第26話 悪の密談
夕陽の差しこむ教室――2人の男が机の上に座っている。ネクタイの色は3年生のものだ。片方の男は組んだ足をぶらりと動かした。
「準々決勝もクラウンが勝ちあがったんだって?」
「ああ。あっちのブロック、4年生も多かったんだけどな」
トーナメント表をなぞりながら確かめる。クラウンは1年生バディだ。1年生はほとんどが初戦敗退、運が良くても2回戦で負けるのが毎年恒例である。だというのにクラウンは余裕の快進撃を続けていた。
「たぶん準決勝も勝つんじゃないか? 俺たちと決勝であたるのはクラウンになるだろ」
「2人とも強いんだってな」
「特に男の方、レオナルド・アルバーニってやつがやばい。この前試合見に行ったけど、あれは駄目だ。上級生でも近接主体じゃなきゃ5分もたない。かといって避けても相方の魔導が飛んでくるって仕組みらしいぜ」
「えぐ……」
レオナルドの噂は上級生でも知っている。オールラウンダーのくせに近接主体並の強さだとか、作戦も抜け目ないだとか、声がデカいだとか――男は肩をすくめた。
「そういやうちの準決勝の相手は誰だっけ?」
「あー、こっちも1年バディだな。キャットだって。知ってる?」
「片方が魔導まったく使わないやつだろ。奇襲にだけ気を付けてたら大丈夫だ。大した実力はない。相方はオールラウンダーで結構優秀っぽいけど――アルバーニと比べたらかすむよな」
「あるある、そういうの。運悪いよな」
軽く笑って、机からとんっと降りる。2人で組んでいるバディが準決勝であたるのは『キャット』だ。この試合は勝てる。どんな奇策でも、実力でねじ伏せてしまえばいいだけだ。
問題は決勝戦――クラウンとの試合である。
「正直、クラウンとやって勝てるか?」
「割と怪しい。フィールド次第って感じだろ。一年相手に運任せってどうなんだろうなあ」
「…………その件でちょっと相談なんだけど」
声をひそめた男は、開いていたカーテンをゆっくりと引っぱる。眩しい光は途絶えて、教室は薄暗くなった。伸びていた影も消える。
「クラウンを準決勝敗退させればいいってことだろ。……いい方法思いついたんだよ」
男がぼそぼそと話し始めた。
「――というわけで、これから先は5人制の演習も行う。しかし1年生はまだ正式チームの結成数が少ない。そこで便宜上、授業のための仮チームを組んでもらう」
1年生の集まる教室で教官・アーネットが黒板をバンッと叩く。貼り出された紙には名前がずらりと書かれていた。カガリは隣に座っているルイをちらりと見る。何あれ、と視線だけで訊ねるも、彼女も首を傾げるだけだ。
チームは5人1組で作られる。五人制の試合をするならチームが一単位だ。生徒の一人が手を上げた。
「質問でーす。メンバーって自由に選べないんですか?」
「あくまで授業のための仮チームだ。いちいち揉めるのも面倒だから、事前にこちらで組ませてもらった。正式バディとして登録している者は多いから、一応メンバーの考慮はしている」
「メンバーは1年間同じということですか?」
「集団行動や雑用にも使いたいからな。特別な理由がなければ変更はしない」
しばらく挙手が続いたので説明は中断される。カガリは背もたれに体重をかけて、「マジ?」と指差した。
「じゃあ嫌いなやつと同じチームになったら最悪じゃん」
「協調性をかけらも感じない発言だね」
ルイがたしなめるような目で見てきた。「子どもじゃないんだよ」と小言もおまけしてくれるが、カガリは聞こえなかったことにする。彼女は律儀に取っているメモを見返しながら、仕方なさそうな目で見た。
「まあバディには配慮してくれるらしいから、僕たちは同じチームだと思うよ」
「ってことはあと3人か。誰だろ。俺知り合いとか全然いないんだけど」
「他のバディと合体させるんじゃないか? 残りの1人はバディを組んでいない生徒から選べばいいだろうし」
「そりゃそうか」
「高ランクの魔導主体がいるバディだとありがたいね。君が崩しまくっているバランスをどうにかしてほしいよ」
「それはそれで別種のバランス崩壊が起きそうだけどな」
ぼそぼそと会話を続けているうちに説明が終わる。
「――以上! まずは掲示を確認し、チームごとに集合するように」
生徒が黒板に寄っていく。教室の真ん中に座っていたカガリたちは遅れて立ち上がった。人混みをかきわけるようにして前へ向かう。上から視線で辿っていくと、カガリの名前はCチームにあった。そのすぐ下にルイの名前もある。よしよし、と思いながら残りの3人も確かめる。
「…………マジ?」
本日2度目となる台詞を呟いて、カガリは愕然とした。




