賀儀城、呉の船団 第4話:忍び寄る敵船
作者のかつをです。
第十二章の第4話をお届けします。
今回はついに戦が始まります。主人公、辰の初めての実戦。船大工として、彼がどう戦と向き合うのかを描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
俺、辰が船大工として少しずつ仕事を任されるようになった、ある日のこと。
呉の入り江は、いつになく物々しい空気に包まれていた。
「――豊後の大友の船が、伊予の沖合に現れたそうだ」
その報せはあっという間に、水軍衆の間に広まった。
九州の覇者、大友宗麟。
毛利家とは長年、北九州の覇権を巡って争い続けている宿敵だ。
その大友が、ついに瀬戸内へと本格的に手を伸ばしてきたのだ。
「奴ら、何を企んでおる……」
親父も苦々しい顔で海を睨んでいる。
数日後、偵察に出ていた物見船が血相を変えて帰ってきた。
「敵船です! 数は十艘ほど! この呉の浦へ向かってきます!」
すぐさま出陣の鐘が鳴り響いた。
俺たち船大工も戦支度に追われた。
「辰! お前はこの船に乗れ! 船が傷ついたらすぐに直すんだ! 穴が開いたら板を打ち付けろ!」
親父にそう命じられ、俺は初めていくさ船に補修要員として乗り込むことになった。
胸が高鳴った。
これが、俺の初陣か。
小早川水軍の主力が次々と港を出ていく。
沖合で、大友の船団と睨み合いになる。
敵の船は俺たちの小早船よりも一回り大きい。
そしてその船首には、見たこともない筒が据え付けられていた。
南蛮渡来の大砲、「国崩し」だと誰かが言った。
ゴゴゴゴゴッ!
腹の底に響く轟音。
次の瞬間、味方の小早船のすぐ横で巨大な水柱が上がった。
「うわあっ!」
俺は思わず甲板に伏せた。
これが大砲の威力か。
もし船に直撃していたら、ひとたまりもなかっただろう。
「怯むな! 懐に潜り込め! 近づけば大砲は撃てん!」
将の号令が飛ぶ。
味方の船団は散開し、俊敏な動きで敵船へと肉薄していく。
だが、その時、俺が乗っていた船が大きく揺れた。
敵の矢が船べりに突き刺さっている。
「水漏れだ! 辰、塞げ!」
俺は慌てて槌と板を手に、穴の開いた場所へと駆けつけた。
船は俺の体だ。
俺が造った船だ。
ここで沈ませるわけにはいかない。
俺は夢中で板を打ち付けた。
戦の恐怖よりも、船を守りたいという船大工としての誇りが勝っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
大友氏は南蛮貿易を通じて、いち早く大砲などの最新兵器を導入していました。その火力は、当時の日本の水軍にとって大きな脅威だったのです。
さて、初めて戦の現実を目の当たりにした辰。彼の運命は。
次回、「海上の砦」。
呉の浦全体が、一つの巨大な要塞となります。
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