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第51話 猫を狩る砲撃


 刃がぶつかるたびに剣が削れて、火花が散る。カガリの剣は上から押さえつけられる。力比べはあまり得意ではない。腕の力をゆるめた瞬間に鳩尾へ蹴りをいれた。ぐふっと声を漏らしたレオナルドは、けれども勢いを使って後ろへ飛びのく。距離を取られてしまった。カガリは慌てて追う。


「――ベル、あれをやるぞ!」


 ほんの少しの隙をついて、レオナルドは通信を発動させた。あれってどれだよ、とカガリが怪訝な顔をしていると、はるか南で何かがキラリと輝いた。目の奥を貫くような眩しい光。


「……ん? うん⁉」


 さーっと全身の血の気が引いていく。

 とてつもなく嫌な予感がした。

 散々見たその光がベルのものだとしたら、次にくるのは。


「俺ごとやっても構わん――撃て!」

「構った方がよくない⁉ 命は大事にしよ⁉」


 魔導光が弾けるように膨らんだ。そして轟音。


 南の木が吹っ飛ばされて宙を飛んだ。乱暴に地面までえぐってしまったから、土煙が視界を覆いつくしていた。靴裏から伝わってくる振動によろける。大地震でも起きたかのようだ。


 光線は木々をなぎ倒しながら、カガリたちめがけて真っ直ぐに飛んでくる。本当にレオナルドごと消し飛ばしても構わないという威力――彼のそばにいてもまったく安全ではない。というより、むしろレオナルドの位置を座標にして撃ってきているのだろう。


 レオナルドはふっと息を吐くと、勢いよく振り返った。


「……よし、逃げるぞカガリ! 言っておくがおれに期待するな。このままではおれも塵に還る!」

「やっぱりおまえ馬鹿だろ⁉」


 言われなくても逃げるわ、と叫んでから西へ走る。街を抜ければ狭い森だ。レオナルドもついてくる。全力で走りながらも喉笛を掻っ切ろうとするが、長剣だとどうにも上手くいかない。


 このままではらちがあかない。魔導剣を一度しまってから助走。頭上にあった木の枝を掴む。ぐるんと身体を回して飛び乗ってしまえばカガリの独壇場だ。どんどん飛び移って距離を稼ぐ。ローブがたなびいて音をたてる。レオナルドは地上から魔導でカガリを撃ち落とそうとしてくるけれど、さすがにこの速さでは照準も合わないようだ。


 とはいえ砲撃はやまない。

 カガリたちを西へ追いやるように、何度も撃たれる。


 もと来た道を戻らされているような気がする。頭の中で地図を思い浮かべた。このまま西へ向かっていればいずれ――。


「っ!」


 もう木がない。カガリはせめて全力で飛ぶしかなかった。森の出口と、その先に広がっているのはもとの草原だ。受け身を取りながら草原に身を隠す。土を転がったからローブは土まみれだった。


 頬に付いた泥をぬぐって、もう一度長剣を出す。ほんの少しの魔導光だったけれど、レオナルドが見逃してくれることはなかった。光魔導が飛んできたので横に飛びのく。草が揺れてカガリの位置は丸見えだ。もう這いつくばっている意味はなく、重い腰を上げる。


 森の方を見やった。砲撃はもうやんでいた。やっぱり草原まで追いこむための作戦か、とカガリはため息をついた。


「さあ仕切り直しだ。この草原で正々堂々と戦おうではないか!」

「正々堂々の意味って知ってる? 知らないでしょ。辞書貸してあげようか?」

「失敬な。正々堂々とは……その、あれだ」

「語彙力!」


 開けた草原にはそよ風が吹く。青い空からは柔らかな日差しが降り注いでいた。魔導剣は光を反射してきらりと輝く。


 結局のところ、おたがいの目論見は上手くいったような、いかなかったような――対戦カードとフィールドの選択権を入れ替えただけだ。「ごちゃごちゃ読み合って馬鹿らしいよな」と肩をすくめれば、レオナルドはふっと笑って「たまには遠回りも悪くない」と返した。


「俺は遠回りなんて好きじゃない」

「だろうな。訊かんでもわかる」


 レオナルドは苦笑しながら、剣を持つ腕を上げた。


「そういうやつだ、おまえは」

「知ったようなこと言うなよ」


 今からしなければいけないことは一つだけだ。


 どちらも決着を望んでいて、手段は自分たちの手にある。

 カガリは手を前に突き出して、何度もそうしたように唇を動かす。


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