第42話 俺がおまえを選んだ
それを否定してやることはできない。
カガリが首を振ったって事実は覆らない。
「……いい?」
それでも彼女のネクタイを掴んで引っ張る。ルイは息苦しそうに顔を歪めた。額がくっつきそうな距離で、カガリは断言する。
「それでも俺のバディはルイだ」
彼女が息を止めたのがわかった。どんな事実だって覆りはしない。それがどれほど嬉しいことでも、悲しいことでも。
「忘れないで。俺はルイを選んで一緒にいるんだよ。もし今レオと組めるって言われても、俺はルイを選ぶ。誰に何回訊かれたって俺はそうする」
「……どう、して」
「あんまり言わせないでよ」
目を逸らそうとして、けれどもしっかりと彼女の目を見る。
「俺に合わせてくれるのなんか、ルイだけだ」
きっとカガリは一人では戦えなかった。強みと同じくらい弱みもはっきりしている。いつか頭打ちになって詰んでいただろう。なのに自由に飛び回って自分の強さを発揮できるのは、そばでルイが支えてくれるからだ。欲しいときに欲しいものをくれる彼女がいるから戦える。
レオナルドでは駄目だ。
エリザでも、ベルでも、他の誰でも駄目だ。
強さだとか役割だとか、そういう次元の話ではない。自分のすべて賭けてもいいと思えたのはルイだけだから。
初めて一緒に戦った日――何の迷いもなくカガリのもとへ走ってくれたルイだから、自分も彼女を信じてみたいと思った。あのときカガリがどれだけ動揺して、どれだけ嬉しかったか、彼女は知らないだろう。知らなくていい。自分だけが知っていればそれでいい。
「俺がおまえを選んだ」
たとえ偽者のルイ・クラウディアだったとしても。
本当の名前すら知らなくても。
カガリは笑った――笑ってみせる。
「おまえはやるべきことをやるんだろ。ならちゃんと立って、俺と戦ってよ」
言いたいことはそれで全部だ。
ルイは泣き出しそうな顔で「うん」とうなずいた。
「――そうだったね」
カガリはネクタイを引っ張る手を緩めた。彼女はカガリの手をそっと剥がして、乱れた胸元を整える。軽く鼻をすすってから両手を強く握りしめる。赤い目元をごしごしと乱暴にこすって、顔をあげた。
「レオナルド! 選手交代だ、僕が前に出る」
「了解した!」
レオナルドは素早く退却した。制服はところどころ擦り切れて、戦闘の激しさを物語っている。口元ににじんでいる血をぬぐった彼は、「後は任せる」と2人の肩を押した。
勝負はここからだ。前に出たカガリたちは魔導剣を握りなおす。それぞれが足を踏み出そうとしたとき、エリザが声をあげた。
「すみません、少しいいですか?」
「なんだ、エリザ」
「2つ、気づいたことがあります。みなさん私のそばへ」
カガリたちも後ずさりして彼女の声に耳を傾けた。ひそひそ声で作戦会議が始まる。
「1つ目は魔獣の反応です。目が感覚器官であることは間違いありませんが、声にも強く反応を示したように見えます。私たちが大声で連携を取ればすぐに襲われるでしょう。接近後の打ち合わせは最小限にするべきです。そして2つ目――これはあくまで私の仮説にすぎませんが」
彼女は1拍置いて、続ける。
「魔獣の回復速度が異常すぎます。もしかしすると回復といより、そもそも本体に攻撃が届いていないのでは?」
「つまり?」
「私たちが戦っているのはただの身代わりではないか、ということです」
カガリは敵を二度見した。だとすれば今までの苦労は一体何だったというのだろう。愕然としたくなったが、そんな時間は1秒もないのでぐっと堪える。
「……エリザの言うことが正しいなら、どんな攻撃も通らない理由になるね」
「さきほどレオナルドさんが背後に回ったとき、魔獣は明らかに激昂しました。本体があちら側にあるのではないかと思うのです。心当たりはありませんか?」
「ふむ、そういえば通路が見えたな。行き止まりのようだが、奥に本体があるのかもしれん」
「試す価値はある。でもどうやって? わたしの魔導でも傷1つ付けられなかったのに、あれの隙を作るなんて無理」
「むしろ魔導剣による直接攻撃の方が効いていたな。鱗はとんでもなく固いが、隙間を狙えば多少のダメージは与えられる。……すぐに回復していたがな」
レオナルドは苦々しい顔で肩を落とした。
カガリは床に向けたままの剣先を見つめる。
「…………少しでいいなら時間稼げるかも」




