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第20話 舞台は暗転する


 試合開始から1分が過ぎている。クラウンの動きは分からないが、地形を把握しているなら、同じように頂上を目指すだろう。そうなれば速さの勝負だが――負ける気はしない。カガリはもとより、ルイも相当身軽だ。


 クラウンの出方は分からないし実力も見極めきれない。それでも唯一言えることがある。


 絶対にクラウンに勝てる要素――それは機動力。


 レオナルドの足の速さは平均以上だが、武器が長剣だからかなり重い。持って走るのは難しいだろう。おまけにベルは魔力主体で前線にはほとんど出てこられない。敵に勝る要素があるなら、生かさない手はない。


 頂上まではずっと坂道が続いていて、たどり着くころには息が切れそうだ。カガリは近くにあった木によじ登ると、枝から枝へと飛び移った。木の葉の揺れる音とともに、カガリの身体が宙に舞う。キンと耳鳴りがして通信が繋がった。


『カガリ、感知を使ってクラウンの位置を探ったよ』

「話も仕事も早くて助かるな。それで?」

『アルバーニも山頂に向かっているみたいだ。魔力を隠していない理由は謎だね、何か企んでいるのかもしれない』

「距離は?」

『このままいけば僕たちが先に着く』

「了解。エメットの位置は?」

「最初から一歩も動いていない。ただ少し妙なのが――魔力反応が異様に高い。魔導を使っているみたいだ」


 カガリはぐるんと身体を回転させて、枝の上に飛び乗った。


「……それヤバくないの?」

『どうだろう、感知で僕を探しているだけかもしれない』

「じゃあここからは魔導を使わないで潜伏して。奇襲のタイミングは全部任せる」

『了解』


 ああそういえば、とルイは付け加える。


『開始前に教えたけれど、エメットの魔導狙撃には充分注意するんだよ』


 魔導狙撃――光魔導や雷魔導を使って、遠く離れた敵を撃ち抜く。魔力操作の規模と精密さが求められる応用技術だ。


「山頂の一部は射程範囲なんでしょ。覚えてるよ、それくらい」

『ならいいんだ』


 ルイとの通信が切れた。視線を前に戻すと、山頂がうっすらと見えていた。あたりは開けているようで、木々の代わりに家屋が点在している。薄雲のかかる空から日が差しこんで明るい。


 ルイが山頂にたどり着くまでもう少しかかるだろう。自分だけでも先に向かって潜伏するか、それともベルの射程に入らないように離れた位置で待つか――カガリは一瞬だけ迷った。多少のリスクを取ってでも頂上を完全に押さえたいけれど、万が一ということもある。だから迷って—―。


 青空に魔力光が走ったのは、そんな一瞬の間だった。


「――光?」


 カガリはぽつりと呟いた。雷が落ちる前触れのように、電気が空を駆けずり回る。それでも雷でないことは経験則でわかっていた。あれは電気というより、魔力そのものが放つ光だ。


 まさか、と口走っていた。空から魔導が降ってくるという危機に身体は硬直する。けれど警戒は無意味だ。


「……空が、暗くなっていく……?」


 昼だった。少し雲はかかっていたけれど、青空が見えるような昼だった。なのにあたりから光が消えていく。まるで突然、真夜中になってしまったかのように。


『やられた!』


 すぐに繋がる通信と、ルイの動転した声。カガリは引きつった笑みを浮かべたままで訊ねた。


「魔導って時間操作までできるわけ……? 人智越えてるでしょ」

『違う、これは光を吸収しているんだ!』


 さっぱり意味が分からない。カガリは「ふうん」と知ったかぶりをしたが、彼女には『わからないんだな?』と妙に冷静に返された。


『君だって魔導の仕組みくらい知っているだろう』

「魔力を別のエネルギーに変換する。さすがにそれは覚えた。補習中におまえが木刀持って背後に立ってたから怖くて」

『逆――つまり別エネルギーから魔力に変換も、決してできないわけじゃない』


 言われてみれば、と零す。魔導の本質は変換なのだから、逆ができるのはある意味当然だ。


『ただし変換効率があまりにも悪くて、膨大なエネルギーを消費したって、わずかな魔力しか手に入らない。要は役に立たない技術なんだ。それを彼女は逆手に取っている』

「その説明で俺に伝わると思ってる?」

『伝わってほしかったよ、僕は! そもそも昼に明るいのは光が降り注いでいるからだ。その光をすべて吸収して、魔力に変えてしまえばどうなる?』

「暗くなる?」

『そう。大規模な魔力操作がいるから、プロの試合でごくたまに見かける程度の戦略だよ』


 カガリは適当に返事をした。仕組みそのものはどうだっていい。問題はカガリたちの置かれている状況だ。真っ暗闇のなかでカガリは棒立ちになっていた。


「……一応訊くけど、おまえ走れんの?」

『愚問だね。今ものすごく額が痛い』

「さっそくぶつかったんだな? 気を付けた方がいいと思うよ。枝が目とかに刺さるから」


 ただでさえ視界の悪い森で、真夜中と変わらない暗さだ。カガリは枝からぶらさがりながら、静かに瞬きする。


「なるほど、これは――やられたな」


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