第9話 ゴージャス☆ナラハラが来るゾ
「おわ! ミシュリー、いつまで城にいてくれるの??」
俺は城に戻ると、動きやすい服装――と言っても、赤と白を基調とした高そうな王子様風の服なのだが、それに着替えて、夕食を食べようとしたところだった。
ピスタチオ王宮の食堂。
ちょっぴりムーディな照明。
相変わらず豪華な調度品。
相変わらずのビュッフェ形式。
相変わらず国王の横で国王よりも先に爆食するメイド兼ボディガード。
他の家臣達もたくさんいるので、ナイフやフォークがお皿に当たる小さな音が、あちこちで鳴っている。
今夜はその風景に加えて、昨日ここにいなかった果ての魔女様が同席していた。
魔女はさっき「城まで(丸太で)送っていく」と言ってくれた訳だが、よもやそのまま夕食にまで同席してくれるとは思わなかった。
――なお、丸太での飛行はものすごい速さで、振り落とされそうでめちゃくちゃ怖かった。
「ん?あぁ!ミシュリーね、しばらくこのお城で厄介になるのよ♡ まーくんにも話をつけてあるわ♪」
ミシュリーは、小動物みたいにチョムチュルを齧りながら言った。上品なミシュリーは、もちろんソースの2度づけなどしない。
「その方が、チンチン丸ちゃんを鍛えやすいでしょ☆」
「お、おう。そうだよな……ありがとう」
「ミシュリー! お泊まりなのですね! あとで一緒にお風呂に入りましょう!」
いや、お泊まりて。子供か。修学旅行か。このメイド兼ボディガードはホントに。
2人が仲良しで微笑ましいから、ま、いっか。
そうこうしながら夕食を食べている最中。まーくんが普段よりもギアを一つ上げた速さで、食堂のドアを開け、急いで俺のもとに近づいてきた。
「陛下。国境近くの魔法伝令兵からの伝言です」
「魔法伝令兵だって!!?」
俺は椅子から立ち上がった。
「なぁにそれ!」
まーくんが、その場で体を少し傾けて、軽くズッコケてくれた。流石は漫才好きである。
「この国――だけではないのですが、一部の魔法使い達は、遠く離れたところにいる特定の魔法使いに向け、肉声のメッセージを送ることが可能なんですな」
「あぁ、電話みたいなもんか」
「電話……?? コトブキ様が元いた世界には、そんな道具があったのでしょうか?」
トワリが横から、口をモグモグさせながら聞いてきた。口の中のものを飲み込んでから喋りなさい。
「いいわね。是非開発したいのよ。後で仕組みを教えて?」
ミシュリーさんもしかして、電話を作る気でいる??
「陛下、そんなことよりも伝令の内容でございます。ただ今、国境の関所に、ビーフシチュー王国の三賢者の一人、ゴージャス☆ナラハラが待機しているようなのです」
「それはすぐに対処が必要ですね……」
トワリの顔が一気に真剣になった。
そうだった。これでもこの娘、王の側近になれるくらい強いんだった。
「ゴージャス☆ナラハラ……確か、さっきの『青の予言』で見た、胡散臭い海賊帽の男じゃないか! 早速、王宮にくる気なんじゃないか?」
「はい。何やら公式の外交文書を届けたいと。恐らくは、ビーフシチュー国王から陛下宛ての親書だろうと思われます。
ですが、ソボロデンブ様の代わりにコトブキ様が即位していることを、諸外国はおろか、国内にすら公式アナウンスをしていない状況。
このタイミングで連絡してきたところを見ると、ビーフシチュー側が何かに気づき始めた可能性がありますな」
「ふむ。そのことを秘密にしてるのって、やっぱりかなりまずい?」
「一般的にはあまりよろしくはないですな。通常、国王が崩御した場合、国内の準備ができ次第、すぐに諸外国にも連絡し、葬儀の準備等を行います。
ただ、今回の件は通常の『国王の崩御』とは異なり、コトブキ様への入れ替わりというイレギュラーな事象です。諸外国への連絡や、正式な戴冠式が遅れていることへの言い訳は立ちますな。
できれば此度の転生は公にはしたくなかったのですが……ビーフシチュー側から動かれたからには、急いで準備をする必要があります」
「なんだか複雑だね。
……個人的な意見としては、敵対しているとはいえ、すぐに外国にも転生のことを公にすべきじゃないかと思ったけど、防衛上の都合とかがあるのかな」
俺はこの時、まーくんが何かを言いかけてやめたのをよく覚えている。
ちょうど横からミシュリーが割って入ってきた。
「とにかく今は、ゴージャス☆ナラハラへの対処が先決よね? まーくん。来城を断るという選択肢はないのね?」
「避けるべきでしょう。現時点では、敵意のない外交官の入城を拒否できるまでの理由はございません」
「なら、面と向かって会うしかないね。緊張するな。まさかこんなに早く予言が当たるなんて」
「コトブキ様。今すぐ支度を始め、ナラハラに相対する際の作戦を立てましょう」
◆◇◆
「あのー、すみませんー。あったかいお茶とかもらえますー?」
「なんなんだこいつ……」
ピスタチオ兵は思わず小声で呟いた。
ゴージャス☆ナラハラは、関所の門の下に竹製のパイプ椅子を置いて、両膝を揃えて座っている。
が、とてもやかましい。ずっと何かしらしゃべっている。
「うーん。早くピスタチオ城にいきたいんだけどなー。ところで、デイの方は大丈夫かなー? 上手くやってるかなー? 楽しみだなー」




