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第58話 笑って



 木漏れ日があたりを静かに照らしていた。

 遠くで鳥の声が聞こえている。


 カガリは剣先を引き抜いて指輪に戻した。ぎゅっと両手を握る。息をする。崩れ落ちたレオナルドは幹にもたれかかるようにして、ずるずると座りこんだ。


「…………カガリ」

「なに」

「楽しかったな」


 ひとり言のようなその言葉に、カガリは「うん」と返した。


「楽しかったよ。人生で一番、楽しかった」


 何も取り繕わない返事にレオナルドは目を見開いて、ふっと目元をゆるめた。


 持っているものすべて投げ出せたのは、相手がレオナルドだったからだ。彼と戦えたから楽しかった。こんなにも本気になれた。勝ちたいと思えた。


 彼の身体は少しずつ光に変わっていく。弱々しく吐血したレオナルドは後頭部をこつんと幹にぶつけた。しばらく虚空を見つめていた彼だが、長く息を吐くと大笑いし始めた。それはもう潔く、爽快に。森の静けさは彼の笑い声で満たされていく。


「はは、あはは――」


 彼は目元を腕で覆った。


「――――悔しいなあ」


 最後に言い残して、彼は消える。


 フィールドに残っているのはカガリだけだ。拠点は奪取していないけれど勝利の判定がなされて、あたりの空間が歪みだした。木々も、青空も、飛ぶ鳥も吸いこまれるように消えて、ふと目を開いたときにはもとの舞台へ戻っていた。


 舞台には四人がそろっていた。

 カガリたちをぐるりと囲む観客席は満杯だ。


「決勝戦はこれにて終了。勝者はバディ・キャット!」


 放送席から勝敗が宣言されて激しい歓声があがる。割れんばかりの拍手が浴びせられる。紙吹雪が舞って髪に絡まる。そのすべてが祝福だった。


「カガリ」


 そばに立っているルイが前を向いたままで呟いた。カガリも宙を舞う紙吹雪をぼうっと眺めたままで答えた。思い出したように彼女の方を向く。赤い瞳はカガリをまっすぐに見ていた。


「これは僕たちの――僕と君の勝利だ」

「そうだな。俺ら二人の勝ちだ」


 視線が交わる。気づいたときにはどちらともなく笑っていた。大声で、誰の目も気にすることなくげらげらと。今はそうしたい気分だった。酔ったみたいに気持ちよかった。最高だった。


 ルイがゆらりと片手をあげた。

 カガリも同じように手を掲げる。


 全身全霊のハイタッチ。手のひらがびりびりと痺れたから、また大口を開けて笑った。



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