表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/38

第10話 誰がために「嘘」は鳴る 〜王様は今日も元気です〜

 ピスタチオ城の正門は通称「白の門」と呼ばれる。


 城の外壁は基本的に緑やベージュに塗られているが、門だけは真っ白。

 場違いに白い、巨大な門が、何かを拒絶するかのようにそびえ立っている。

 男は、真下からその門を見上げていた。


「城の門が、白の門ねー。なっるほどぉ。名前が先に立つタイプの門ってわけ?」

 

 男は、周りをキョロキョロ見回しながら話し続ける。 


「それにしても、ピスタチオ色の城に真っ白な門って、だいぶ思い切った配色ですよね??

 デザイナーさん絶対『ここは白で行きたいんです!』って譲らなかったタイプだ!! きっと会議、荒れたでしょうねー。わぁ、やだやだ!

 ねー皆さん。白ってホント便利ですもんね。

 清潔で、正義で、200種類あって、都合が悪い時は、とりあえず背景真っ白にしといて『演出』ってことにすれば、作画コスト減るし。

 まぁ入れてもらえるみたいなんで、城の門でも、白の門でも、どっちでもいいんですけどねー。

 僕を通す気はあるみたいですしおすし。っつって。ねー?? 衛兵さん!! ところで王様、元気??」

 衛兵達の数名が、イライラしつつも一瞬ギクリと目を泳がせた。


 このやかまし過ぎる一人語りは、もちろん、ゴージャス☆ナラハラのものだ。黒い海賊帽を被り、紫色の服を着た、面長で丸眼鏡の胡散臭い男。


 彼は馬を降りて、ピスタチオ兵に馬を預けると、「白の門」の前で綺麗なお辞儀をし、単身、ピスタチオ王宮の敷地内へと足を踏み入れていた。


「もう昼かー。小腹すいたなー。ビーフシチュー王国から、お弁当にあずきアイスバーを持ってくればよかったなー」

 ナラハラが喋りまくっていたが、彼はこう見えてもビーフシチュー王国の要人。衛兵達の身分では、誰もツッコミを入れられない。

 ――そこに救世主が現れた。

 

「そんなことをしたら、溶けてしまいますぞ。せっかくの硬いアイスバーが台無しですなぁ」

 初老の救世主は、背筋をピンと伸ばし、ナラハラに話しかける。 

「ピスタチオ王国へようこそお越しくださいました。ゴージャス☆ナラハラ様」

 まーくんだ。

 漫才好きのまーくんがいてくれなければ、ツッコミ不在のまま、ナラハラが放し飼いになるところだった。


「あら、まーくんじゃないのっ。お久しぶり! 元気だったぁ?? ビーフシチュー王国の要人、ゴージャス☆ナラハラですぅ」

「あまり要人の方は、御自分のことを要人とは仰らないですな! さぁどうぞ。()()()()()()()()()に御案内いたします」

「待合室って言いなさい!! ()()()()で言わないでよ! あたい、生まれも育ちもビーフシチューなんだから!()()()()()じゃなくってよ!!」

 まーくんとナラハラの、ボケとツッコミの応酬が始まった。


 ◆◇◆


「ふぅ。ついに来るねミシュリー」

 今朝も魔法をかけてもらい、既にソボロデンブの身なりになっている俺は、玉座で()()()が来るのを待っていた。


 2日前に初めてこの世界にやって来た時に、俺が目を覚ましたこの玉座の間こそが、この城の謁見の間なのである。

 ……え、嘘だろ?? 俺、この世界まだ3日目なの??

 

「コトブキちゃん。ナラハラは酷いお喋りさんで、自分のペースに持っていくのが得意なのよ。

 あと、ちょっと気難しいところがあるわね。

 万が一、まーくんが対応できなくなってしまうような状況に備えて、コトブキちゃんにもソボロデンブちゃんボイスの魔法をかけておくわ。その時はよろしくね☆」


「そんな状況にならないことを祈るよ」

 ミシュリーは、魔法をかけるために杖を取り出した。


「もし陛下に危険が及ぶ可能性がある場合、このトワリ、エターナルドスを抜きますので、ご承知おきください」

「それこそ即戦争の最悪パターンだね。なんとしてもそうならないようにしないと」

「さぁ、魔法をかけるわよ! コトブキちゃん。いいえ――触手チンチン丸、ソボロデンブちゃん」

 ミシュリーの杖から俺に向かって、キラキラと光が浴びせられる。俺の声帯が変質していく。


 この時、ナラハラを控室に案内し終えたまーくんも、ちょうど玉座の間に戻ってきた。

「ナラハラが来ますぞ。ミシュリー殿、(わたくし)の声に魔法を。私は玉座の背に隠れておりますので」

「うん。頼んだぞ、まーくんよ」

 俺の声も、しっかりソボロデンブのそれに変わっていた。


 ◆◇◆


 時が来た。


 玉座の間の大きな扉が、ぎぎーっと開き、衛兵に案内され、ビーフシチュー王国の要人が玉座の間へと入ってくる。


「どーもー! ねぇ、なんやかんや言う取りますけども。ビーフシチュー王国の、ゴージャス☆ナラハラと申しますですー。

 ソボロデンブ陛下にお目にかかれて、誠に光栄でございますー」 

 ナラハラは部屋に入るや否や、スタスタと触手チンチン丸(国王)の御前まで歩いてきて、スッと跪いて挨拶をした。

 

 礼儀はある。

 だが目だけは、値踏みをするようにこちらを見ている。何かを確かめようとしている様子が、あからさまに顔に出ている。

 状況はまったく異なるとはいえ、トワリ、ミシュリーに引き続き、俺はこのおじさんにも値踏みをされなきゃいけないのか。今のところ毎日誰かに試されてるんですけど。


「いかにも。わしこそが、ピスタチオ王国国王、第十三代触手チンチン丸。ソボロデンブである。(おもて)を上げよ」

 うん。練習通りだ、まーくん。

 俺はまーくんの声に合わせて、髭まみれの口元を動かす。我ながら上手く言っていると思う。


 ゴージャス☆ナラハラが喋り始める。

「ありがとうございますー。ずっと下向いてると、肩がこっちゃって。ほらもう私、四十になるでしょ? 所謂()()()()()()で、全然肩が上まで上がらないんですよ」

「それを言うなら()()()じゃな」

 淀みなく放たれたソボロデンブ(まーくん)のツッコミを聞いて、ナラハラは「おや?」という顔をして言った。

 

「あら。王様、お元気でいらっしゃいますね。ツッコミのキレが、以前にお目にかかった時と変わらないっていうか?

いやね? しばらく王様の姿が不自然なほど見えないって、みんな噂してたものですから!」

 ソボロデンブ(まーくん)は答える。

「それはそうじゃろう。ピスタチオ城はお主らの国から50km程度離れているのじゃからな。

 それにそちらの国の治安が安定していなかったここ数年は、許可のない者は我が国には入国できなかったはず。

 それとも我が国に、お主の国の人間が入り込んでおるのかな??」


 ナラハラの眉毛がピクリと動いた。

「やだなぁ王様! そんなわけないじゃないですかー! 国境の兵士さんたちの単なる噂ですよお。オホホホホホ!

 あ、そうそう。今日はね。お手紙を持ってきたの。食いしん坊のメイドのヤギさん。食べちゃダメよ♡」

 ナラハラはトワリに向かって言った。

 

 だが、トワリはこの程度の挑発には応じない。

 ナラハラが部屋に入る数秒前からずっと、物凄いオーラを放ちながら、この部屋の全てを観察している。

 普段は()()()()()だが、要人警護に関して、トワリの右に出る者はいない。ナラハラが少しでもおかしな動きをすれば、トワリは一瞬で彼に斬りかかるだろう。

 かと言って、ナラハラはそう簡単に御せる相手ではない。彼はこれでも、ビーフシチュー王国屈指の魔法使いなのだ。

 

「あらやだ。そんなに怖い顔しないでくださいよぉ。何もしないですってー。内ポケットにあるので、誤解のないように、トワリさんの方を向いて出しますね! 失礼いたし奉り申し上げますですー。スッ」

 ナラハラは親書を取り出すと、俺の方に近づいてきた。


「どうぞー。こちらですー。あれ?? 王様、少し見ないうちになんか痩せました??」

 トワリの視線が、一瞬だけ、ナラハラの喉元に固定された。

 俺は小さな動きでその親書を受け取った。


 彼は俺に手紙を渡すと、スタスタと元の位置に戻っていった。


 ふぅ。とりあえず、親書の中身を読まなければ。

 俺はゆっくりと、手紙の封を開いた。


 この時俺達は、2つの大きな問題が起こっていることに気がついたのだった。

 

 1つ目は、俺とミシュリーとトワリだけが気づいたこと。

「王家の右腕」の動きが、いつもより、ほんのちょっとだけ()だ。

 え……普段こんなににょろにょろ動いてたっけこいつ……


 2つ目は、致命的だった。

 この状態では、()()()()()()()()()()()()()()()!!!

 

全国の小学生諸君!

「誰がため」は通常、「だれがため」ではなく、「たがため」と読むぞ!覚えておいてくれ!!おじさんとの約束だ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ