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第29話 捕らわれた5人


 広いだけの演習場だったはずなのに、カガリたちは薄暗い通路に棒立ちになっていた。ずっと奥まで続いている通路の先は見えない。ところどころに立てられた松明の火は、吹き抜ける隙間風でゆらりと揺れた。迷宮という言葉にふさわしい場所である。


「…………」


 全員がゆっくりと顔を見合わせた。

 けれど何も言わない。何か言ったら負けのような気がしていた。


 カガリはちらっとルイを見るが、彼女は驚いたように視線をうろうろさせたあげく、カガリにパスを返してきた。見なかったことにすると、今度はエリザに助けを求める。眉を下げた彼女は彼女で、レオナルドの方を見た。彼は笑みを浮かべたまま固まっていたので、役に立ちそうにはなかった。ベルはいつでも無表情で何考えているのかわかったものではない。


「……状況を、整理しましょう」 


 数秒してようやくエリザが口を開いた。そろって無言のまま頷く。いつまでも現実逃避はしていられない。


「私たちは閉じこめられた――ということで間違いありませんよね?」

「俺にはフィールドって聞こえた。ここがフィールドの中っていうのも確定でいいでしょ。でも急になんで? ドッキリ?」

「まあ事故だろうな。うっかりフィールドの設定を切り忘れたのだろう」

「よーし、そいつ見つけて袋叩きにしよう!」

「君には倫理観というものが欠如しているのか⁉ そもそも出られないんだよ僕たちは」


 ルイに横目で睨まれた。カガリは両手を上げる。


「おそらくだがチーム演習に設定されているのだろうな。ベルが入ってきた瞬間に展開が始まったのも納得がいく。5人で入ってしまったのが運の尽きだったな」

「それで君、ベルに外へ出るように言ったのか? あんな状況でよく頭が回ったね……」

「あの時点ではそこまで考えていなかったぞ。1人でも外にいれば、助けを呼べると思っただけだ」


 レオナルドがゆるく腕を組んだ。とっさの判断にしてはよかったが、一度フィールド展開が始まってしまえば外には出られない。彼は「結果的には無駄だったがな」と付け加えた。


「ちょっと質問」


 話を聞いていたカガリが小さく手を挙げた。


「フィールドにしてはおかしくない? 俺らが使ってるのと違いすぎると思うんだけど」


 今までの予選トーナメントや授業でもフィールドは使ってきた。けれどいつもなら障害物はあっても、戦えるだけの広さは用意されている。今放りこまれているフィールドは進むので精一杯だ。こんな場所で敵チームと戦えと言われても困ってしまう。エリザは頬に手をそえた。


「アナウンスから考えてフィールド名は地下迷宮(ラビリンス)です。……先輩から話を伺ったことがあるんですけれど、このフィールドは戦闘力というより総合力を重視しているとか。ですから私たちは敵を落とすのではなく、クリア条件を満たさなければ外へ出られない――ということだと思います」


 カガリは「迷惑にもほどがあるんだけど」と顔を歪ませた。


「クリア条件は目的地への到達、というアナウンスがあったね」

「でもどうすんの? 俺らなんも準備してないし。そりゃ魔導剣くらいは持ってるけど、制服のままじゃ動きづらい。攻略しろって言われもかなりきついでしょ」

「時刻も方角も分かったものじゃないからね……」


 肩を落としたルイは、しかし自分の言ったことに「あっ」と声をあげた。


「何も攻略する必要はないじゃないか! 僕たちが出発したのは放課後、つまりだいたい16時ごろだ。このままだと寮の門限破りになってしまう。だとすれば明日の昼ごろには異変に気が付いて、寮長が僕たちを探し始めるはずだ!」


 言われてみれば、全寮制なのだから当たり前のことだ。なぜ気が付かなったのかわからないくらいである。カガリはぽんと手を打った。


「丸1日、ここで寝泊まりすればいいってわけね」

「エリザやベルには申し訳ないけれど、今は非常事態だ。身体が冷えてしまうけれど堪えてほしい。レオナルドもそれでいいか?」


 考えこむように宙を見ていたレオナルドが、ぱっと視線を向けた。


「ん? ああ、むろん――」


 大きく頷きかける。


「…………ダメ」


 それを遮るように、ずっと黙ったままのベルがぽつりと呟いた。ルイが不思議そうに首を傾げると、彼女はやっぱり真顔のままで続けた。


「明日の朝はクラウンの準決勝」


 通路はしんと静まって、風の吹き抜ける音だけがよく聞こえた。カガリもルイも頭の中でトーナメント表をぼんやりと思い浮かべていた。自分たちの準決勝は4日先だけれど、確かクラウンのいるブロックは――。


 カガリは苦笑いを浮かべながら、レオナルドに視線を投げかけた。


「……ああー、それで帰るの急いでたのか。納得した」


 彼は少し気まずそうに顔を背けた。隠していたという自覚があるのだろう。「そうだったな。今思い出した」などと白々しく口にしているけれど、棒読みだった。


「ならこのまま待っていたら、君たちが試合に間に合わないじゃないか!」

「遅刻は不戦敗。ルールで決まってる」

「ではやはりフィールドを攻略するしかない、ということでしょうか。せめてお2人だけでも外へ出られればいいのですが……」

「君たち、試合は何時からだ?」

「朝の9時」

「ここにきたのが16時だとすれば、残り17時間というわけだね……。それまでに君たちを脱出させないと」


 時間制限があるなら悠長にしていられない。ルイは通路の先を見やったが、とはいえ名案は浮かばない。先の言葉が出てこないからまた沈黙になる。それぞれが頭をひねっていた。


 カガリも考える。 

 ぴちゃん、と水滴の落ちる音が反響する。


「…………あのさ、今気づいたんだけど」


 カガリは声のトーンを落とした。全員の視線が自然と集まる。どことなく居心地が悪くて顔を背けたくなる。


 これに気が付いたのと同時に、言わない方がいいかもしれないと思った。


 もしルイやエリザなら気づいても黙っていただろう。というより想定すらしなかったかもしれない。けれどカガリは黙っているつもりはなかったし、このまま進むのなら全員が知っておくべきだ。カガリはぼそぼそと唇を動かす。


「ちょっとおかしくない?」

「何が」

「タイミングが悪すぎるってこと」


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