作者失格
頭の中に響く声に耳を塞ぎ、ひたすらにペンを執った。誰かに愛してもらえるような、そんな物語を書けるって、こんな自分でも何かになれるんだと証明したくて、ただ、ひたすら、闇雲に、書いて、書いて、書き続けた。
脳内にある傑作は、書いてみたら駄作で、頭の中だけでは立派な俺は、現実では何もできない、何もなせない、何処にでもいる凡人でしかない。
親指の爪を噛んで、もう片方の手で画面をスワイプする、タイムラインに流れるバズった呟きは、どれもこれも似た顔をして、似たような内容で、時に人は共感され、時に人は煽られる。
「くだらない、くだらない、これも、これも、これもこれもこれも、全部全部くだらねぇ!」
ガシガシと頭を掻いてため息を吐く。描いてみた絵は子供の落書き以下で、歌ってみた歌は聴くに堪えず、書いてきた小説はまるで読まれない、自分に才能があるだなんて口が裂けても言えなくて、何も出来ないなんて認めるくらいの素直さもなくて、何もかも何やっても何もうまくいかない。
「俺の何がだめなんだ……」
そう呟けば、ほらまた、幻聴が俺の何が駄目かを挙げ連ねる。若さすらもう既に失った俺は、若さも才能も手に入れた、努力家なんて言う、何もかも手にした奴らと、同じ土俵で戦わされる気になっている。分かってる、分かってるさ、俺はその土俵にすら立ててない、ただ場外で喚いてるだけの卑怯者だ。誰かの言葉が、自分の言葉が、心に突き刺さる、胸の奥に汚泥のように溜まっていく。息ができない、苦しい、俺に何がある? 俺に何ができる? 何もない、何もできやしない。
何をやってきた? 何ができた? 何を頑張った? 何を作り出せた? 何を、何を、何を、何を……。頭の中を埋め尽くす何か、これは誰のだ? 俺のか? 強い言葉で話せば誰か聞いてくれるのか? 媚を打ったら振り向いてくれるのか? 俺の作品を愛してくれるのか? 口の中が血の味がしてハッとする、ボロボロになった爪から、だらりと血が滴り落ちた。乾いた笑いが口から漏れる、重い体を起こして、一歩一歩足を無理に持ち上げて歩く。
洗面所の前に来て蛇口をひねる、傷口に染みる水が赤く染まっていく、ふと鏡を見上げた。虚ろな目をした自分の顔が、薄ら笑いを浮かべている。
『なんにもやってないだけじゃない?』
どこかからそう聞こえた気がした、鏡の中の口がそう動いた気がした、唖然として、呆然して、怒りに任せて鏡に向かって拳を振り下ろした。割れた鏡の中、俺が、俺を笑っている。




