第11話 バディの矜持
――遡ること十分。エイダンとの決着の少し前。カガリは最後の通信で「足止めの件で頼みたいことがあるんだけど」と言った。
「目くらましの煙幕みたいなのが欲しいんだよね」
カガリからはそれだけだった。煙幕を使って何をしたいのかも言わないから、彼の意図が読めない。漠然とした注文にルイは首を傾げた。
「木を燃やそうか?」
「それは困る。俺が移動するのに使うし、うっかり咳きこんだら居場所がばれるし」
なら代替案を出せ、と言いたい気持ちはやまやまだったが、時間がなかったので堪える。自分にある知識をすべて引っ張り出してきて、カガリの要望に応える方法を探す。ふと思い浮かんだのは昔の記憶。湖畔近くの別荘へいったとき、それを見た。
「なら――霧はどうだろう?」
「魔導で作れんの?」
「いや、直接は難しい。ただちょうど早朝だ。気温が低くて風も弱いから条件は整っている。君は敵バディを川まで追いこんでくれ」
「了解」
通信はブツンと切れた。カガリにまとわせておいた魔力が尽きたのだろう。ルイから一方的に話しかけることはできるが、作戦を打ち合わせることはできない。
一人になってもやるべきことは同じだ。拠点を捨てて、高台から駆け下りる。東に大きく迂回して川を目指す。
川岸に片膝をついたルイは透き通る水にそっと手を差し入れた。指先は一瞬にしてかじかんで、突き刺すような痛みすら感じた。水温はかなり低いようだ。赤くなった手を引き抜くと魔導剣を呼び出した。今度は剣先をつけて魔導を発動させる。
「熱波」
剣先から熱がじんわりと広がっていく。熱波は熱魔導の一つだが、攻撃に使えるほど激しいものではない。むしろ広範囲を温めるために使うものだ。水温は少しずつ上がり――。
「……上手くいった!」
水面からもくもくと立ちこめるのは真っ白な水蒸気。思わず笑みを浮かべたルイはさらに水温をいじっていく。
「川霧をつくるなんて初めてだったけれど、案外うまくできたね」
ルイがしたことは水温を上げる――たったそれだけ。
川霧は冷え切った空気と高い水温の差によって生まれる霧だ。この初戦は朝一番の山中ということもあって相当寒い。たまたま条件がそろっていたので、あとは川の水温を調整すればいいだけだ。
濃霧はあたりを漂い、少しずつ東へ流れていく。頃合いを見計らってルイは立ちあがった。
カガリの作戦は何となく読めてきた。霧に身を隠しながら、あの超人的な身のこなしで1人ずつ落とすつもりなのだ。確かに最善手で勝算もある。けれどもし計画が狂うとすれば、この霧を払われてしまったときだ。
もし、万が一。
それが簡単に起こってしまうのが現実だ。
「…………勝つと言ったのは君だよ!」
ルイは額から流れる汗を拭って、また駆けだした。たとえ最悪の経緯で、仮初のバディだったとしても、カガリと組むと決めたのは自分である。
だから見捨てるわけにはいかなかった。




