしれない。

 

 こんな満面の笑みを浮かべて寝ている奴が、反省なんてしてるわけねーもんな。

 

 まったく、先が思いやられるぜ。


END


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