第13話 ミシュリー=ミシュリーヌの炎のチャレンジャー2! これができたら一騎当千!! 〜電撃! イライラバーの巻〜
「さぁさぁ! お待たせいたしました!! いいえ、お待たせしすぎたのかもしれませんっ♪
司会は、この国一番の美貌でお馴染み、ミシュリー=ミシュリーヌ=トーレスプーシュが務めさせていただきます☆ きゃぴ♡」
「…………」
ピスタチオ王宮には中庭がある。
ここがそうだ。
昨日トワリと遅くまでおしゃべりをしていた俺は、今朝そこそこ早い時間に、ミシュリーによって叩き起こされた。
国王の寝室の扉を、あんなにバコンバコン叩くような人間を、俺は他に知らない。
寝ぼけ眼のまま、理由もわからず中庭に連れてこられたのだが、ミシュリーの、目が覚めるようなマイクパフォーマンスで、これから何をしたいのかをようやく理解できた。
「ああ! 特訓か!」
「その通りなのよ! コトブキちゃん! 目的はわかってるわね?」
ビーフシチュー王国の脅威に対抗するために、俺には精密な魔力制御の特訓が不可欠だった。ミシュリーのことだから、これからまた大掛かりなセットを作るに違いない。
「ご見学の皆様、本日は絶好の特訓日和に、この中庭まで足をお運びいただき、とってもありがとうございます!
『ミシュリー=ミシュリーヌの炎のチャレンジャー2! これができたら一騎当千!』始まりなのよ☆」
観衆から、\イエーーーイ/という歓声が起こった。
今日は果ての森の時と違い、たくさんのギャラリーがいる。
王宮で働く人達と兵士達、そして一般の国民も混ざっているようだ。例えば――
「イェーイ!触手チンチン丸がんばー!www
ねえソフィア、ハンドクリーム貸してー」
「はい、知恵。レンタル5万円ね」
「高すぎて滅www」
「高くってもイイじゃん……仕方ないなぁ5万引きでいいよ」
――あれはこの前、王宮の廊下で見たギャル2人じゃないか。
俺はこの世界のどんな言語も読むことができるのに、彼女達に関しては、ちょっと何言ってるかわかんない。
通貨の単位は円なんだね。そこは日本とおんなじなのね。
「それではコトブキちゃん! 準備は良いわね??」
「良いか悪いかで言えば、全然良くない! けど俺には時間がないもんな。とっとと始めようぜ」
「うん! 頑張ってね☆ 朝ごはんも食べてないでしょうけど」
「急すぎるんだよ! せめて事前に教えておいてくれれば――――って、ちょっと待て?? みんなはどうしてこんなに集まれた?? さては俺にだけ内緒にしてたな!?」
昨晩一緒に夜更かしをしたはずのトワリも、きっちり身支度をして、ニコニコしながら佇んでいた。まーくんは……なぜかここにはいなかった。珍しいな。
「本日のチャレンジは『電撃イライラバー』!
今回もルールは簡単!
今から触手チンチン丸ちゃんは、ミシュリー特製の棒をこのイライラバー装置の迷路に通し、両サイドの金属レールにぶつからないようにしながらゴールを目指すのよ」
なるほど。中庭の中央に、横長の大きな台が据えられていた。
腰から顔の高さほどあるその台の側面には溝があり、そこに、銀色の金属棒で区切られた迷路がウネウネと走っている。面白そうじゃん。
ただのゲームかとも思ったが、ミシュリーが何の意図も無くこんなものを作るはずがないので言葉にはしなかった。
「とりあえずやってみようぜ!」
「その意気よ!! では皆さん、新生触手チンチン丸陛下の、初めてのイライラバー☆ ファーストチャレンジです!」
俺はスタート地点に立ち、特訓用の棒を構えた。
「魔粒子のコントロール……確か、大切なのは『向き』と『流れ』……だったっけ?」
持っている棒に、魔粒子が流れて、周りのレールに当たらないようになるイメージをする――
「Ready go!!!」
ミシュリーが叫んだ。
俺は棒をスタート地点から一歩前に出した。
すると、左右の金属のレールに、棒が磁石のように吸い込まれていく……
「えっ……?」
次の瞬間――
さっそくレールに当たった棒が、バチバチッ! という大きな音と共に、激しい火花を散らせる。
同時に、俺の両腕にビリビリッと強い電流が流れたっ……!
「痛っ……てえええっ!!!」
俺は堪らず、棒を投げ捨ててその場に倒れた。左手の指先が痺れてビクビク動いている。
待って……!? 待ってくれ!! 電流が直に俺に流れたんですけどぉ!!?
観客からは、心配と驚きと予想通りの展開と……色々な感情が混ざった「おお……」というどよめきが生まれた。
「ミ、ミシュリーさん!?!? 何これっ!!?」
「何って、電撃イライラバーだけど……?」
「俺の腕にまで電流が流れたぞ!?」
「そりゃあ、電撃イライラバーだから当たり前じゃない??」
「いや、危なくない!??」
「そりゃあ特訓だもの。失敗したら結構痛いのよ?」
ミシュリーは、「何がおかしいの?」と言わんばかりに首を傾げた。
そうだよなぁ!!! 俺の世界のテレビ番組じゃない、電撃イライラバーの特訓だもんなぁ!!! そりゃそうだよ!!! ちくしょうっ!!!
「ごめんなさい!!! ナメてました!!!! ちゃんとやります!!!」
俺は立ち上がって、服の砂をはたいた。
観客からは温かい拍手が聞こえた。
人口が2万人しかいないはずなのに、数百人は集まってくれている。
……俺のためにこんなに人が集まってくれていても、外国に俺の存在を言えない以上、まだ戴冠式はできないんだな。歯がゆいぜ。
「ちょっと気合入れるわ――」
かくして、俺が現世で知っているよりもだいぶ厄介な、電撃イライラバーとの格闘が始まるのであった。




