第13話 ミシュリー=ミシュリーヌの炎のチャレンジャー2!これができたら一騎当千!! 〜電撃!イライラバーの巻〜(3)【第一章 完】
人生には、生きているうちに一度は言ってみたいと思う言葉がいくつかある。
俺はこの日、そのうちの一つを言うことができた。
「知らない天井だ――」
――いや、よく見たら知ってる天井だった。
玉座の間のそれよりは小さいけれど、意匠を凝らしたシャンデリアが取り付けられている。
一方で、何かの跡を補修したような不自然に新しい石材や、逆に、謎に古めかしく石が黒ずんでいるところがある。
3日前から俺が寝泊まりしている「国王の寝室」だ。
「いや、まだ4日目かよ!!! 濃すぎか!!! ……つっ……痛ってぇっ!!」
俺は叫びながら、ベッドの上で飛び起きた。
左腕がズキンと痛む。
そうだった。俺は「電撃イライラバー」で無茶をやった結果、その場で倒れてしまったらしい。
「あら、こんばんはコトブキちゃん。気がついたのね。よかったのよ」
ベッドの横にはミシュリーが座っていた。
「こんばんは……? ってことは夜か」
「そうよ。昼にぶっ倒れた後、半日くらい寝ていたのよ。
まったく――せっかくミシュリーが頑張って作ったのに、ファーストステージしか使ってくれないなんて憤慨なのよ」
「あぁ、イライラバーね。ごめん。俺も最後までクリアしたかったよ」
「いいのよ。また今度やりましょ」
また今度やるのかよ。あんな恐ろしいものを。二度とごめんだぞミシュリー。
「もうあんな無茶しないでよね。ただでさえ『アンラッキー』なのに、自分から危険に飛び込むなんてどうかしてるのよ。頭のだいじなネジが外れちゃってるんじゃないかしら」
「はは、それソボロデンブにも言われたわ」
ミシュリーは、フフ……と笑った後に何かを言いかけたが、またそれを言葉にするのをやめた。
代わりに、サイドテーブルに置かれたティーカップを手に取り、上品に紅茶をすすった。
「……でも、驚いたわ。魔粒子を吸い込むだけじゃなく、あんな『ドロドロの濁り』に変質させて吐き出すなんて。
魔粒子の変質は、そうそうできる技じゃないのよ。ましてや、そのベールちゃんの性質を混ぜるなんて……」
彼女はカップを置くと、触手をチラ見した後、少しだけ真剣な、どこか遠くを見るような目をした。
「吸い込んだ幸運を、反転させて『厄災』として発散する。まさに一騎当千の能力になり得るわ。
……でもね、それってすごく危ういの。ベールちゃんの力が強まれば、それだけ封印が薄くなる。いつか貴方が、その右腕に飲み込まれちゃうんじゃないかって……ミシュリー、ちょっとだけ心配になっちゃうのよ」
ミシュリーがこんな風に弱音に近いことを言うのは初めてだった。
いつも明るくなんでもこなしてしまうように見える彼女の胸の内――この国と王への複雑な想いが、夜の静寂に少しだけ漏れ出した気がした。
そこへ、控えめな、しかし力強いノックの音が響いた。
「失礼いたします」
入ってきたのはトワリだった。彼女は俺が起きているのを見ると、目に見えてホッとしたように肩の力を抜いた。
「陛下……目が覚められたのですね。心臓が止まってしまわないか、トワリ、ずっと監視……いえ、お見守りしておりました」
今監視って言ったよね?
まぁ、トワリならそれが正しいや。
「トワリ……心配かけてごめん。ありがとう」
「いいえ。陛下が、あの恐ろしい災厄をねじ伏せ、共に歩む覚悟を決められたこと、このトワリ、しかとお見受けいたしました」
トワリはベッドの傍らに跪き、真剣な眼差しで俺を見上げた。
「つまり! 今回の能力の名前は……『災厄と共に歩む者』ですね! さすが陛下、ネーミングセンスも高貴でいらっしゃいます!」
「いや、初耳だけど……トワリが考えたでしょ。――まぁ、いいか。カラミティ・ウォーカー、かぁ」
不運を撒き散らしながら、不運と共に進む王。
俺らしいっちゃあ、らしいか。
まだ重い左腕と、不機嫌そうに黙っている右腕の触手を見つめ、俺はこれからの戦いを予感して、短く息を吐いた。
◆◇◆
果ての森で声がする。
一人の男の声がする。
果ての森で声がする。
独りで呟く声がする。
果ての森で声がする。
逸る気持ちを押さえつけ――
真っ暗な果ての森で、ランタンを灯して歩く男。
彼はピスタチオ王「触手チンチン丸」に仕える執事、まさひこだった。
「ターメリック……ハラペーニョ……シナモン……カルダモン……」
彼はぶつぶつ言いながら、何かを運んでいた。
「クミン……ナツメグ……サフラン……急がねば……」
まさひこは何かを覚悟したような真剣な眼差しで、森を進んでゆく。
「いつものまーくん」よりも暗い、決死の表情で。
そして――彼は、果ての森の深くへと消えてしまった。
それが、ピスタチオ王国から「宰相」の姿が消えた、最後の時だった。
第一章 災厄と共に歩む者 【完】
2部はちょっと熱くなっていくよ!
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