賀儀城、呉の船団 第7話:瀬戸内の守り(終)
作者のかつをです。
第十二章の最終話です。
戦の勝利と、その裏にある喪失感。そして、それを乗り越え自らの仕事の誇りを再確認する主人公、辰の成長を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
戦は、我ら小早川水軍の圧勝に終わった。
大友の船団は、そのほとんどが燃え落ちるか、海に沈むかした。
呉の浦には静けさが戻ってきた。
だが、それは戦の前の静けさとはまったく違うものだった。
港には、傷ついた味方の船が何艘も引き上げられていた。
俺、辰は親父と共に、黙々とその修繕に当たっていた。
船体には無数の矢が突き刺さり、あちこちに大きな穴が開いている。
「……ひでえ、有り様だ」
俺は思わず呟いた。
親父は何も答えなかった。
ただ、黙々と鑿を振るっている。
俺は、この戦で多くの仲間を失った。
共に酒を酌み交わした水夫たち。
そして、俺が手掛けた船も何艘か沈んだ。
船大工にとって、自らが造った船が沈むのは、我が子が死ぬのと同じくらい辛いことだ。
何のために、俺は船を造っているのだろう。
人を殺す道具を造るために、この技を磨いてきたのだろうか。
俺の心は深く沈んでいた。
そんな俺の様子を見てか、親父がぽつりと言った。
「……辰。お前の気持ちはわかる。だがな、わしらは船大工だ。船を造ることしかできん」
親父は続けた。
「じゃがな、わしらがこの船を造るからこそ、水夫たちは安心して戦える。そして、この呉の浦の平和が守られる。わしらの仕事は確かに人の命を奪う道具を作っている。じゃが、それと同時に、何百、何千という人の命を守ってもおるのだ。そのことを忘れるな」
親父の言葉が、俺の胸に温かく響いた。
そうだ。
俺は船大工だ。
俺が造った船が、この瀬戸内の海を守っているのだ。
俺は顔を上げた。
そして再び槌を握りしめた。
壊れた船を直すために。
そして、次なる戦に備え、さらに強く、速い船を造るために。
それが俺の船大工としての誇りであり、この海で生きていく覚悟なのだから。
◇
……現代、呉市。
かつて賀儀城、警固屋城があった丘の上には、今は住宅地が広がっている。
だが、その眼下に広がる呉の港には今も巨大な造船所が立ち並び、日夜新しい船が造られている。
戦国の世から近代、そして現代へ。
船を造る技術は変われども、この港を守り、国を支えてきた名もなき職人たちの熱い魂は、今も確かにここに受け継がれている。
(第十二章:我ら小早川水軍 ~賀儀城、呉の船団~ 了)
第十二章「我ら小早川水軍」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
小早川水軍の強さは、隆景の知略だけでなく、彼らを支えた船大工たちの高い技術力にもありました。
さて、海の物語が続きました。
次回から、新章が始まります。
第十三章:瀬戸内の十字路で生き残れ ~矢野城、小領主の選択~
再び舞台は陸の山城へ。大内、尼子、そして毛利という巨大勢力の狭間で翻弄される、小さな国人領主の生き残りを賭けた苦悩の物語です。
引き続き、この壮大な山城史探訪にお付き合いいただけると嬉しいです。
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