第12話 僕と君の勝利
エイダンの両手から剣が零れ落ちた。
宙を舞っているうちに指輪に戻って、足元の霧へと消えていく。彼の瞳は揺れていたが、ややあって落ち着きを取り戻した。ゆっくりと自分の胸元を撫でて、それが致命傷であることに気が付いて、眉を下げた。
「こりゃ、やられたなあ」
エイダンは困ったように笑ってから、不意に視線を逸らした。遠くの人影にも笑いかけてから、ぶらんと両手を投げ出す。
フィールドで致命傷を受ければ、強制退去させられる。彼の身体は光の粒子に変わり始め、数秒後には消えてしまった。
冷えた森の空気にさ木漏れ日が差しこんでいた。目を細めたくなってしまう眩しさだ。カガリは彼がそうしたように顔を背けて、視線を横へやった。
「…………なんでだろ」
ぽつりと呟く。
そこにはルイがいた。
彼女は魔導剣を戻すのも忘れて、膝に手をつきながらぜえぜえと息を荒げていた。
川の中流からここまで相当な距離があったはずだ。ただでさえ魔力の消耗が激しいのに、全速力で駆け抜けたのだから、体力は微塵も残っていないだろう。何か言おうと口をパクパクとさせているが、声にはなっていない。喉から空気が抜けるだけだ。
こんなことは予定になかった。想像すらしていなかった。ルイがカガリを助ける必要なんて、なかったはずなのに。
「――――は」
止まっていた息をゆっくりと吐きだした。全身が緊張していて、強張っていたことに今さら気が付いた。今度は一気に力が抜けて、思わず倒れこみそうになる。後ろに数歩下がりながらも立て直して、力の入らない足を引きずって、ルイのもとへ向かった。
彼女は顔だけあげた。まだ呼吸は乱れたままだ。艶やかな黒髪は肌にはりつき、普段の気品のは欠片も残っていない。
きっと混乱していた。カガリはぽかんとした顔のままで口を開く。
「おまえは、なんで――」
「僕はするべきことをしただけだよ。君と同じように」
カガリの言葉を遮った彼女は大きく息をついた。
そして断言する。
「これは僕と君の勝利だ」
赤い瞳は痛いくらいにまっすぐ、カガリを見ていた。そこにこめられているのは信念だけだ。目を逸らしたいはずなのに、なぜか逸らせない。
「あっ……」
だからよろめいた彼女に手を差し出した理由も、自分ではよくわからなかった。それでも手が繋がれて、関係は結ばれる。試合終了を知らせる鐘が三度打ち鳴らされた。




