銀山城、因島村上の王国 第9話:潮風の誇り(終)
作者のかつをです。
第十一章の最終話です。
大きな戦を乗り越え、若き主人公が自らの進むべき道を見出す成長の物語。そして、その記憶が現代の私たちとどう繋がっているのか。感じていただけたら幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
厳島での大勝利から数日後。
俺たち因島村上水軍は凱旋を果たした。
島は勝利の喜びに沸き返っていた。
だが、俺、海斗の心は晴れなかった。
初陣で多くの血を見てしまった。友も失った。
俺は本当に、この海で生きていけるのだろうか。
そんな迷いを抱えたまま、俺は一人銀山城の物見櫓に登っていた。
「――まだ、迷っておるのか、海斗」
いつの間にか、背後に父が立っていた。
「……父上」
俺はうつむいたまま答えた。
「俺にはわかりませぬ。戦で多くの人が死にました。俺も人を殺めました。これが、海の王の生きる道なのですか」
父は何も言わなかった。
ただ俺の隣に立ち、黙って海を見つめている。
しばらくして、父は静かに口を開いた。
「……海斗。わしら海の民はな、海と共に生きる。海は恵みを与えてくれる。じゃが、時には牙を剥き、すべてを奪っていく。戦も同じじゃ」
父は俺の肩に手を置いた。
「我らは戦を好んではおらぬ。じゃが、我らが守るべきもののために戦わねばならぬ時がある。この島の暮らしを、家族を、そしてこの海の自由を守るためにな」
父の言葉が、俺の心に深く染み渡った。
「忘れるな、海斗。お前が流した血と涙の上に、今の平和があることを。そして、お前が守った命があることを。それを誇りに思うのじゃ。我らはただの人殺しではない。海の秩序を守る、海の王なのじゃからな」
父の掌は大きく、そして温かかった。
俺は顔を上げた。
目の前には、どこまでも青く広がる瀬戸内の海。
潮風が俺の頬の涙を乾かしていく。
そうだ。
俺は、この海で生きていく。
海の王として。
失った者たちの思いを背負って。
この海の自由と平和を守り抜くために。
俺の心に、迷いはもうなかった。
◇
……現代、因島。
銀山城跡には今も石垣が残り、その頂からはかつて村上水軍が睨みを利かせた瀬戸内の美しい海を一望できる。
その穏やかな海の下に、海の掟と誇りを胸に生きた名もなき男たちの熱い魂が、今も眠っている。
彼らが守り抜いたこの海は、これからも変わることなく人々を見守り続けていくのだろう。
(第十一章:海の関所、水軍の掟 ~銀山城、因島村上の王国~ 了)
第十一章「海の関所、水軍の掟」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
村上水軍の物語は、いかがでしたでしょうか。彼らの生き様が、少しでも伝われば幸いです。
さて、瀬戸内海を制した毛利家。
次回から、新章が始まります。
第十二章:我ら小早川水軍 ~賀儀城、呉の船団~
今度は、毛利水軍の中核を担った小早川水軍の物語です。海の戦いを支えた船大工や水夫たち。知られざる海の職人たちの世界にご期待ください。
引き続き、この壮大な山城史探訪にお付き合いいただけると嬉しいです。
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