第7話 ミシュリー=ミシュリーヌの炎のチャレンジャー! これができたら一人前!(2)
さて、このアスレチック。どうすればクリアできるだろうか。
俺はスタート地点に立ち尽くして考えていた。
「あーチンチン丸ちゃん! そんなとこに突っ立ってたらつまらないでしょう! 視聴者が飽きちゃうのよ!!」
「うるせー!! どこに視聴者がいるんだよ! トワリとまーくんだけだろ!!」
そのトワリとまーくんはというと、片方は夢中になってボリボリとお菓子を食べており、もう片方は手帳を開きながら難しい顔をしていた。
つまり、全然俺のことを見てくれていない!! いいもん! こういうのは自分との戦いだから!!
「問題は――身体能力の足りなさと、不運だよな……」
前者はこの「王家の右腕」の力を借りるしかないだろう。今までの体験で馬鹿力なのは保証されているが、その力を上手に扱い切れるかが問題だ。
後者……も同じか。降りかかる強力な不運を制御する必要があるが、それにも「王家の右腕」のコントロールが必要だ。
俺は「王家の右腕」無しでは何もできないのだ。全く腹が立つったらありゃしないぜ。
「おい触手! そろそろ対話してくれても良いんじゃねえか?? お前も、俺みたいな凡庸な器よりも、もう少し育った奴といる方が幾分ましだろう?さっさと喋れ! ミミズ野郎!!」
俺の言葉に反応し、触手がピクリと動いた。お? 挑発に乗ったか??
(ミミズ……だと? 今、この俺をミミズと言ったか、小僧)
(しめた……)
「あぁ、赤黒くてミミズそっくりだ。いつも見えないところでうねうねしているしな」
(ふん。下等な人間には、俺様がどのような存在か理解できまい。カスめが)
「てめえマジでふざけるなよ。協力しないなら右手に火ぃつけるぞ!!」
俺と触手がおっ始めたそんな「対話」を、ミシュリーは少し離れた実況席で見ていた。彼女の顔から、先程までの余裕がスッと消えた。
「え……コトブキちゃん、何ひとりで喋ってるの……?」
ミシュリーが、持っていた拡声器(木製)をゆっくりと下ろした。その目は完全に「ヤバいものを見る目」だ。
「ミシュリー、聞こえないのか?? この触手野郎の声が!」
ミシュリーはさらに眉間にしわを寄せる。
「触手が……喋る……? そんなの、ソボロデンブちゃんからも聞いたことないのよ…… え、なに、キモ……」
うわぁ、マジのリアクションじゃんミシュリーさん。
(ふん。不愉快なことに、俺様の声が聞こえるのは貴様だけのようだな)
「えぇ!?」
「うーん……ミシュリーには何も聞こえないのよ。コトブキちゃんが、自分の右腕をミミズって呼びながら、独り言をブツブツ言ってるようにしか見えないわ。まーくん……お宅の王様、王立病院に預けた方がいいんじゃない?」
「陛下……ううむ。魔粒子に当てられましたかな…… お疲れなのは分かりますが、ちょっと……」
まーくんまで、手帳を持ったまま哀れみの視線を向けてくる。トワリに至っては、食べていたお菓子を口に運ぶ手が止まり、「陛下……」とだけ呟いて目を伏せた。
ミシュリーとまーくんのそれは冗談かもしれないが、トワリの反応はたぶん本心からのやつだろう。
「違うんだ! こいつの声、俺の脳内に直接響いてるんだよきっと! おいミミズ、何か言ってやれ! 外部スピーカー機能とかねえのかよ!」
(断る。貴様が他者にどう思われようが知ったことではない)
「この、使えねえミミズ……ッ!」
周囲からの「精神を病んだ王」という視線に耐えながら、俺は再びアスレチックへと向き直った。こうなったら、俺が正常だということを結果で示すしかない。
「おい、触手! クリアできるように手伝え!」
(……何故この俺様が、下らない茶番に付き合う必要がある。貴様の意思で勝手に動かせ、愚か者)
俺はこの右手の発言に苛つきながらも、仕方なく、もう一度先程の4つの足場に跳んでみる。
……おや? 今回は不幸が飛んでこない。何でだ?
ぴょんぴょんと、何とか自力で4つの足場を跳ねて渡った。そして明らかにそのままでは届きそうにない、ラストの向こう岸への跳躍は――
「伸びろ!! ミミズっ!!!」
左右の木の柱のうちの一つに触手を伸ばして巻き付けることで、何とかよじ登り、無理矢理渡ることができた。
「よっしゃ! 不格好だけど、第1ステージはクリアだぜっ!! 見たかっ!!」
そんな俺の姿を、ミシュリーが目を細めながら眺めていた。
(魔粒子のコントロールがマシになっている…… 触手と会話することで、意識が自然と右手に向いたから?
――ピスタチオ史上『王家の右腕』と会話をした国王の記録など、ひとつとして残っていない。
ソボロデンブちゃん……コトブキちゃんは本当に……)
「っしゃ! 行くぞ! 次はなんだ、ミシュリー!! 」
「……あ、うん。次は、『土砂降りタライパニック』よね」
どうやら今度は、魔法のかかったカラクリによって、無数のタライが天井から無限に湧き続け、俺の頭上に射出されまくるゾーンのようだ。
いや、何それ……
俺はこれによって何を鍛えられるんだ?
「うーん……」
そこで俺は良いことを思いついたので、右手を自分の頭上に掲げ、あることを試してみた。
バサァッ!!
「おお、ははっ! やってみるもんだな! できたできた! こいつはいいや!!」
この高貴な「王家の右腕」とやらを雨傘の様に広がらせて、勢いよく振り続けるタライから身を守る。
(おいガキぃぃぃ!! 貴様、この俺を何だと思っている!!!)
「何だよ、お前が『俺の意思で動かせ』って言うからそうしてるんだろ。あぁ! こら!! 元に戻ろうとすんな!!!」
なるほど。触手のコントロールってのはこういうことか。
この感覚――この右手の制御は、触手くんの意思よりも、俺の意思の方が優先されるみたいだ。
「ハハハ! 頭上のガン! とか、ゴン! とか、ガヂャン! という音がうるさいぜ!」
(貴様――覚えておけよ!!! 俺様がこんな姿でなければ貴様など……!!)
俺は難なく『土砂降りタライパニック』を超えることができた。
「ふーん? ミミズ、お前はなんでそんな姿なんだよ。この国の王家に伝わる由緒ある触手なんだろう?? せっかく会話できるんだ。教えてくれよ!」
(貴様のような下賤な者に話す舌など持たぬ……)
「王家の右腕」くんは、この後しばらくの間黙りこくってしまった。
地の文はコトブキですが、ミシュリーだけモノローグも描かれるのは仕様です。
ミスじゃないです。
ミスじゃないです!!!笑




