表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/23

その後

4月20日木曜日放課後。


「それで、その後はどうなったんだ。」


請け負った相談を終わらせるため、

鉄弥と流歌の二人は教室にいた。

月詠の背景にあったものや、

月詠が辿った経緯、

そして、月詠が鉄弥に直接謝罪をしたいと

言っていることなど、

事細かに鉄弥に話した。


「その後は…とても大変だったわ。」


全容が明らかになった後、

千歳が言った『最後にやるべきこと』。

それはすごく単純で、

しかし絶対に欠かせないことだった。

想月は想いを伝える妖神だ。

月詠が想いを伝えられなかったからこそ、

想月は月詠に取り憑いた。

だから、想月が月詠に取り憑いたキッカケ、

その根本の原因となった人物に

想いを伝えることができれば、

もう想月が月詠に近づくことはない。


「紹介するわ。これが私の姉の流舞。

話せば長くなるから省くけど、

ある妖神が絶賛取り憑き中で、

20歳だけどこんな見た目になってる。」


「こ…こんばんは。」


今思い返せば、驚愕のあまり

口を開いたままになった冬馬の顔は

とても芸術的だった。

だが、それは無理もないだろう。

流歌の姉であり、月詠が恋焦がれた人間が、

まさか10歳前後の幼女だと

誰が予想出来るだろうか。


「流歌の姉の流舞でーす…。」


家族以外の人間と会うのが久しぶりだからか、

流舞は緊張しているようだった。

いかんせん、ホトトギスに取り憑かれて以降は

ほとんど家から出ていないし、

友達からの誘いも全て断っていたのだ。

高校を卒業してからもずっと交流のあった

藤川からの電話にも出ず、

成人式にすら行かなかった。

流舞がどれだけ寂しい想いをしていたのか、

きっと、妹である流歌にだって、

その気持ちを推し量れないだろう。


「ほ、本当に…あの和泉さんですか……?」


突然の出来事に、月詠も戸惑う。

月詠の立場からすれば、ずっとその背中を

追い求めていたはずなのに、

それがこんなにも可愛らしい女の子で、

どうすればいいか分からないはずだ。

流舞からしても、ずっと自分の背中を

追い求められていたと突然聞かされて、

こんな姿を晒してしまったことに

少なからず罪悪感を抱いていた。


「ごめんね?こんな情けない体で。

私も結構苦労してるんだ。

えっと、暦ちゃんって呼んでもいいかな?」


だが、流石は元ムードメーカー。

お通夜みたいな雰囲気を吹き飛ばすように、

月詠の方へと歩み寄った。


「あ、はい…。」


まだどこかぎこちない月詠。

現実を受け入れるには

もう少し時間が必要なようだ。

だから、当事者の二人と流歌を残して、

千歳と冬馬の男組は公園から離れた。

次第に現実を受け止める月詠は、

今までの想い全てをぶつけるように

叫ぶように泣いた。

どうにか二人の距離感を安定させようと

流歌は絶えず月詠の背中をさすり、

変な冗談を言って更に事態を悪化させる

流舞に檄を飛ばしたりしていた。


「あっちの問題は

もうすぐ片付きそうだねぇ。」


遠くから公園を眺めながら、

千歳は笑みを浮かべていた。


「そうですね。これで一件落着です。」


千歳と冬馬は今日が初対面だが、

流歌があの廃工場まで

冬馬を走らせることを見越して、

千歳はわざわざ入り口で待っていたのだ。

急いでいた冬馬はそれに何の疑問も抱かず、

事情説明もそこそこに

千歳をここまで担いできた。

たったそれだけの関係値、のはずだった。


「あっちはいいけど、君はどうなのかなぁ?」


「……?どういう意味です?」


意味ありげな千歳の言い方に、

冬馬は興味を示す。

妙に熱を帯びた千歳の視線。

それを浴びて、冬馬は背筋に

冷たいものが走る感覚がした。


「逢瀬冬馬ちゃん。

君、流歌君のこと好きでしょ。」


何の前触れもなく、

相変わらずの笑みを浮かべながら、

単刀直入に千歳は言った。

対する冬馬は、

決して小さくない衝撃を受けたものの、

それまでの態度と変わらないまま答えた。


「まさか。和泉さんにはすでに、

意中の人がいるみたいですから。

俺に出る幕なんてないですよ。」


「ふーん……。そうなんだ。

まっ、君がいいならいいんだけどね。」


それ以上の追及はせず、

その他に何も言うことなく、

千歳はどこかへ姿を消した。

どこまでも掴み所のない人だな、と

冬馬は思ったが、

恐怖心を覚えずにはいられなかった。

何を考えているか分からず、

千歳が何者なのかも知らぬまま。

詳しいことは流歌から聞くにしても、

最後に千歳が言ったことは

伏せておかなければならない。

この心を、悟られないように。

そして、幸か不幸か、

その時初めて冬馬は理解した。

他人に自分の心を言い当てられることが

どれほど恐ろしいことなのかを。


「逢瀬君。私は姉さんと帰るから、

月詠さんを家まで送ってあげてくれる?

師匠はもう帰ったみたいだから。」


ホンの少しだけ長い瞬きの後、

目を開けた冬馬の前に流歌がいた。

あまりにその距離が近かったために、

冬馬はドキっとしてしまったが、

冬馬はいつも通りだった。


「うん。分かった。

和泉さんも気をつけて帰ってね。」


「えぇ、ありがとう。

それじゃあ、また学校で。」


「うん。また明日。」


そう言って流歌と別れた冬馬は、

自分の想いを言えなかった月詠の気持ちが

少しだけ分かった気がした。

冬馬にとって、今日は大変な1日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ