第17話 隠しごとはできない
エリザを女子寮まで送ってから、2人も自室へと戻る。風呂はカガリが先だ。手早くシャワーだけ浴びてルイに譲った。彼女はきちんとジャケットをハンガーにかけてから向かった。
遠くで水の落ちる音が響いている。カガリはタオルを肩からかけたまま、資料を眺めていた。
「……思ったより厄介だな……」
レオナルド・アルバーニ。近接も魔導もこなすオールラウンダー。どちらも高レベルでまとまっていて、入学試験もそつなくこなしたようだ。おまけに本人の我が強く、精神的動揺を誘ったところでどうにかなるタイプとは思えない。
そんな彼をサポートする付き人の少女、ベル・エメット。今までの演習では大した結果を残していないが、主人であるレオナルドと組んだときの相性はわからない。いたって冷静な性格も強みといえる。
カガリが「ああー……」と宙を見上げたとき、バスルームの扉が開いた。
「今になって自信がなくなってきたか?」
「ぜーんぜん」
彼女も急いだのか、黒髪は濡れたままでぺたりとしていた。タオルは置いてきてしまったようだ。白い肌がほんのりと赤くなっていて、より幼く見えた。
「君の体術は認めるけれど、それ以外にはもう少し謙虚でいた方がいいよ」
「最後に勝てばいいんだよ、勝てば」
「この世にはプライドという言葉あるんだ。知らないのか?」
ベッドサイドに腰かけているカガリは、にやにや笑いながら「俺にそんなこだわりあると思う?」と問いかけた。答えなど最初から決まっている。彼女からは不満げな視線しか返ってこなかった。
ルイも椅子に座ろうと近づいてくる。綺麗に片づけられた床をまっすぐに歩いた。カガリは視線を逸らして手元へと戻す。
「――ッ」
だが視界の端で何かがちらついた気がした。
カガリはふと顔をあげた。
「…………!?」
何もないところでつまずいたルイが、目を見開きながら倒れていく。
障害物なんてなかった。ただ勝手に足を滑らせただけだ。体勢を立て直そうと足を出したが、ぎこちなくて間に合わない。彼女は諦めてかばうように両手を前に出した。
カガリはとっさに立ちあがっていた。無意識だった。けれど大きく1歩を踏み出して両手を伸ばす。
「うわっ」
「まっ……!」
カガリも不安定な姿勢だったから、受け止めきれずに後ろへ倒れこむ。
大した痛みはないけれど、2人分の体重がかかって床がきしんだ。反射的に閉じてしまった目を開けると、足元にルイが座りこんでいた。靴が片方脱げてしまって小さな足が見えている。
彼女は数秒言葉を失っていたが、はっと我に返って腰を浮かせた。
「すまなかった、ありがと――」
「……………………」
ぱっと手首を掴んで、引き止めた。
折れそうなほどに細い手首だ。ルイは困惑したように手を引くが、カガリは離さない。そんなやりとりを無言で3回。
「な、なんだ?」
「…………」
「せめて何か言わないか」
「………足上げて」
「はっ!?」
「足」
ルイは離れようと身を引こうとするだけだった。
焦れたカガリは、彼女の足首を掴んで身体をひっくり返した。ドタンと物音がして、今度は前にもつれこむ。
床に押し倒された彼女はぽかんとしたまま固まっていたが、やがて自分の体勢を理解すると、徐々に顔を赤くし始めた。
「何を――!」
無理やり宙に上げられた彼女の右足は裸足だ。子どものように小さい。
カガリは片手で掴んで固定したまま、もう片方の手で寝巻をめくりあげた。白くて傷1つない肌があらわになる。指先で軽く指圧しながら上へ上へとなぞっていくと、彼女は「いッ!?」と悲鳴をあげた。
「いって、なに?」
「…………違う。違うんだ」
ルイは青ざめた顔で首を振った。かたくなに唇を閉ざしているから、カガリはすっと目を細めた。同じところを軽く押してやると、彼女は「いだ、いだだだだ」と手で床を叩く。
「わかっ、わかった。痛い痛い! まずは話し合おう!」
「なーんで怪我してんのに普通に歩いてたわけ?」
「いたたたたた! とりあえず離してもらえるか!? これは拷問に分類される何かだぞ!?」
「怪我してるとか初耳だなあ。俺ら大事なバディなのに秘密とか作っちゃうんだ。それって俺に対する不義理じゃない?」
「浮気みたいに言うな!」
ルイはじたばたと暴れるだけで、素直に答えるつもりはなさそうだ。カガリはすっと目を細めた。
「白いと腫れるの目立ちそー」
「若干楽しんでいないか!?」
彼女の顔は涙目のまま引きつっていた。




