賀儀城、呉の船団 第5話:海上の砦
作者のかつをです。
第十二章の第5話をお届けします。
今回は、敵の襲来に備え、呉の浦全体が巨大な要塞へと姿を変えていく様子を描きました。海城ならではの特殊な防備が見どころです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
最初の小競り合いは痛み分けに終わった。
我ら小早川水軍は、大友の大砲の威力に度肝を抜かれ、敵もまた我らの焙烙火矢と操船術に舌を巻いたようだった。
だが、これは序章に過ぎない。
いずれ大友は本格的な大船団を率いて、この呉の浦に攻め寄せてくるだろう。
その報せを受け、小早川隆景様は即座に決断を下された。
「――この呉の浦、全体を一つの巨大な城とする」
その号令一下、俺たち船大工と水夫たちは昼夜を問わず防備の強化に当たった。
まず、入り江の両岸にそびえる賀儀城と警固屋城。
この二つの城を連携させ、十字砲火を浴びせられるよう鉄砲狭間を増設し、大筒を配置した。
そして、俺たち船大工に下された最も重要な任務。
それは、「鎖錨」の設置だった。
「いいか、辰。この鎖が我らの最後の命綱になるやもしれん」
親父は巨大な鉄の鎖を指さしながら言った。
鎖錨とは、海中に太い鉄の鎖を張り巡らせ、敵船の進入を防ぐ仕掛けだ。
俺たちは何日もかけて小舟を出し、重い鉄の鎖を海底に沈めていった。
いざとなればこの鎖を巻き上げることで、入り江の入り口を完全に封鎖できるのだ。
さらに俺たちは特殊な船も造った。
船全体を鉄の板で覆った、「鉄甲船」の原型ともいえる船だ。
敵の大砲にも耐えられる、動く砦。
それはまさに、俺たち船大工の知恵と技のすべてを注ぎ込んだ傑作だった。
数ヶ月後。
呉の浦はもはや、ただの港ではなかった。
二つの城が大砲と鉄砲で睨みを利かせ、海中には鎖が張り巡らされ、海上には鉄の船が浮かぶ。
まさに、難攻不落の「海上の砦」が完成したのだ。
俺は完成した防備を見上げながら、胸が熱くなるのを感じていた。
俺たちの手で造り上げたこの砦。
どんな大軍が来ようとも、決して破らせはしない。
俺の心にはもはや恐怖はなかった。
あるのはこの海の都を守り抜くという、船大工としての、そして海の男としての確かな誇りだけだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
城と船団が一体となった海城の防衛システムは、小早川水軍の強さの象徴でした。まさに、知将隆景の面目躍如といったところでしょう。
さて、ついに決戦の時が訪れます。
次回、「焙烙火矢」。
呉の浦を舞台にした、壮絶な海戦が始まります。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。




