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第48話 頭脳戦


 フィールドが展開される。スタート位置は北側。


 もうすっかり慣れた浮遊感だった。瞬きすればあたりの景色は一変した。さて今日のフィールドはどんな調子だろう、とカガリは目を開いてみる。静かに息を吐いてから見回す。


 緑の瞳は2度瞬きを繰り返した。

 爽やかな風が吹いて、ローブの裾が舞い上がった。


「……草原……」


 どこまでも続くような新緑の平地。青々とした草は風に揺れて一斉になびいた。のどかな景色には柔らかな日差しが降り注いでいる。よく晴れた穏やかな午後だ。


 思わず1歩踏み出した。

 膝丈まである草で足元はよく見えない。靴で土の感触を確かめる。


「まずいな」


 カガリは空を見上げた。

 遮蔽物がどこにも見当たらない。


「これじゃ俺は丸腰と一緒だ。障害物がないと、いつもみたいに動けない」


 フィールドはいくつもの中からランダムで選ばれる。だからいつかは不得意なフィールドにあたることになるだろう。けれど物事にはタイミングというものがある。深いため息をついたルイは、やや呆れ顔だった。


「最後の最後で平地のフィールドを引き当てるなんて、君は日ごろどんな行いをしているんだ? 胸に手をあてて考えてみるといい」

「一昨日ルイの課題を丸写しにした」

「なるほど、よく僕の前で言えたね。子どもなら褒めてあげたいところだが、君のことは殴る」

「おまえは俺の人権について理解を深めたほうがいいな」


 ルイは少し離れたところを歩いた。草をかき分けるようにして進んでいく。カガリは拠点の旗を肩に担ぎなおすと、だんだん遠くなっていく彼女の背中を追いかけた。


「ねえルイ、東側に何があるか見える?」

「うっすらとなら……。森と、建物かな」

「この距離からってことは結構な高さがあるな。棟――上に時計みたいなのも見える。時計塔か。ってことはたぶん街があるんだと思う」


 ぎゅっと眉間にしわをよせながら言う。ルイは「相変わらずの視力だね」と驚いたように返した。足を止めることなく東を目指して進む。


「俺らは街中で戦う。こんな平地じゃ勝負にならない」

「それには賛成するけれど、クラウンが乗ってくるか? 彼らだって、自分たちに有利な草原で戦いたいはずだよ」

「間違いなく乗るね」


 カガリははっきりと言い切った。


「クラウンの作戦なら大体読めてる。おまえにレオをぶつけて、先に落とすつもりだ。おまえらの相性がそんなに良くないのはわかりきってるし、スタイルが似てるからこそ、正面戦闘じゃ分が悪い。だからあいつはフィールドより、誰が誰と戦うかの組み合わせを優先するはずだ」

「……まあ、うん、そうだね」

「逆を言えば、フィールドの選択権は俺らにあるってこと」


 あくまで条件はイーブン。でもそれだけではまだ足りない。確実に勝つためには、相手のねらいを妨害しなくてはならない。カガリは早足でルイに追いついた。


「そもそもあいつらに俺とルイを区別させなきゃいい。感知で人の見分けまでできないしね。幽潜を使えないから位置はバレるけど、これで対戦の組み合わせはめちゃくちゃにできる」







「――と、カガリは考えるだろうな」


 レオナルドはふっと笑みを浮かべた。彼と過ごした時間は短いけれど、性格や思考回路は理解しているつもりだ。少なくとも不利だと知っていて突撃してくるような、無謀な人間ではない。こちらの裏をかいてくるはずだ。


 拠点の旗を突き立てたレオナルドは南側を見やった。ベルは小首を傾げる。


「だったらどうする? カガリの考えは的を得てる。ルイが幽棲を使わないなら、私でも感知で区別するのは無理。確率に賭ける?」

「うん? それこそ無謀だな。外したときのリスクが大きすぎる」

「手はあるの?」

「むろん。見分けなど簡単につくさ」


 レオナルドは不敵に笑んだ。


「おまえの力があればな」


 戦闘開始の鐘が鳴らされた。

 ようやく始まる――最後の試合が。


 3度目が鳴り終わるとすぐにベルが視線を向けてきた。「打ち合わせどおりにやれ」と指示を出せば、彼女は魔導剣を顕現させる。


「レオ、私の後ろに。耳も塞いで」

「言われずとも」


 開始直後の動きが、これからの戦況を大きく動かすことになる。ほんのわずかな時間で魔力の流れを整えて、剣先をまっすぐに南へ向けた。


「鳴弦」


 詠唱。剣先に宿った魔力光は一面に広がり、草原を駆け抜けていく。レオナルドは両耳をきつく塞ぎながらうっと顔を歪めた。耳が壊れそうなほどの甲高い音が響き渡る。


「……ッ、強烈だな」


 彼女の背後にいて耳も塞いでいるのにこの威力。真正面にいるであろうカガリたちはたまらないだろう。とてもではないが、平気で動き続けることはできない。必ず止まり、そして――ルイなら魔導を使ってでも防御するはずだ。


 間髪入れずに感知を発動した。両目を閉じて集中している彼女はふと顔をあげて、レオナルドを振り返った。


「3時の方向に強い魔力反応あり。たぶん何かの魔導を使ったんだと思う」

「よし、ではそちらがルイだな」

 

あとは作戦通りに動け、と指示を出して同時に動きだす。レオナルドはルイのもとを目指し、ベルはカガリのもとへと走りだした。


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