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第9話 名乗りを上げろ


 1年生バディは変わらず2人行動だ。


 3年生である彼らが、試合開始直後にしたことといえば感知だった。1人は鐘の音が鳴り終わらないうちから飛びだし、もう1人は動こうともしない。おかげで拠点の位置が丸わかりだ。守備なら魔力を遮断するか拠点から移動するのが常識だが、1年生バディは気付かなかったらしい。


 やや遅れたが反響も使って地形は把握している。川はさっき越えたから、敵の拠点まではそう遠くない。拠点の強襲はリスクも大きいから、できるなら避けたい。けれどこちらは2人、向こうは1人で孤立。圧倒的に有利だ。順調に進んでいた3年生たちは、ふと足を止めてあたりを見回した。


「――霧?」


 薄霞がかかって、遠くの景色がぼやけてくる。今までは晴れ渡っていたのに急に霧が出てきた。


 気のせいかとも思ったが霧の濃さはますばかりだ。やや離れて移動していたのがあだになって、お互いがどこにいるかもわからなくなってきた。近寄ろうにも木々にぶつかってしまうから上手く動けない。


「1年の魔導か?」

「いや――近くで魔力光は見えなかった。早朝で気温も低いから、朝霧だろう」

「山の気候は変わりやすいからなあ。フィールドはランダムだから、こればっかりは運だ」

「一応、居場所は確認しておこう。霧に乗じて1年が奇襲してくる可能性もある」


 魔導主体の彼が感知を発動させた。3年生、それも魔導を得意としている彼なら、誤差40センチ以内で調べることができる。四方八方に薄く魔力を飛ばして反応を待つ。やや長い沈黙の後、彼は声を張り上げた。


「……かなり移動しているぞ⁉ 拠点がら空きになっている」

「はあ⁉ 合流するつもりってことか?」

「いや――1人が川の中流、もう1人はこちらに向かってきているようだ。やはり霧を利用するつもりだろう。さきほど襲撃した方なら、1分もあれば追いついてくる」

「川にいる方は謎だな。合流しようとして迷ったってところか」

「とにかく、接近してくる方は迎え撃つしか――」


 それきり続きが聞こえることはなかった。

 会話の途中だったのに、声がぶつんと途切れた。


「おい? どうした?」


 いくら待っても反応がない。そういえば聞こえていたはずの足音もしない。魔導を使うのに集中しているのかと思ったが、タイミングが不自然すぎる。


 思わず大声で呼ぼうとして――しかし開きかけた口を閉じた。


 代わりに小声で魔導剣を呼び出し、両手に握る。今声を発したら、自分はここにいると宣言するようなものだ。予感が外れていなければ自分のバディはもういなくて、霧の向こうにいるのは彼だけだ。


「……ほらな!」

「うわっ」


 真横の霧が揺らいだ瞬間、短剣が突き出された。魔導剣で受け止めてから薙ぎ払う。姿勢を崩すことはできたが、すぐに立て直して後ろに下がった。あっという間に見えなくなるけれど、霧の合間からちらりと見えた顔は見知ったものだ。


「俺のバディはもう落ちたか? 声も出させずに仕留めるとは大した奴だ。即死させなきゃ、ああはならない」

「…………」

「あいつから狙ったのもわざとだな? 近接主体の俺じゃ、規模のでかい魔導は使えないって踏んだんだろ。相性の悪い方から仕留めるのは基本、ちゃんと分かってるな」

「…………」

「正面戦闘よりこういう方が向いてそうだ。魔導騎士っぽくはないけど」


 カガリは答えることなく、手元で短剣をくるりと回した。


 1人でぺらぺらと喋っている合間にもう一撃。今度は腕をかすったが、手ごたえがない。大した傷にはなっていないだろう。2人まとめて即死させて終わらせる予定だったが、そう上手くはいかない。


 それでも魔導主体を落とせたのは大きい。魔導で霧払いをされるのが一番厄介だが、その可能性もなくなった。このまま攻撃を続ければいつか致命傷を与えられるはずだ。


 互いの優位は揺らぎ、今はややカガリが優勢。

 知っているはずなのに彼は快活に笑うのだ。


「なあ、一年。おまえら名前は?」

「…………………………」


 張り詰める空気と、消えない余裕。

 カガリは魔導剣を握る手に力をこめた。


 もしこれが誘導で、作戦のうちだとすれば、声を出させて位置を把握するつもりなのだろう。この場面で話しかけてくる理由など限られている。どう考えてもその可能性が高い。


 ここで口を開くのは、自ら優位を放棄しているようなもので、愚行だ。わかりきったことを考える必要はない。


 手のひらににじんだ汗が短剣を滑らせる。

 きつく握りなおして、静かに顎を引く。


「カガリ・テイラー。バディはルイ」


 ――どうして名乗ったのか、自分でもわからなかった。

 けれど気付いたときには口にしていた。


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