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第5話 予言と炎と果ての魔女(2)

「はいはーい!頑張れ頑張れー!当たると消し炭になっちゃうのよ♪」


 転生2日目の昼。分厚い炎の壁に囲まれた、直径30mくらい円の中、触っただけで消し炭になるという火の玉を、無数に投げつけられている。もしかして俺、昨日からだいぶハードワークさせられてるんじゃないか?


 先程ミシュリーに、ルールを伝えられた。俺が一度でもミシュリーに触れられたら俺の勝ち。できなければ俺の負けだそうだ。

「うおあ、危ねえって!!」

ほんの数十cm横を火の玉が横切る。


 そもそも、せっかくクマから助けた俺を、すぐに消し炭にしようとするなんておかしいだろ。俺がめでたく炭になったら、次のチンチン丸はすぐ見つかるのかよ!


 だからこそ「この炎に触ったら消し炭になる」という話自体がブラフの可能性も無くはない。無くはないのだが、ブラフにしてはこの火球は()()()()。死を彷彿とさせる熱さだ。「ミシュリーに触れなければ俺の負け」、それ即ち「死」では……?


「はぁ、はぁ。このままじゃすぐに体力が尽きちゃうぜ……」

「あは!体力は不合格みたいね!チンチン丸ちゃん」

 彼女は丸太に腰掛けて、3mくらいの高さで宙に浮かびながらケタケタ笑っている。


 俺は火球を避けながら、どさくさに紛れてミシュリーの丸太に近づいて真下からジャンプし、触手で丸太を掴もうと試みた。

 が、彼女はそれを想定済みだった。ヒョイと丸太を傾けて避けたかと思うと、円の反対側へとスッと移動してしまう。こういうアクションゲームのボス、見たことあるぜ畜生め!嫌いなタイプのボスだ!


 このままじゃ埒が明かない。かといって、今の俺の知識だけでは、たぶんまだミシュリーまで届きそうにない。仕方ない。こうなったら奥の手を使うしかない……!!


「おい!ミシュリーっ!!」

「なぁに?」

 俺は大きく息を吸い込んだ。

「ヒントをください!!!」

「はぁ!?」

 ミシュリーは楽しそうに目を見開いた。

「チンチン丸ちゃん、プライドとかない感じ??」

 彼女は笑いながら問う。

「プライド!?みんなを守る力どころか、自分を守る力もないこの状況で、プライドもクソもあるかよ!それにお前だって、本気で俺を殺しにかかってないだろ!トワリと違ってさ!」


 ミシュリーは目を細めて、さらにニヤリとした。

「フフフ、素敵ね?じゃあ特別に大ヒントをあげるわ!♪チンチン丸ちゃん――いえ、コトブキちゃんが『王家の右腕』と融合して発現した固有能力。それは見た限り、やはり『不運』に関係するものだと思われるわ。

 ただし、さっきはどうして、それがビニグリビニグナントグリズリーちゃんに効かなかったと思う?」

「うーん……相手が動物だから?」


 ミシュリーは首を横に振った。

「ブブーね。ミシュリーの見立てではその能力(ちから)、正しく使えば、物にも動物にも不運の影響を与えられるわ。

悪いのは『向き』と『流れ』。ここは魔粒子の濃度が高い果ての森。せっかくの大量の魔粒子も、コントロールできなければ、術者の力を分散させてしまう抵抗力にしかならないの。

ふふ。ヒントは、こんなところで良き?」


 全然良きじゃない。つまり俺の、触手と魔法の扱い方が下手過ぎってことだ!単純明快!大ピンチだ!


「さぁ、そろそろ良いわよね?ミシュリーもう待ちくたびれちゃった♪」

 ミシュリーは今までよりも多くの火球を宙に浮かせた。え、待って待って、量が半端なくない?

 俺達の頭上に、大量の炎の玉がふわふわと浮かんでいる。

「50よ。これで決めましょう?ミシュリーに見せてよね。あなたと触手の……ポテンシャルを!!」

 ミシュリーが右掌(みぎて)を振り下ろした。50もの即死火球達が、俺に向かって五月雨に降り注ぐ。


 ふと足元を見ると、大人の腕よりも少し太いくらいの枝があった。さっきミシュリーは、物にも不運を乗せられると言っていた。

 それが本当なら――。

 俺は枝を拾った。結構重い。何度も言うが、一部のゲームや漫画のキャラはおかしい。これよりも重い武器をひょいひょい振り回して戦うなんて、鍛えていない人間がそうそう容易にできることでは無い。


「ミシュリー、お前が言った言葉信じるぞ」

「?」

 俺は向かってくる火球のひとつに、一か八かこの枝で横から斬り掛かった。

「んんんっ!!」

 ぶおんっ!!!

「わお☆」

 炎を掻き消すことができた。


 思った通り、これだけの火力の火球に当たっても、枝は燃えるどころか、少しの炎さえも燃え移っていない。

 この炎はミシュリーが完全にコントロールしている。この森のものは燃えない!


「面白いねチンチン丸ちゃん。度胸も良し。けどそれだけ。その後はどうするつもりかしら?」


 枝を持つ触手の右腕に、無意識に力が入る。触手はギュルギュルと枝に巻き付き、枝に触れる表面積が増えた。


(無意識かしら?右手に力を入れ、触手が触れる面積が増えたことで触手の魔力が枝に伝わりやすくなり、枝の先に向かって魔粒子が流れている。

 魔法使いが杖を使用するのは、権威を示すためだけではない。杖に魔粒子を集中させることで、魔力の方向と対象を明瞭にし、魔法の矛先や、発生するまでのイメージを明確にしている。

 たまたまかしら。いずれにせよこの状態なら……)


「ミシュリーってば、コトブキちゃんの力をもっと見てみたくなったわ♪本当に死んじゃったら、ごめんなさいね!」

 ミシュリーは、今度は手のひらではなく人差し指で火の玉に指示をするように、左右に手を振った。俺の頭上に半円を描くように火球が並ぶ。


「さぁ!なんとかしてね!お願いよ!」

 無茶言いやがる。

 残りの火球が降り注ぐ。

「くそっ!」

 俺はさっきと同じように、そのうちのいくつかを枝で掻き消した。危ない。正面で火球を振り払うと、炎がこちらに飛んでくる。


 振り払った後の炎がマントに当たった。なるほど、マントも燃えない。燃えてしまうとしたら俺の身体だけなのか。……それなら!

 俺は枝を左手に持ち替えながら、羽織っていたマントを脱いだ。

「そいっ!!」

 上から降る火の粉からガードするようにマントをバサッと広げだ。

「フフ。燃えないからってマントに隠れたのかしら。それだと袋のネズミよ?チンチン丸ちゃんっ!」

 ミシュリーの合図で、いくつもの火球が、俺のマントめがけて飛んできた。マントの上から火球がボコボコと当たる。ただの炎なのに、分厚いマントをボコボコと動かすだけの圧がある。


「……え?」

 そのボコボコのマントが翻った。しかしそこには、触手チンチン丸、つまり、俺の姿はなかった。

 ミシュリーはバッと周りを見渡す。


(このミシュリーちゃんが見逃した……?そんなこと()()()()?いつの間にマントの下から出たの……?)

 するとその時だった。ミシュリーの死角から、コンッという音が聞こえた。

 枝だ――。

「これは……チンチン丸ちゃんの持ってた……。まずい――っ!!」

 ミシュリーはその枝を見て即座に丸太から地上の方に飛び降りた。次の瞬間。

 ゴロゴロゴロゴロ!!!!ピシャーーーーーンッ!!!!!!

 ミシュリーが乗っていた丸太めがけて、何の前触れもなく雷が落ちてきた。ミシュリーがそのまま乗っていたら、消し炭とまではいかないまでも、黒焦げになって絶命していたことだろう。


「枝に魔力を乗せて不運を移し、更にそれを投げて丸太に移すなんて……」

 ミシュリーはゾクゾクしながら笑みを浮かべていた。


 そして、俺は後ろから彼女の左肩を叩いた。

「はぁ……はぁ……。思いついた俺の勝ちだ。まさか……雷が落ちるなんて。悪いな、ミシュリー」

「アハハハ!すごいね!はなまる合格よ!チンチン丸ちゃん♪」


 ◆◇◆


「ということで、今からは腹を割って話しましょ?☆」

 まだ燃え盛る炎の壁の円の中、ミシュリーは魔法で即座に修理した丸太に再び腰掛けて2mくらい宙に浮き、俺は地面にあぐらをかいて腰掛けた。

「ミシュリーってば、丸太の上に居る方が落ち着くのよねー。上からごめんなさい?♪」


「ちなみにこの炎、本当に当たったら死ぬのか?」

 俺は炎を指差して言った。

「あ、あんまり指差さない方がいいかも。火の粉で指が消えるといけないから!」

 どうやらマジでガチの本物の『即死の火球』だったらしい。死にたくないので、俺は少し円の中心の方ににじり寄った。


「改めまして。ミシュリー=ミシュリーヌ=トーレスプーシュよ♪人呼んで、予言の魔女で、果ての魔女で、炎の魔女で、この国で一番可愛い魔女なのよね!」

 最後のは聞いたことがなかったが、まぁいいだろう。


「で、俺の何を知りたいんだ?どっちかと言うと俺の方が、この国のこととか魔法のことをもっと知りたいんだけど」

「そうよね。だけどミシュリーの方が先なのよね」


 ミシュリーはパチンと指を鳴らした。すると、炎の壁の向こうから、ティーカップとソーサーが二組、俺とミシュリーのところにそれぞれ飛んできた。ミシュリーは「どうぞ?」と言ってそれを勧めてきた。どうやら紅茶のようだ。


「ここからは本音で話してもらうわ。ねえ?チンチン丸ちゃん♪」

 俺は紅茶を一口いただきながらミシュリーを見た。

「早速だけど――。王様なんて、やめちゃえば??」

「……え?」

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