表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/23

不死鳥への告白

「そうか…解決したか。

ありがとう和泉。世話をかけた。」


お礼をいいながら、

鉄弥は流歌に頭を下げた。

随分長い話だったために、

放課後の教室から見える太陽は

もう沈みかけている。

放課後の教室、沈みかけの夕陽、

女子に頭を下げる男子。

二人の事情を知らない者が見たら、

告白のシーンだと思ってしまいそうだ。


「お礼なんていいわ。

私、今回はほとんど何もしてないから。

私は1割で、師匠が3割、

残りの6割は逢瀬君のおかげ。」


決して謙遜などではなかった。

月詠暦に関する一連の謎を解決できたのは、

冬馬の頭脳と行動があってのことだ。

冬馬はそれまでに得た情報をもとに

烏城のテニス部や商店街に聞き込みをして、

なんとその推理力だけで

和泉流舞という人間にまで辿り着いた。

冬馬の推理を聞いた流歌が千歳に連絡を送り、

千歳が一つのストーリーを完成させた。

流歌はただ、千歳と冬馬の

橋渡しをしただけに過ぎないのだ。


「それでも…俺の話を聞いてくれて、

寄り添ってくれたのは和泉だ。

本当にありがとう。」


もう一度、鉄弥は頭を下げる。

流歌が断っても懲りずに鉄弥は

頭を下げてしまうだろうから、

これ以上の問答は不要だろう。

だから、流歌が折れることにした。


「はいはい、どういたしまして。

誠意は伝わってきたから、

お願いだからその姿勢やめて。」


流歌がそう言うと、

鉄弥はゆっくりと顔を上げる。

ただ、上げた顔が妙に真剣そうで、

流歌は少しばかり首を傾げた。

まさか、また何か相談事でも

持ち掛けられるのだろうか。

ここの所ずっと忙しかったから、

相談事があるにしても、

少しくらいは休ませて欲しい。


「なぁ……和泉。」


いつになく神妙な鉄弥。

だが、なんだろう。

いつもの鉄弥とはどこか違うように感じる。

夕陽に照らされているせいなのか、

頬も紅潮しているように見えるし、

体が強ばっているようにも見える。

頻繁に流歌から目を逸らし、

必死を言葉を選ぶ時間を稼いでいる。


「俺と…付き合ってくれ。」


鉄弥はまた頭を下げた。

今度は、耳まで真っ赤にしながら

右手を真っ直ぐに差し出して。

放課後の教室、沈みかけの夕陽、

女子に頭を下げる男子。

なんと、告白現場の完成である。


「俺、お前が好きだ。」


好きだ、なんてストレートに言われたのは、

一体いつぶりのことだろうか。

いや、もしかすると、

人生で初めて言われたかもしれない。

それくらい、流歌にとっては

聞き馴染みのないセリフだった。


「……私のどこを好きになったの?」


どれだけ卑屈でも、

流歌とて年頃の女の子だ。

クラスメイトのイケメンに好きだと言われて、

嬉しくないはずはない。

ただ、卑屈なばかりに

手放しで喜ばないだけだ。

平然を装っているが、

内心ではスキップしていた。


「単純な理由だ。

お前が俺を助けてくれたからだ。

人を助けた男がヒーローに見えるみたいに、

俺のことを助けてくれたお前が、

俺には俺を導く女神みたいに見えた。」


なんて…なんてピュアなことだろうか。

そんなおとぎ話のような理由で

人のことを好きになってしまうなんて。

きっと、今までに誰かと

お付き合いをしたことがないのだろう。

告白されているのが

歳上のお姉さんじゃなくて良かった。

でなければ、手玉に取られて

骨の髄まで喰い尽くされていたところだ。

だが、鉄弥には鉄弥の

決定打があったらしい。


「それに…それにお前は、

俺の目が好きだと言ってくれた。」


確かに、流歌が鉄弥の相談を受けたあの日、

『あなたのその鋭い割りには

真っ直ぐで誠実な目が好き』と言っていた。

ずっと父親譲りの目を

気にしていた鉄弥にとって、

その言葉でどけだけ心が楽になったのか、

きっと、本人ですら言い表せないだろう。


「和泉。俺は不器用で愛想もない。

お前を幸せにするだなんて

大袈裟なことは何も言えないが、

ただ一つだけ、言わせて欲しい。」


ゆっくりと顔を上げて、

鉄弥は流歌に向き直る。


「この世界の誰よりも、

お前を愛し続けると誓おう。

俺の生涯を懸けて、お前を愛そう。」


流歌を見つめる真っ直ぐな鉄弥の瞳。

キリッとした目尻には、

決意と情熱が浮かんでいるようだった。

どこまでも真っ直ぐで、

どこまでも誠実なその目に、

流歌は少しだけ見惚れてしまった。

だが、それは決して、

鉄弥に惚れたという意味ではない。

あくまでも、人体のパーツとして、

鉄弥の目が好きになっただけだ。


「一つ、いいかしら。」


鉄弥から視線を逸らして、

流歌は窓の向こうを眺めた。

もう少し時間が経てば、

夕陽も完全に沈んでしまう。

闇に染まりつつある遠くの空に、

流歌は何を思うのか。


「私の体に不死鳥が宿っているのは

もう知っていると思うけど、

不死鳥という存在はずっと昔から

永遠を生きる神獣として語られてきた。

もし、私が不死鳥と共に

永遠を生きるバケモノだとしても、

十六夜君は私を愛してくれるの?」


不死鳥はその名前の通り、不死の鳥だ。

命が尽きるその瞬間に雨となり、

水溜まりから新たな命として復活する。

どんなに大きな傷を負おうと、

どんな災害に巻き込まれようと、

命が滅ぶことはない。

古き時の中国では、

不死鳥の生き血を飲めば

どんな大病も癒すことができるという

噂が庶民貴族問わず広がった程だ。

まさに神獣。まさにバケモノ。

永遠を生きるに等しい不死鳥は、

生物とさえかけ離れた存在なのだ。


「あぁ、それでも愛そう。

俺の命が尽きるその時まで、

お前を愛し続けてやる。

そして、俺が死んだあとでも

お前が俺のことを覚えていられるように、

お前の記憶の奥底まで、

十六夜鉄弥という人間のことを刻み込んでやる。」


想い人を置き去りにするということに、

微塵の恐怖さえ感じていない。

自分が死んだとしても

不死鳥である流歌は生き続けるのに、

むしろそれをチャンスのように捉えている。

……全く、とんだプロポーズだ。

だが、そのくらいの気迫がなければ、

流歌と共に歩むなど不可能だろう。


「…ホントに、困ったものね。

そこまで言われたら、断れないじゃない。」


答えは初めから決まっていた。

ただ、鉄弥の本心にあるものを

どうしても本人の口から聞きたかったのだ。

クルリと回って鉄弥に向き直り、

流歌は少しだけはにかんで言った。


「よろしくね、鉄弥君。」


ここに、新たなカップルが誕生した。

女の子の名前は和泉流歌。

浅葱色の髪をした流歌は

元々の顔やスタイルは整っているのに、

卑屈な性格と覇気の無さのせいで

全くと言っていいほど友達がいない。

不死鳥の妖神をその身に宿しており、

文字通り死なない体を持つ。

スリーサイズは上から70、52、63。

男の子の名前は十六夜鉄弥。

まるで妖精のように輝く金髪に

キリッとした目尻の鉄弥は、

バドミントン部の期待のエースだが

人の付き合い方は下手くそな部類に入る。

部活中でもよく一人で練習している程だ。




さて、もうすぐ陽が完全に沈む。

その前にこの物語に終止符を打とう。

これはその身に不死鳥を宿す女の子と

彼女に恋をする男の子の話だ。

永遠に続くかもしれない彼女の恋が

一体どれだけの人間を巻き込むのか。

その答えは彼女にも神にも分からない。



              ~完~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ