第6話 ミシュリーの問答と秘密の特訓(2)
「そう言えばチンチン丸ちゃんって、この森にいても気絶しなかったわねー。大したものなのよ」
ミシュリーは、テーブルの上のホワイトシチューを口にしながら言った。
彼女の家は、森の奥にひっそりと立つ、煉瓦造りの小さな家だった。
外見は古びていても、その煉瓦の壁はあまりにも均一で美しかった。どうやって作ったんだろう。
家の中はと言えば、決して整頓されているとは言えなかった。
壁や天井には薬草が吊るされ、ミシュリーの座っている椅子の周囲には、たくさんの本や、よくわからない実験道具のようなものが雑然と置かれていた。本の種類も様々。魔法に関係があるのかどうかもわからない本が何冊もあった。
「気絶……? ああ。そう言えば森に入る前にそんな説明されてたな。魔粒子?の濃度が濃すぎて、魔力を持たないものが入ると、すぐに気を失うんだったっけ?」
「恐らくその『王家の右腕』のおかげよね。それが相当の魔力を秘めていると見たわ。ソボロデンブちゃんも、その右腕を使って強力な魔法を使っていたもの」
「そうなのか……? けど、まだ今の俺の力じゃ、魔法を使うどころか、戦闘中に言うことを聞かせることすらできないだろ……? 自分の身すら守れないようじゃ——」
俺は、先程のミシュリーの腕試しだけでなく、ビニグナントグリズリーに襲われたときのことも思い出していた。
ミシュリーが助けてくれなかったら、今ごろ俺は、呑気にランチを食べてなどいられなかっただろう。
真剣に悩んでいる俺の横で、トワリが「おかわり!」と叫んだ。まーくんが対応したので、ミシュリーはそのまま続けた。
「その通り。だからこれを食べ終えたら、早速特訓するのよ♪ せっかく魔粒子の濃い果ての森にいるのだもの。今日ここでレベルアップして、触手初心者脱却なのよ!」
「そうだな……そうすればさ、俺はこの国を守れる国王に一歩近づけるのかな」
ミシュリーはニコリとしながら頷いてくれた。
俺は目をつぶって息を整えると、彼女の作ってくれたシチューをガツガツと食べ始めた。
ミシュリーの料理はとても美味しかった。まるで、身体の内側から力がみなぎってくるような、そんな感覚があった。
◆◇◆
食事を終え少し経った頃、俺たちはミシュリーの家の外に出ると、少し歩いたところで足を止めた。
そこには、深い森の中であるにも関わらず、ちょうどよく木が生えていない、だいたい「近所のちょっと大きめの公園」くらいの広場があった。
「ここは……かつての魔女の訓練所跡ですな?」
「まーくん大正解☆ そう。この森でも5本の指に入る程、魔粒子が濃い場所なのよ。だから、まーくんとトワリは、少し休んでいたほうが良いかもね」
魔女はそう言いながら、腰に手を当てて立っている。
「ミシュリー、あれは持ってきましたか?」
「もちろんよ、トワリ♪」
ミシュリーはトワリに、何かが入った紙袋を渡したようだった。
「——さぁ、チンチン丸ちゃん。準備は良き?」
「準備も何も、一体何が始まるんだ?」
「ふふ。見ててね♪」
彼女は杖を取り出し、広場の方に向かって構えた。
そして、「すーーーっ」と、杖を動かし、指揮棒のように振り始めた。
ミシュリーの杖が動き出すと、それに合わせるように、彼女の家の横に積まれていた丸太の山から、びゅんびゅん、びゅんびゅん、丸太が飛んできた。
「う、うえぇ!?」
丸太は、空中でスパッと切れたり、カンナがけをされたように皮が剥けたり、釘無しでそれが組み上がるように、木材同士の形が勝手に綺麗に加工されたりしていく。
「す、すげぇ、なんだこれ!」
「ミシュリーってば天才よね! でも、この森じゃなかったら、なかなかここまでの魔法は使えないのよ♪ さぁ、もうすぐよ♪ それっ☆」
クラシック音楽のクライマックスのように美しく、ダイナミックな杖の振り方をするミシュリー。
木材同士がガシャンガシャンと合体し、アスレチックのように組み上がっていく。圧巻の光景だ。魔法の力ってすげー。
ジャジャン! と、ミシュリーの指揮が終わる。
「ふぅ。見てみて! 完成なのよ!」
彼女は得意な顔をして振り向いた。
本格的なアスレチック——!
俺はテレビ番組でこんなのを見たことがあるぞ……!
木でできたアスレチックの下のところには、たっぷりと泥水が張られていた。
落ちたら、身体中泥だらけになってしまうだろう……
「ふふふん♡ 題して! 『ミシュリー=ミシュリーヌの炎のチャレンジャー! これができたら一人前!!』 どんどんぱふぱふー!」
「おい。なんか……どっかにありそうな名前だけど大丈夫か??」
「何が???」
「いや、なんでもないかも……」
「行くわよチンチン丸ちゃん☆ 修行は楽しくやらないとね♪」
トワリとまーくんが、風呂敷みたいなものを敷いて、座って紅茶を飲みながらこちらを見ている。
…………さっきミシュリーから渡されたの、それ?? 運動会を見に来た保護者みたいだね!
かくして、俺の楽しい楽しい特訓の時間が幕を開けた。
あけでとう(2026/1/1)




