賀儀城、呉の船団 第3話:海の訓練
作者のかつをです。
第十二章の第3話をお届けします。
今回は、小早川水軍の強さの秘密である厳しい「訓練」の様子を描きました。船を造る者と操る者。その熱い絆を感じていただければ幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
俺たち船大工が汗水流して船を造る、そのすぐ隣の入り江では、水夫たちの猛烈な訓練が毎日続けられていた。
「それっ、漕げ、漕げーっ! 櫓がしなるまで漕がんかーっ!」
教官役の武士の怒声が浜辺まで響いてくる。
俺、辰は鑿を振るう手を休め、その光景を眺めていた。
数十艘の小早船が、まるで水の上を滑るように進んでいく。
その速さ。
そして、一糸乱れぬその動き。
あれが、俺たちが造った船か。
俺の胸は誇らしさでいっぱいになった。
小早川水軍の強さの秘密は、ただ船の性能だけにあるのではない。
この瀬戸内海の複雑な潮流を知り尽くした、水夫たちの卓越した操船術にあってこそだ。
「見とけよ、辰。あれが小早川水軍得意の『重ね陣』じゃ」
親父が俺の隣で呟いた。
海の上では、船団がまるで雁が列をなして飛ぶかのような陣形を組んでいる。
「先頭の船が敵に焙烙火矢を投げかけ、すぐに離脱する。すかさず二番船が突っ込み、火矢を投げる。それを次々と繰り返すのじゃ。敵は息つく暇もなく混乱し、やがて燃え落ちる。この海の潮流と風を読み切り、船を手足のように操れねばできん神業よ」
俺は息を呑んだ。
あれが戦。
武士たちがただ斬り合うだけの陸の戦とはまったく違う、知恵と技の世界。
その日の夕暮れ。
訓練を終えた水夫たちが、造船所にやってきた。
「おう、源五郎の棟梁! 今日も良い船だったぜ! まるで手足のように動いてくれたわい!」
水夫頭の屈強な男が、親父の肩を叩いた。
「当たり前じゃ。誰が造ったと思うとる」
親父はぶっきらぼうにそう返したが、その顔はまんざらでもないというように笑っていた。
船を造る者。
船を操る者。
ここ呉の浦では、皆が一つのがんこな家族のようだった。
互いの仕事を尊敬し、信頼し合っている。
俺はこの場所がたまらなく好きになった。
俺も早く一人前の船大工になって、親父や水夫たちに認められたい。
俺は心に固く誓った。
この海の都を守るため、日の本一の船を造ってみせる、と。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
船を造る者と操る者。その密接な連携こそが水軍の強さの源泉でした。まさに、職人と兵士が一体となったプロフェッショナル集団だったのです。
さて、着々と力をつけていく小早川水軍。しかし、その平穏は長くは続きません。
次回、「忍び寄る敵船」。
瀬戸内の海に、戦の暗雲が立ち込めます。
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