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第5話 予言と炎と果ての魔女

 ミシュリー=ミシュリーヌ=トーレスプーシュ。なんて声に出して呼びたくなる名前なのだろう。俺が現世で好きだった漫画にもそんなキャラクターがいたが、そのキャラと張るレベルの語呂の良さだ。


 と、そんなことを言っている場合ではない。

 ここは果ての森の地面の下で、洞窟の中。恐らくビニグナントグリズリーが巣として掘ったものだろう。この穴の中で、俺を親熊の手から救ってくれたのがこの少女なわけだが――。何故だろうか。まだ、()()()()()()()()()()()()()


 洞窟の奥で、ビニグナントグリズリーが子熊の横に座り込み、まだ俺を警戒している。一方ミシュリーに対しては、敵意の代わりに、まるで静かな畏怖を向けているように見えた。


「ミシュリーたちってば、お話するのに、流石にこんなところじゃイヤよね!」

 彼女はまたボソボソっと何かを唱えた。

「アダ……マ……ダーム……」

 すると天井の土にボコッと穴が空いて、巨大な空間が開けた。俺が落ちてきたのではない、硬そうな方の地面なのに。

「はーい♪チンチン丸ちゃん!まずは穴から出るのが先よね!」

 ミシュリーがそう言うと、俺は空中から大きな手で摘まれたように、見えない力で地上に持ち上げられて外に出された。


「コトブキ様!助太刀できず、申し訳ございません……」

「良いんだ、トワリ。早く俺自身が強くならないと……。それより彼女が目当ての?」

「ミシュリーです。ミシュリー=ミシュリーヌ=トーレスプーシュ。彼女こそが、果ての魔女とも、予言の魔女とも呼ばれる人物です」

「例のめちゃくちゃ当たる予言の人ね。魔女って言うからてっきりお婆さんか、せいぜい大人のお姉さんくらいかと思ってたよ」

「ミシュリーは私と同い年ですよ」

「え゛!?」


 逆に驚きだ。ミシュリーの見た目は幼すぎる。トワリはたぶん20代前半か、若くても10代後半くらいだろう。あれ?そもそもこの世界の1年は365日なのかどうか、まだ聞いていなかったな。 


「ミシュリー殿。まずは、コトブキ様を救っていただき、誠に感謝いたします」

「あらあらどういたしまして?まーくんはいつも頑張ってるから、たまにはミシュリーもこのぐらいは働かないとねー!」


 そう言いながら彼女は、指先を指揮棒のように器用に動かして、地面にあいた大きな穴を綺麗に補強しながら埋めていった。硬い地盤が、元の硬さに、いや、元の地盤よりも硬そうに整備されていく。

「これでよしっと。さて、チンチン丸ちゃん。ミシュリーのおうちはすぐそこなのよ。お茶でもしばきながら、ミシュリーの予言を聞かせてあげましょうか♪」

「…………」


 俺は彼女に付いて行こうとする素振りまでは見せたが、返事まではできなかった。嫌な予感がプンプンするからだ。

 ミシュリーは案の定、数歩歩くとピタッと足を止め、俺の方を振り返った。

「ふふ。警戒心は合格だわね。チンチン丸ちゃん!」


 瞬間。

 突然俺達2人の足元を円で囲むように、分厚い炎の壁が地面から生えてきた。


 ゴォアアアッ!!!


 炎の円は勢いよく広がり高くなる。まーくんとトワリはそれを避けるべく、後ろに飛び退いた。同時に俺も、広くなった円の中で、ミシュリーから少しでも距離を取った。


 熱い――。本物の炎だ。


「ミシュリー!!何のつもりですか!」

「あは!ごめんねトワリ。ミシュリーってば、チンチン丸ちゃんとだけお話したいことがあるのよね。2人はしばらくお外で待っててね♪」

「陛下っ!!聞こえますか!」

「ああ……!」

「ミシュリー殿!こんなのは聞いておりませんぞ!」

「そりゃそうなのよ。言ってないもの」


 トワリが長ドスを構える。しかしミシュリーの炎の壁は、高すぎるし熱すぎる。トワリでも突破できそうにはなかった。


「心配しないで♪この炎はミシュリーが完全制御しているもの。森には絶対に燃え移らないのよね。た・だ・し、チンチン丸ちゃんは絶対に触らない方が良いわね!一瞬で消し炭だから!アハハ!」

「何が目的だ?」

 俺は触手を構えた。


「あら!そんなに怖がらないで?ミシュリーの目的は2つ。1つ目は新しいチンチン丸ちゃんとお話をして、あなたのことを知ることなのよ」

「予言でわからないのか?」

「あはは!流石のミシュリーちゃんの予言と言えども、万能じゃないのよね。人の心までは読めないわ!」

「あの2人が一緒にいたらダメなのか?」

「んふ。予言の魔女がわざわざ2人をハブいているのよ?意味がないと思うかしら?♪」


 なるほど――。敵意は無さそうだけど、俺を試す気は満々、という印象だった。トワリといいミシュリーといい、どうしてこの国では、リトマス紙みたいな乙女にばかり出会うんだろうか。


「もう1つは――。どちらかと言うとこれが優先ね♪」

 どうせ()()()()()()()()()()なんだろ?俺は右足を一歩下げた。

 ミシュリーはまた何かをつぶやく。

「ホム……バリエ……」


 やはりそうだった。炎の壁の一部から、サッカーボール大の火球が3つ、いきなり俺に向かって飛んできた。

 俺は前回り受け身でそれをかわした。――森の中で前回り受け身をするのがこんなに嫌な感じだとは。こんなに分厚い王様のマントを着込んでいても、背中に小さい木の枝がベキベキぶつかって痛いし、手のひらもチクチクして痛い。ゲームや漫画のキャラクターはおかしいよ。


「ミシュリー……!!」

「そうよ。トワリにもされたでしょ?♪」

 ミシュリーはニッコリ笑っている。

「チンチン丸ちゃんが『触手チンチン丸』足り得る器か否か。今度はこのミシュリーが、直々に確かめてあげるわ!」

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