表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/59

第7話 墓守の華麗なる戦略的撤退


 うっかり視線を向けてしまったのが災いした。真昼の太陽のような眩しさが両目を直撃する。視界は真っ白に塗りつぶされて、目の奥に鋭い痛みが走った。


 何が起こったのか分からない。よろよろと後ろに下がるが、視力が戻らない。


 焦点の合わない目で必死に前を見ようとしても、激しい眩暈がするばかりで、自分の足元しか視界に入らなかった。キンキンとした耳鳴りもして平衡感覚が失われている。今にも後ろへ倒れてしまいそうだ。


 ふらふら動き回るカガリは、明滅する視界で必死に前を見た。


 木々の緑と土色、晴れ渡る早朝の青空。それぞれが油絵具のように混じりあっている。まだ視力が回復していない。崖の上に人影らしきものがあった。腕のあたりに見える長い線は魔導剣だろう。空気に魔力光が残って、火花のように散っていた。


 違和感。

 何かがおかしいと気づいて、カガリはぼんやりとした思考を働かせる。


「もう、1人、は……?」


 確かに2人いたはずだ。なのに影の上にいるのは、どう見ても1人。ならもう1人はどこに――? 木の葉の揺れるわずかな音を聞き取ったカガリは、はっと顔をあげた。


「――レーヴァテイン!」


 とっさの詠唱。


 人差し指の指輪に埋めこまれた石が魔力光を発した。小さな石は光に溶けて、形を変える。瞬きほどの時間で短剣になったそれを引っ掴み、宙へかざす。


「ッ!」

「……おう!?」


 甲高い金属音が響いて、腕に痺れが走った。剣同士がぶつかって、すぐさま離れる。


 魔導剣――魔導騎士が使う唯一の武器。


 高濃度の魔力をまとった石を加工して作られるもので、短い呼びかけによって形を変える。近接戦にはもちろん、もとから宿っている魔力を利用することによって、魔導の補助にもなる。


 どのように変形させるかは使い手次第だ。リーチを活かすための長剣やレイピアがほとんどだけれど、たまに特殊な武器を選ぶ者もいる。


「……短剣持ちってのは珍しいな。だが扱いは難しいぞ、1年生?」

「こんなときにアドバイスありがとうございます、先輩。手加減してもらえればもっと嬉しいんですけど」

「それはどうだろうなあ」


 敵バディの片割れは快活に笑った。いかにも近接主体ながっしりとした体格。背丈もあってカガリとは一回り大きさが違う。武器も重量のある長剣だ。さっきは反射で受けてしまったけれど、正面からぶつかれば、そのうち力負けしてしまうだろう。


 まだ痺れの残っている腕をぶらりと振って、身体を後ろに引いた。距離を保ちつつ、じりじりと移動を続ける。


 男は片耳を塞ぎながら声を張り上げた。


「――交戦中! 悪い、仕留められなかった。合流優先!」

「丸聞こえなんですけど、もしかしてもう1人も来る感じですかね⁉」


 通信は声を発さなければ使えないので、敵の前ではすべて筒抜けになってしまうのが難点だ。カガリにもルイの声が聞こえているが、応答できずにいる。早く態勢を立て直さなければならないが、今はどうすることもできない。


 まずカガリがするべきこと、それは――。


「1年なら、大人しく先輩の剣の錆びになるべきだな!」

「ただのパワハラじゃないですか⁉」


 カガリは両手を開く。

 握られていた短剣は落下し――また指輪に戻る。


「なんで魔導剣を戻して……?」


 敵の目の前で武器をしまうなどありえない行動だ。手ぶらで戦えるはずがない。だがそれは交戦するならの話であって、カガリは別の選択肢を選んだ。


「……じゃ、さよなら!」


 喉仏を狙った剣筋をすれすれでかわし、後ろに倒れこむ。土に両手をついて真後ろに回転し、ついでに相手の剣も蹴り上げた。ひるんだ隙に身体を起こして木の枝を掴む。懸垂のように身体を持ち上げて木によじのぼり、すぐさま次の木へと飛び移る。


「身軽すぎないか⁉」


 地上から追ってくるが、ただでさえ重い長剣を抱えているからそう速くはない。武器をしまうか悩んでいるであろう間に、カガリは木々の間に姿をくらませた。


 もし感知を使われれば位置も丸見えだが、近接主体なら精度も劣るはずだ。半分賭けではあったけれど、追ってこないところを見るに上手くいったようだ。けれどもう1人――おそらく魔導主体――に合流される前に、距離を稼がなければならない。


 カガリは瞬きもせずに木の枝を飛び回った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ