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第19話 私は王の剣 〜トワリ vs.ナカヤマ=バーグ師匠

「お馬さんたち、頑張ってください――」

 

 俺とミシュリーが降りた後もなお、トワリの()る馬車は目的地を目指して走り続けていた。

 

 孤独な爆走。

 目印にしていたオーロラ魔法の光は、もうだいぶ消えかかっている。しかし、間違いなくビーフシチュー城へと伸びている。

 目指すは、囚われのまーくん――


 一方で、トワリは後ろから不穏分子が近づいているのもわかっていた。

 それは彼女の五感が異常に鋭いからではなかった。

 ()()()が100〜300m単位の瞬間移動を繰り返す度、彼の持つ楽器の音が轟くので、嫌でもわかるのだ。


 ッカァーーーーーーーーーッ!!!


 ビーフシチューの三賢者が一人――筋肉カウボーイのナカヤマ=バーグ師匠。

 楽器の名は「ビブラスラップ」。これは現世にもあったやつだ。

「キハーダ」という民族楽器をもとに生み出された、独特な音のする現代打楽器。

 バーグ師匠はそれを鳴らしながら瞬間移動を刻み、不敵な笑みを浮かべながら馬車に近づいてくる。


「あと4回……」

 トワリは己の野性的な感覚で、彼が追いつくまでの残り回数を瞬時に理解していた。


「……ここまでですね。お馬さんたち、ありがとうございました」

 そう言うと、大通りを走る馬車の御者台で立ち上がる。

 そしてその異常な体幹をもってその場で勢いをつけて踏み切り、バック宙をして馬車の屋根の上に跳び乗った。


 彼女は着地姿勢のまま前方を見据える。 


 ッカァーーーーーーーーーッ!!!


 あの音が鳴り響いた。


 瞬間、馬車の数十メートル先に、ナカヤマ=バーグ師匠が忽然(こつぜん)と姿を現した。


「この道も変わらねえなぁ! 俺だよ! バーグ師匠だよ!!」


 突如現れた人影に馬たちは驚き、それぞれが左右に避けようとする。

 

 トワリは胸から小さなエターナルドスを取り出した。手に取った瞬間、やはりトワリの瞳は紅く染まる。

 彼女はドスを元の大きさに戻し、鞘だけを胸にしまい直した後、(なめ)された革でできた硬い馬具を、思い切りパァンッと断ち切って、2頭を逃がしてやった。

 そしてそのまま前進し続ける馬車本体の上で、立ち上がって戦闘態勢をとる。


 ――馬車が大きめの石を踏んでガタッと揺れた。

 その揺れに合わせるようにして、トワリは勢いよく前方に跳び上がった……!


 バーグ師匠もまたそれに応えるように、右腕に力を溜めた。


 ギギィィンッ!!

 ギュリリリィィィッ!!


 なんとバーグ師匠は、トワリが全力で振り下ろすドスの(やいば)を、右手に持つ楽器一本だけで受け止めてしまった。

  

 いや――それは楽器であって、楽器ではなかった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()――!


 バーグ師匠はそれを、両手に一丁ずつ持っている――!

 つまり彼の愛銃は、世にも珍しい「ビブラスラップ2丁拳銃」であった。

 ……ちゃんと照準合わせられるのかな。


「……っ!」

 銃身に纏う赤茶色の魔粒子が、ドスと擦れ合って火花を散らしている。

 一方で魔粒子の質は濃厚で、まるでトワリの放つ鋭い剣気をドロっと飲み込んでしまうようであった。


 バーグ師匠はトワリのドスを防ぎながら、余裕のある表情で話しかける。 

「トワリちゃんだっけ?ドスなんて、物騒な武器持ってるねー。でもさぁ、ドスって『突き』がメインの武器じゃなかった? 使い方がなってないんじゃない?」

 さっそくトワリの戦い方に物申すバーグ師匠。

 

「――それを言うなら、銃は楽器ではないですし、銃身はドスを受け止める場所ではありません」

「違いないね」

 

 トワリはビブラスラップ銃を破壊しようと、両手に力を込めて押し切ろうとする。が、銃身はトワリの力でもびくともしなかった。

「……魔具ですね?」

「お互いにね」


 バーグ師匠は左手側の銃をトワリに突きつけ、至近距離から彼女を撃とうとした。

 トワリはバーグ師匠の早撃ちよりもさらに早く動く。エターナルドスの刀身をずらし、真横からの太刀筋で、彼の脇腹を狙う。

 さらにその時、バーグ師匠は発砲をやめ、筋肉を揺らすことで、左手の銃のビブラスラップ部分を鳴らした。


 ッカァーーーーーーーーーッ!!! 


 刹那の攻防の(のち)、そこにいたはずのバーグ師匠の存在がパッと消えた。

 トワリのドスは、誰もいなくなった空を切る。


 バーグ師匠はどこに行ったか――


「……いや、ホントは俺さー? もともとは同じ銃使い同士、まーくんと戦う係だったんだよねー」

 トワリの、後方30mの位置から、彼の声が聞こえた。

 まーくんが銃使い(ガンナー)だという、初出し情報とともに――

 

「まさか果ての森の罠なのに、()()()()()()()まーくんがかかるとは思ってなかったよ」

 

 トワリは彼を一瞥する。

 そして間髪入れずに再びバーグ師匠を狙う。彼女は戦闘時の「いつものスピード」で、瞬時に彼に近づき、横一文字にドスを振った。


 ッカァーーーーーーーーーッ!!!  


 またも空振り。


 バーグ師匠は今回も、間に合うように楽器を鳴らして瞬間移動した。


「……いい反射神経ですね。それともその魔具のおかげでしょうか」

 

 バーグ師匠はトワリの質問には答えず、不機嫌そうに話を逸らした。

「君の強さもわかるんだけどさぁ。知ってる?『銃は剣よりも強し』って言葉。ただでさえ銃の方が強いのに?俺はもう、君を間合いに入れさせないときたもんだ。あー、こりゃ詰んだね」

 彼は右手のビブラスラップ銃を、器用にくるくる回している。


 トワリはもう一度彼を攻撃しようと、今度はバーグ師匠の背後に回る。

 しかし結果は変わらない。バーグ師匠はまたビブラスラップを鳴らして移動した。


「その魔具の効果。高速移動ではなく、ワープですね?」

「そうだよ? だから、君のドスとは格が違うってわけ」


 近距離対遠距離――

 トワリにとっては、かなり相性の悪い戦いだろう。 

 まだ短い付き合いとはいえ……あのトワリがこんなに苦戦しているのを見ることになるなんて。

  

 バーグ師匠はわざわざ岩の上に立ち、トワリを見下ろしてみせた。

 

「それにさ?甘く見られたもんだよね」

 彼はトワリのドスを指差す。

 

「君、()()()()()()()()

 トワリは顔色を変えずに、バーグ師匠の言葉を聞く。

 

「太刀筋から、まっったく殺意が感じられないんだよね。しかも何?さっきの。峰打ちだろ?君――『斬る』ことを自分に禁じてるだろう」


「…………」


 バーグ師匠は黙っているトワリを見て、呆れたような表情をした。

「まぁいいや。弱い分には楽できるし。俺の『デミグラスジャンプ戦法』で殺してやるからさ。せいぜい抵抗してね」


 トワリは警戒を強める――


 バーグ師匠は大きく息を吸うと、空に向かって叫び声を上げた。


「パワーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」


 彼は左右両方のビブラスラップを鳴らした。

 するとバーグ師匠は、現れる位置をコンマ数秒ごとに変えながら、至るところにワープをし続けた。


 トワリはそれを目で追う。が、少し眉をしかめた。


「喰らいなよ、俺の愛銃――『デミグラス』たちの弾を。空気が煮詰まっちゃうよー?」

 バーグ師匠の声は四方八方から聞こえてくる。


 そして――


 ドン! ドドン! ドドン! ドン!


 各所からの銃声。


 トワリはその銃弾に反応した。


 1つ2つ3つ――

 銃弾は、弓矢など比較にならないほど速い。彼女はそれさえも、ドスで弾き落とす。


 5つ6つ――

 7つ目――


 1秒にも満たない短時間に、トワリは7つもの銃弾を弾いた。


 信じられない能力――だが、そのトワリでも――

 

 ブシュッ! ブシュシュッ!


「足りませんでしたか……」

 左右合わせて12発。残りの5発の弾のうち、3発がトワリの左肩、右脛、そして背中へと向かってきたのだ。 

 彼女は致命傷になる背中への攻撃を何とか避けた。

 しかし、左肩と右脛からは血が流れている。


「うっひょー!信じらんないね。7発防いだ上で、1発避けやがった!たまんないねえ!!!」


「悪趣味な人……」


 さて、どうしたものかと、トワリは考える。

 このまま同じことを続けても埒が明かない。

 間合いが詰められない以上、ドスでの攻撃は、バーグ師匠に届かない――


 おまけに彼がワープした軌跡には、ドロリとした茶褐色の魔粒子が、まるでソースのように空中に停滞している。それが空気の抵抗を異常に重くして、トワリの視界と移動を妨げた。

「本当にデミグラスソースのようですね」

 戦いが長引けば長引くほどこの魔粒子が蔓延し、どんどんトワリが不利になるだろう。


「そんなこと言ってる場合かよ!!!パワーーーーーーーーーッ!!!」

 バーグ師匠のワープが始まる。

 トワリを狙う銃声と、トワリが銃弾を弾く音が、同時に鳴り響く。

 ドドギャン!ドギャドンギャン!ブシュッ……!!ブシュッ!!!


 またも被弾――

 急所は避けていても、銃弾により、一部の肉が抉れてしまっている。

 

「装填もワープ中に済ませているのですね……困りました」

「おいおい、なんで致命傷は全部防げるんだよ! すげえなっ! けど、いつまで持つかな!?」


 ◆◇◆


 それから数分、トワリはバーグ師匠の銃弾を弾き続けたが―― 

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……っ」


「うわぁ……その姿……可愛い顔が台無しだよ。早く諦めて降参しようぜ?そしたら殺しはしないからさー」


 血塗れのトワリ。

 特製の白と黒のメイド服は、見るも無残な、赤と黒のメイド服に変わってしまった。


 しかし彼女は、決して膝をつかない。


 それが彼女のアイデンティティだから。



 トワリはこの状況でも、勝利への方程式を探し続けた――

 どうすれば、()()()()()()()()()()

 

「そんなに血が出たら、貧血で倒れちゃうぜ?ほら、諦めよう!魔女と王様もいるんだろ?君ひとりが休んでも平気だよ」


 この時、トワリは考えたという……。


 血。魔法。ドス。楽器の音。


 瞬間移動。ワープ。銃。問題はその速度……。


 

 すると、トワリの顔が、突然パァッと明るくなった。

 

「――――あっ!そっかあ!」

 

 彼女は、ボロボロの身体に似合わない、素っ頓狂な声を上げた。


「なんだ……?」

 さすがのバーグ師匠も警戒し、両手の銃を構えた。

  

「なーんだ! 簡単なことでした!」


「君……何言ってんの……? 死にそうな身体でさ」

 バーグ師匠はいつでもビブラスラップを鳴らせるように準備している。


 トワリは陽気な声で話し続ける。 

「知っていますか?魔法って、術者の『血』で発動するんです」

 トワリは笑顔だ。

 

「当たり前だ。そんなの……常識(じょうし)……!?」

 バーグ師匠は言い終わる前に何かに気づいた。



「まずいっ!!! パワーーーー!!!! ヤーーーーーっ!!!!」

 バーグ師匠は瞬間移動を始めた。


 トワリは、ドスを持った右手を後ろに引き、腰を落とした。


「血で発動するのは魔具も同じ。あなたの位置は、ずっと追えていました。でも、攻撃も防御も、エターナルドスの速度をもってしても間に合いませんでした」

 トワリは早口になり、もはや、楽しそうな表情を浮かべている。

 

「そう――()()()()()()――」


 何度も言うが、トワリは今、全身血塗れである――

 

 そのトワリの血液が、重力に反して下から上に流れ始めた。

 手足の傷口は、まるで沸騰するようにぐつぐつしている。噴き出した血が周りの魔粒子と反応し、トワリの身体能力をさらに高める。

 

 バーグ師匠の銃声が響く。

 だが同時にトワリもその場から消えた。


「……そんな……バカな」

 辺りにはバーグ師匠の「デミグラス魔粒子」が蔓延しているはずだ。

 なのにトワリはそんなものは無視して、()()()()()()()()速く動いている。

 

 この時、バーグ師匠は、人生最大の恐怖を味わったという。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――

  

「あはは! あなたが楽器を鳴らすよりも速く動けばいいだけだったなんて!」

「く、狂ってる……!!」


 バーグ師匠は覚悟を決める。

 正面に現れるなら、正面を撃てばいいだけだ。


 彼は銃を構えようとした。


 しかしトワリは、その時を待っていた。


「私は王の剣――」


「王の意に従い――非殺を貫く――決して折れない――」


「剣です――」

 

 トワリはバーグ師匠が引き金を引く前に、銃口に向かって、渾身の「()()」を放った。

 

 バキバキバキバキバキ!!!

 

 噴き出した鮮血は紅い閃光へと変じ、バーグ師匠の銃を破壊する――!!

 銃の内側までは、防御のための魔粒子が行き届いていない……!! 


 常人では何が起こったか全く理解できないだろう。

 2つの赤い閃光が、バーグ師匠の2丁拳銃をほぼ同時に貫いたと思うと、その閃光の向こうに、既にドスを鞘に納めたトワリが立っていた。


「『突きが強い』と教えていただき、ありがとうございました」


 バーグ師匠の魔具が破壊されたことで、辺りのドロっとした魔粒子がジュウウウウッと音を立てて消えていく。

 

「ああああああっ!!!! 俺の……俺の『デミグラス』たちがあああああ!!!」

 バーグ師匠は、大切なビブラスラップ2丁拳銃を破壊され、その場に崩れ落ちてしまった。


「大事なものでしたよね……壊してしまって、ごめんなさい……」

 トワリは両膝に手を当てながら、前屈みでバーグ師匠に謝罪した。

 ――いやいやいや! あなたまだ血塗れですけど!?? この男に肉を抉られましたけど!??? 謝るのはバーグ師匠の方だろ!!!

 

「『()()よりも強し』かよ、ちくしょう……」

 バーグ師匠は完全に戦意を喪失していた。

 

  

「ところで――」

 トワリは、自分の大怪我など意に介さないかのように、ニヤニヤしながら喋りだした。


「私のさっきの技の名前は、血塗られた乙女(ブラッティ・マリー)なんてどうでしょう!」


 トワリの、今日一番の満面の笑み。

 彼女は得意げに、フフンと鼻を鳴らした。

 

 バーグ師匠は、口をポカンと空けたままで、それ以上は何も言えなかった。


 




 

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