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第38話 最大火力


 魔獣が甲高く吠える。


 まっさきに駆けだしたのはカガリだ。やるなら速攻、敵に余裕がでてくる前に仕留める。素早く距離を詰めていく。寸前で進路を変えて、魔獣の死角にもぐりこんだ。あれだけの巨体だから、動きはのろい。カガリの姿は一瞬でかき消えた。


「……ッ」


 まずは足だ。

 短剣をくるりと持ちかえて、強く握りしめる。太い前足に短剣を突き立てた。キンと激しい金属音が響く。赤い火花が散った。手のひらから肘まで鈍い痺れが走って――気付けば跳ね返されていた。


「カガリ!」

「うわっ」


 反動で腕が跳ね上がった。足元までぐらついてバランスを崩す。左手を床につきながら、後ろに回転してなんとか立て直す。綺麗に着地したカガリは息を吐いた。自分の魔導剣をゆっくりと見下ろす。右手が小さく震えていた。


「――かったい! 直接攻撃入らない!」


 痺れのとれない手首をぶらぶらと振った。鱗が頑丈すぎて、剣先が通りそうにない。


「ならば魔導を試すまでだ。ベル、あと何秒かかる?」

「最大火力まで150秒」

「そのまま続けろ。カガリはおれと来い、時間を稼ぐぞ!」

「りょーかい」


 レオナルドは広間の真ん中で立ち止まった。魔獣は喉をうならせながら彼を見下ろした。ずっしりとした前足をあげて、レオナルドを踏みつぶそうとする。彼の身体に影が落ちる。「お」と声をあげたのと、足が思いのほか勢いよく振ってきたのは同時だった。


 石のタイルが割れる音が響いた。

 舞い上がる石つぶてと砂埃。


 寸前で回避したレオナルドは、爆風に巻きこまれてごろごろ転がった。何とか受け身を取って起き上がると、青い顔のままでふんぞりかえった。


「はは、図体だけだな!」

「今結構ギリギリだった気がするけど?」


 つっこみは忘れない。とにかく魔導隊から視線をそらせなければいけない。カガリもわざと姿を見せて挑発する。彼とは別方向へ走った。魔獣は2人をきょろきょろと見比べて、順番に潰そうとする。だがちょこまかと動き回るカガリたちを捉えることはできない。


「――ベルさんの準備が完了しました。魔導を発動させます!」

「近接隊、退避!」


 カガリは左、レオナルドは右へ。真正面に射線を通す。


 ベルの小さな身体に似合わない長剣は、膨大な魔力光をまとっていた。すっと向けられた剣先。床に伸びる影が消えるほどの閃光がほとばしる。


「神光」


 ベルは淡々と口にする。


「――ッ!」


 収束した光は目にも止まらない速さで飛んでいった。光線に触れた瓦礫は溶けるように蒸発する。床に伏せていたカガリはヒュッと喉を鳴らした。この前の試合でレオナルドに撃ち抜かれたときとは威力が違いすぎる。かすっただけでも、半身が消し飛んでいただろう。


 冷や汗がにじみ始めたころには攻撃は終わっている。超威力の魔導はぶれることなく直撃した。


「ッ!」


 残った光はあちこちに霧散する。四方八方の壁を破壊していくから、カガリは慌てて頭をかばった。瓦礫は敵味方関係なく降り注ぐ。


「…………もういい?」


 カガリは恐る恐る顔をあげる。あたりに立ちこめている土煙で仲間の姿すら見えない。


「目標への直撃を確認しました!」

「さすがにやったでしょ。これで生きてたら俺ら詰んでるって――」


 あの攻撃を食らって沈んでいないのなら、手の施しようがない。カガリは苦笑いしながら身体を起こした。そしてフラグは迂闊に立てるものではないなとも思った。


「――うっわ、詰んだよ」


 短剣を握っている腕がだらんと下がった。木の幹のような前足が浮いて、床を踏み鳴らす。振動でカガリの身体がわずかに跳ねた。かすり傷一つついていない巨体は、相も変わらずカガリたちをゴミのように見下ろしている。ルイは途方に暮れたように「はは……」と短く笑った。


「これは――倒せないように設定されているんじゃないか?」

「それはないと思う」


 カガリも首が痛くなるほど真上を見上げて、呆然と呟いた。


「攻略不可能なトラップをつくる意味がない。だから設定じゃなくて――単純にあいつが強すぎるってだけ」


 口角はひきつったままだ。心を折るには十分すぎる事実だった。


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