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第28話 地下迷宮


 数日が過ぎて、準決勝も近づいてきた。


 ちょうど次の対戦相手も決まったところだ。3年生のバディらしい。進級試験の点数稼ぎのためにイベントごとに参加しているようで、対戦データが山ほどあるから、1つ1つ調べるのに時間を取られてしまう。


 放課後、カガリは足を組みながら紙束をぺらぺらめくっていたが、早くも頭が痛くなってきた。しかもレオナルドが「調子はどうだ。今日の小テストは全部落としたらしいな!」と絡んでくるので、ろくに集中もできない。これで悪気がゼロなのだから余計にむかつく。


 レオナルドに付きまとわれてうんざりしていると、ルイが小走りで戻ってきた。


「それで、なんだったの?」

「教官からの伝言らしい。Cチームで地下演習場の様子を見てくるように、と言われたよ」


 そばにいたレオナルドが「おれたちもか?」と首を傾げた。


「集団行動とはこういう意味か。ベル、エリザを呼んできてくれ」

「放課後に雑用とか聞いてないんですけど。大体、様子見するのにチーム5人もいる?」

「僕も詳しいことは聞けていないけれど、教官から言付かったそうだよ。たぶん来週に地下演習場を使うからだろうね。何か荷物があれば、持ち帰ってくればいいらしい」

「面倒くさ……。さっさといってさっさと終わらせよ。作戦会議もしたいし」

「お、準決勝の作戦か? キャットの試合は4日後だったか。まだ余裕がありそうだが、作戦の助言がほしければいつでも言ってくれ。おれもどうせなら決勝でキャットと戦いたいからな」

「作戦って、どーせ近寄ってきた敵を順番にぶちのめすとかでしょ」


 期待半分、諦め半分で訊き返してみる。レオナルドは目を丸くした。


「なぜわかった?」

「たった今、俺の10秒が無駄になった。利子付けて返せ」


 クラウンの基本戦略は迎撃だ。自分からはあまり仕掛けてようとしないあたり、自信と尊大さで溢れかえっているし、カガリには何の役にも立たないアドバイスだった。


 Cチームが全員集まったところで地下演習場に向かう。入学してすぐの校内案内で行ったきり、立ち入ったことはない施設だ。エリザは道案内をしながら「珍しいですね」と言った。


「地下演習場はいつも鍵がかかっていて、立ち入り禁止だと聞いていたので」

「鍵はもう開けてあるそうだよ。夜には閉めるから、今日中に済ませるようにと言われたんだ」

「どちらにせよ急ぐか。おれもできれば早く帰りたい」

「意外。おまえ時間とか気にしなさそうなのに」

「普段はあまりな。予定管理もベルに任せきりだ。とはいえ明日は――」


 先頭を歩いていたエリザが「着きました」と振り返った。そびえたっているのはこざっぱりとした石造りの建物だ。正面入り口はそのまま地下への階段につながっている。


 エリザとルイがゆっくりと階段を下っていった。すぐ後ろをカガリが歩いて、横に並ぼうとするレオナルドを適当にあしらう。少し離れたところからベルが追う。


 階段を下りきった先はだだっ広い空間だった。


 いつもの演習場と同じように観客席もある。けれど地上まで吹き抜けになっている天井や、四方八方をぐるりと囲まれている感覚はどこか異様だ。闘技場のようでもある。


 地下のひんやりと冷たい空気が通り抜けて髪を揺らした。上着を着ているのに肌寒い。カガリは腕をさすりながら天井を見上げる。


「そういや地下演習場ってなんであるの? いつもの屋外演習場だけでよくない?」

「ここは特殊なフィールドがそろっているそうですよ。とはいえ建てられたのはここ数年で、考案者はあのアンリ・ルノワールだそうです」

「…………なーんか嫌な予感がするんだけど」

「その話は僕も聞いたことがあるよ。アンリ・ルノワールが在学中に練っていたアイデアらしいね。タイトルを取ってから強引に作らせたとか、なんとか」

「もっと嫌な予感がしてきた」


 カガリは眉をひそめた。あの男が純粋な善意でそんなことをしたとは思えない。悪意ではないにしろ、おそらく何かある。もっとこう、人をおちょくって遊ぶような何かが――。


「レオ、落とし物。拾っておいた」


 ベルがようやく階段を降りてきた。なかなか来ないと思っていたら、レオナルドのポケットから落ちたメモを回収していたらしい。レオナルドは「助かる。まあ大したものでもないがな」と笑った。いつも微妙に一言余計なのだ。


 開いたままになった扉には触れないで、ベルが足を踏み入れた。靴音がコツンと響く。


 ピリ、と光が走った。


「…………?」

「今、何か光らなかったか?」


 見間違いかと思ったけれど、ルイやエリザもあたりをきょろきょろと見回していた。少し離れたところにいたカガリは、ルイたちのもとへと駆け寄る。


 だが疑問はすぐに混乱へ変わった。

 激しい魔力光がほとばしって、あっという間に広間を覆いつくした。


「何これ!? まぶし……っ」

「空間が歪んでいないか⁉ この魔力光は僕たちのものじゃないぞ!」


 みるみるうちに光は強まる。目元を覆ってうつむくカガリたちは何もできない。レオナルドがはっと目を見開いて、腕を振った。


「ベル、外へ出ろ!」


 彼女はこくんと頷いて踵を返した。意味は理解していない。それでもレオナルドがそう言ったから、というだけで駆けだした。振り返りもせずに突っこんでいく――けれどもう間に合わない。伸ばされた手のひらは宙をかいただけだ。扉は光と一緒に消えてしまう。


『5名の入室を確認。フィールド・地下迷宮(ラビリンス)を展開中』


 アナウンスが頭上から降ってくる。カガリは薄目を開けて見上げたけれど、視界は白く塗りつぶされていた。


『フィールドの展開完了。クリア条件、目的地への到達。痛覚設定50パーセント。これより演習を開始します』


 数秒。ゆっくりと両目を開いてあたりを見渡す。

 魔力光は消えていた。


 そして元いた場所でもなくなっていた。


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