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第37話 臨戦態勢


「現実を直視したくないんですけど!?」

「らしくないことを言うな、カガリ。それはおれの台詞だ」


 背筋が凍り付く。冷や汗がだらだらと流れていた。「誰か解説よろしく」とぶん投げれば、エリザが一歩前に進み出た。


「仮想幻想魔獣――訓練や対戦に使われる疑似存在です。公式ルールではまだ認められていないので、主に興行としての意味合いが強いですが」

「ごめん何言ってるかわかんない」

「現実には存在しない、架空の敵ということだよ!」


 あんなものが現実世界を闊歩していたら世界はとっくに滅亡しているだろう。カガリは「よかったよ架空で! いや全然よくないけど!」と髪をガシガシかき乱した。


 だんだんと状況が読めてきた。これはトラップだ。


 最短距離で向かってくるチームをゴール目前まで誘いこんだあげく、すげなく追い返すためのものだろう。もうすぐ到着だと思っていたところにこれは、精神的ダメージが大きい。満面の笑みを浮かべているアンリが簡単に想像できたので、人目も気にせず舌打ちした。


「どうするの、これ。化け物退治の経験あるやつは速やかに名乗り出てよ」

「幸い逃げ道はある。引き返して別ルートから向かうこともできるけれど――」

「それ愚問じゃない? どこにそんな時間があるんだよ」


 時計がないから体感でしかわからないが、一晩は経っているだろう。カガリたちに残されている時間はそう多くないはずだ。引き返せば確実に間に合わない。今までの行動すべてが無駄になってしまう。なら、やるべきことは一つしかない。


「レーヴァテイン!」


 全員が魔導剣を顕現させた。

 逃げ出したい人はいなかったらしい。


 それでも実際問題、どう立ち回ればいいのかわからない。前後に散らばっている5人はそれぞれ様子を伺っているが、誰も踏み出せずにいる。じりじりと距離を取りながら魔導剣を握りしめる。


 そもそもこのチームで戦ったことがない。誰がどう動くのかわからないから、迂闊に突撃もできない。ぴりつく空気を打ち砕いたのはレオナルドだった。


「陣形を組むぞ!」


 彼が声を張り上げる。


「全体の指揮はおれがとる。前衛は近接隊、後衛は魔導隊だ!」

「ちょっと待って、なんでおまえが指揮することになってんの?」

「カガリがやってもいいぞ?」


 意外にもあっさり返されたので唇を結んだ。一応言ってみたが、カガリは集団の指揮なんてできない。この中で一番向いているのがレオナルドだということにも異論はない。真顔で「俺はパス」と返せば、残りの3人も深々とうなずいた。


 結局、指揮権はレオナルドのところへ戻っていった。彼は順番に指示を出す。


「おれとカガリが最前線で注意を引きつけながら、積極的に有効打を狙っていく。いけるな?」

「了解」

「ルイは魔導隊を守りつつ、おれたちを援護してくれ。隙があればおまえが仕留めるんだ。必要だと判断したら、おれたちの前に出ていい」

「わ、わかった……」


 ルイは自信なさげに頷いた。さらに指示が飛ぶ。

 

「ベルは最大出力で攻撃しろ。時間はこちらで稼ぐ」

「うん」

「エリザは全体の支援だ。おれに何かあった場合はエリザに指揮権を移すから、そのつもりでいてくれ」

「承りました」


 それぞれが配置につく。カガリはレオナルドの隣に並んで短剣を構えた。視線を向けて号令を求めれば、彼がこほんと咳払いした。


「では改めて――Cチーム、臨戦態勢! これより攻撃に移る!」


 了解、という声が重なった。


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