第13話 ミシュリー=ミシュリーヌの炎のチャレンジャー2!これができたら一騎当千!! 〜電撃!イライラバーの巻〜(2)
「痛でえええええええっ!!!」
もうこれで何度目の「バチンッ」か分からない。左手の指先の感覚がなくなってきている。
「ああああっと、コトブキちゃん!! イライラバーセンス、抜群なのよぉぉぉ!!!
まだ第一ステージ最初の難関、『ミシュリープレス』すらクリアできておりませんっ!!」
ちくしょう! 観客も飽きてきて、家族連れが焼きそばやビールで盛り上がってる。……野球観戦かよ。負け試合の。
「さぁ! コトブキ選手! このまま夜まで続けて、みんなをもっと飽きさせるのでしょうか! それともまたヒントが欲しいのか!」
「おお! ミシュリー! 今回もヒントくれるの!? もちろん欲しいです!!」
ミシュリーがクスクス笑いながら続ける。
「では、ヒントなのよ! この電撃イライラバー、今までと同程度の魔粒子コントロールじゃ、到底クリアできないわ」
「あー……というと?」
「ゴールに近づくにつれて、レールが魔粒子を引き寄せる力が強くなるのよ。
未だに第一ステージもクリアできないコトブキちゃんが、ちょっと魔粒子の流れを調節したくらいじゃあ、何の糸口にもならないのよね。
ミシュリーなら余裕だけどね! ふふん♪」
「えぇ……どうすんのそれ」
ミシュリーは、体の横で両手のひらを上に向けて首を傾げた。ここからは自分で考えろってことね。
「いやぁ、参ったな。……おい触手! またおしゃべりの時間だぞ! 起きろ!」
俺は前回の特訓を教訓に、触手くんに話しかけてみる。
「このままだと宿主の俺が、電流を食らい続けて死ぬぞ! 助けろ!」
突然話しかけた割には、「王家の右腕」はすぐに応答した。
(……何度同じことを言わせるのだ。どうして俺様に、貴様を助太刀してやる義理がある。貴様ごとき力無き器には、こちらとしては死んでもらったほうが助かるのだ)
「……でもお前、最初のトワリとの戦いで俺を助けたよな? ってことは実際は、本当は俺に死なれたら困るんだろ? お前も一緒に『終わる』から。
それにお前にとっちゃ、弱い国王にくっついてる今こそが再顕現するチャンスだもんな? 俺をそのまま見殺しにするとは思えない」
俺はさらにまくし立てる。
「一方で、俺が簡単に死なない程度には強くなってもらわないと、それはそれで困るはずだよなぁ!?
故に! 今回の特訓もしっかり手伝ってもらうぜ!? 触手くぅん!」
――ベールは答えない。
うんうん。君は本当にわかりやすくていいね。沈黙もまた答えだよ。
そして俺は、この触手くんと話をしている間に、良いことを思いついてしまった。いや、むしろこれは良からぬことかもしれない。
「んで本題だけどさ。こないだ俺の能力を、『低確率事象を引き起こす』ものって定義したの、合ってると思う??」
(……だから知らんと言っておろう。それは全く貴様の問題だ。俺様の知ったことではない)
「だよな? だからそこにさぁ。お前の性質を足してみたいんだよね」
(ああん……??)
ベールは、俺が何をしたいのかを考えているようだ。
「まぁまぁ。ものは試しだ。お前との会話もできたことだし、ちょっと賭けさせてもらうぜ」
ミシュリーは腕を組みながら、俺とベールの会話を聞いていた。観客には遠すぎて聞こえていないようだが、ミシュリーの位置にはベールの思念が届いていたらしい。
彼女は司会の仕事も忘れて、小さく独り言を言った。
「『王家の右腕』ちゃんと会話するのは正解ね。魔粒子の向きと流れが安定しやすくなるもの。
さぁ、この後はどう乗り越えるの?」
俺はイライラバーを両手で構える。
そしてまたスタートを切った。
棒を地面と平行に持ちながら、スタートの直線を通すと、現れたのは最初の難関、ミシュリープレス。
上下に動く複数の金属の塊が、俺の行く手を阻んでいる。それが磁石みたいに、魔粒子で俺の棒を引き付けるから、そう簡単にクリアできるものじゃない。
俺はその手前で一呼吸おいた。
(……おい貴様、何を企んでいる)
「王家の右腕」は、嫌な予感がしてコトブキに尋ねてきたが、俺は心の準備の真っ最中だったので、わざと答えなかった。
「っしゃ! 気合いだ!!!
触手!! 始めたらすぐにレールから魔粒子を吸い込め!!! いいな!!!」
俺は大声で叫ぶと、触手の右手と生身の左手でイライラバーをがっしり掴み、思い切りミシュリープレスの金属の塊に押し付けた。
バチバチバチバチバチバチっ!!!!
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!!!!」
激しく火花が散る。言葉にならない叫びを上げる。
目がチカチカするし、耳の中では変な音が鳴っている。痛すぎる。
(なっ!? おい貴様何をしている!!!)
「コトブキちゃん!!?」
ミシュリーもこれには驚きを隠せない。
右手をかざして、何らかの魔法をかけようとしてきたが、俺は何とかミシュリーの方を向いて、首を横に振った。
「ばっ……痛みでショック死するわよ!!」
それを聞いて、触手の右手がぱっとバーから離れた。
ベールの意思だ――
やはり俺を死なせたくないのは当たりらしい。しかし俺は左手を離そうとしなかった。
(こいつっ――)
この異常事態に、今までゆっくりしていた観客たちが全員、食事も談笑もやめて俺の方を向いていた。
笑い声は止まり、誰もが「冗談じゃない何か」を察したように、口を閉ざしていた。
もはや俺の左手は痺れてバカになり、棒から離すこともできないらしい。自分の左手が今どこにあるのかすら分からない。
当然、トワリも俺を助けるために動こうとしていた。
それを予想していた俺は必死に首の向きを変えて、トワリと目を合わせ、目線だけで意図を伝える。
既にトワリは、胸にしまってあるエターナルドスに手をかけていたが、俺の目を見ると、極度に不本意そうな顔をしながらも、すっと動きを止めた。
トワリは俺が無茶をしていると分かっていたが、「今は止めるべきではない」と判断した。
(くっ……ものの価値も知らぬ愚か者共め……)
ベールは、仕方なく俺の意図に従う。
ミシュリープレスの金属の塊から、黄色く光る魔粒子が一気に出てきて、「きゅううううう」っという音を立てて、触手に吸い込まれていく。
――今だ。
「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!!」
俺は意識を失いそうな脳みそで、右手の触手に向かって命令を出した。
命令を受けた触手の先が、またヤツメウナギのようにガパッと開いたと思うと、そこから大量の魔粒子を放射線状に撒き散らし始めた。
吸い込んだ時の色と全く異なる、
赤黒くて禍々しい、生理的に拒絶したくなる色の魔粒子だ。見ているだけで、胸の奥がざらつく感じがする。
それが、黒い霧のように辺りに広がった。
そして――
ガチャン!!!! ガコン!!! ガッコォォン!!!
ミシュリーは険しい顔で口を開けたまま言葉が出ない。
トワリは眉間に深いシワを寄せながら、鎖骨の辺りに手を添えている。
観客の兵士や国民たちは、息を呑んで見守っていた。
今の音は、俺がイライラバーで触れていたミシュリープレスのネジが緩み、金属の塊が地面に落ちた音だった。
トワリとミシュリーを含め、ここにいたほぼ全ての人間は、仮にも国王である俺の奇行に対して、ドン引きを禁じ得なかった。
しかし彼女たちと、ごく一部の老兵、国民、魔法使いは、同時に期待と畏怖を抱いていた。
「吸い込んだ魔粒子を――まったく……どうするつもりなのよその能力……」
「今のは……」
「なんてこった」
「…………」
「はぁ……はぁ……」
ベールの性質を使って、思った通りの出来事を起こすことができ、俺はとても満足していた。
なので何を思ったか、ドン引きしている観客席に向かって「王家の右腕」を掲げ、不敵な笑みを浮かべながら、カッコつけてこう言い放った。
「…… 計 画 通 り」
直後、俺は意識を失ってその場にバタンと倒れてしまった。
「知恵、見た? 今の」
「ガチだわ……」
当時倒れていた俺には、このギャル2人の声はすでに聞こえていなかった。
君たち、そんなこと言ってたの。
人々は笑うわけでもなく、怒るわけでもなく、王宮の中庭は一瞬静まり返った。
が、最古参の老兵の一人や、一部の位の高い魔法使いが、パラパラと拍手をし始めた。
彼らは首を横に振りながら、「自分たちの理解を超えている」と言わんばかりに、感心しながら手を叩いていた。
他の国民には訳が分からなかったが、権威のある者の拍手に倣い、「理解できなくても、従うべきものだ」とでも言うように、拍手は会場全体へと広がっていった。
大きく鳴り響きすぎない、サーーーという音の拍手が、倒れた俺に向かって浴びせられていた。




