第2話 王立魔導騎士学院
魔導と近接で戦う誇り高き戦士――魔導騎士。しかし彼らが国を守っていたのは遠い昔の話。
激しかった戦争はほとんど終わり、だんだんと役目を失いつつある魔導騎士は、その一方で競技者としての地位を得た。戦争ごっこ、エンターテイメント。興行として行われる模擬戦闘は、誰もが熱狂するイベントだ。
そんな名誉ある花形職業、魔導騎士を育てる王立魔導騎士学院。入学を祝う紙吹雪が舞い散るなか、カガリはゆったりとした足取りで進む。
「寮は二人部屋、ルームメイトは学院が決定……」
配られたビラを片手にひとり言を零す。花飾りと指輪をつけた新入生たちは同じ入学試験を突破してきた人間だ。顔は前を向いたまま、視線だけで探るが見覚えのある顔はない。
最難関のうえ学費無料の王立学院には、入学希望者だけでも山のように集まるのだから当然だ。そのなかで四年もの間勝ち抜くのは至難だった。自己研鑽を怠らないこと、と赤字で注意書きまでされている。
自己研鑽の例として書かれているのは、三ヵ月後の星霜祭の神前試合。学院からの代表出場者を決める予選トーナメントが、さっそく七日後から始まるらしい。
「詳しい説明は寮前掲示板のチラシに――」
カガリはふと足を止めた。大きな掲示板の前には数人がたむろしている。同じ花飾りをつけているところからして新入生――けれど穏やかな雰囲気ではなさそうだ。
「いえ、私はもう組むバディを決めていますので……」
「だからそいつよりも絶対俺らの方が――」
掲示板の前に立っている少女と、それを囲む男四人。
少女は柔らかな笑みを崩さないが、視線をうろうろとさせている。明らかに困っている様子だが、男たちがしつこく食い下がってくるから、振り切ることもできないのだろう。
「………………」
掲示板が見たいのに、その前でたむろしているのだから仕方がない。
カガリは自分に言い聞かせて、一歩前に進み出る。
けれど。
「――いい加減にしてもらおうか」
カガリが掲示物を見に行くよりも早く、少女の前に割りこんだ人影。
「エリザは僕の婚約者だ。彼女に何か言いたいことがあるなら、この僕を通してもらおうか!」
男物の制服を身にまとっているが、やけに小柄な新入生が片腕を広げた。
やや長めの黒髪が揺れる。気も意志も強そうな赤い瞳が男たちを一睨みすれば、男たちは「婚約者!」とつっかかるように笑った。
「彼女よりもちびっこいだろ、おまえ!」
「かわいそうに、成長期来なかったのか?」
「そんな小っちゃくてよく入学試験が突破できたなあ」
真上からぽんぽんと頭を叩かれている彼は、まるで小さな子どものようだ。いっそう目つきを鋭くさせて肩をいからせる。
「うるさい! 僕の身長と実力が比例すると言いたいなら、今ここで勝負してもいいんだぞ」
「大丈夫ですかあ? 怪我させちゃったら俺たちの良心が痛むから無理だよう」
「はあ⁉」
なぜだろう、彼が助けに入ったことによって余計こじれた気がする。げんなりと遠巻きに見ているカガリのもとへ、少女が駆け足で近づいてきた。
「あの、すみません」
「?」
「私のことを助けてくれようとしていましたよね。ありがとうございます」
「…………いや、別に、そんなことはないけど」
少女はくすっと笑い、「そうですか」と目尻を下げた。
腰まで伸びる髪がふわりと揺れた。丁寧に編みこまれた横髪といい、皺一つない制服といい、気品のある佇まいだ。良いところの出、たぶん貴族だろう。
「あなたも新入生ですよね。私はエリザ・フルールと申します。あの子は――」
「いや、いいよ。本当にいいって。俺はそこの掲示板見たかっただけだから。今めちゃくちゃ揉めてるから絶対近づきたくないけど。っていうかあいつに近づきたくないんだけど」
ちらりと見やれば、例の少年が口喧嘩に負けたらしく地団駄を踏んでいた。怒っているのはわかるが、とにかく小柄なので警戒心むき出しの子猫にしか見えない。その割には一切退こうとしないから、ますます煽られるのだ。
カガリは「うん」とゆるやかに頷いた。
――今後も一切お近づきになりたくない。
「まあ、程々のところで教官呼んだ方がいいと思うけど。授業以外で喧嘩したら懲罰室行きらしいから。……それじゃ、俺は巻きこまれる前に失礼」
「またご縁がありましたら」
「返品願いまーす」
ひらひらと片手を振って足早に立ち去る。ろくでもない縁など結ばれてはたまらない。けれど願いとは裏腹に、彼との再会は思いのほか早かった。




