銀山城、因島村上の王国 第8話:海の戦
作者のかつをです。
第十一章の第8話をお届けします。
歴史上名高い「厳島合戦」。今回はその海戦の様子を若き水夫、海斗の視点から描きました。焙烙火矢など、村上水軍得意の戦法が炸裂します。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
天文二十四年(一五五五年)。
ついに、その時が来た。
毛利元就様から、我ら村上水軍に出陣の要請が届いたのだ。
「――陶晴賢が、二万の大軍を率いて厳島に上陸した。我が策の成否は、お主らの働きにかかっておる。瀬戸内の制海権を、我らの手に」
銀山城は、戦支度に沸き返った。
俺、海斗も初めて本物のいくさ船に乗り込むことになった。
俺たちの船団、三百艘が因島の港から次々と出航していく。
その光景は圧巻だった。
俺は武者震いが止まらなかった。
厳島の沖合に着くと、そこはすでに陶の大船団で埋め尽くされていた。
だが、俺たちに恐れはなかった。
ここは俺たちの庭だ。
「者ども、行くぞ! 村上水軍の本当の恐ろしさを教えてやれ!」
当主、吉充様の号令と共に、戦の火蓋が切られた。
俺たちの小早船は風のように海面を滑り、敵の巨大な安宅船の懐へと潜り込んでいく。
「焙烙火矢、放てーっ!」
兄貴分の鉄心さんの声が響く。
俺は教えられた通り、火のついた焙烙を力いっぱい投げつけた。
いくつもの火の玉が、敵船へと吸い込まれていく。
ドォォン!
轟音と共に、敵船から火柱が上がった。
「やったぞ!」
俺は思わず叫んだ。
だが、喜びも束の間。
敵船から無数の矢が降り注いできた。
「伏せろ!」
父の声。
俺は慌てて盾の下に身を隠した。
海戦は陸の戦とはまったく違った。
足場は常に揺れ、潮の流れを読まなければ思うように船を操ることもできない。
だが、俺たち村上水軍は、この海で生まれ、この海で育った。
潮の流れは俺たちの味方だった。
俺たちは複雑な潮流を巧みに利用し、敵を翻弄した。
夜になり、嵐が来ると戦況は完全に我らのものとなった。
嵐の中、本土からやってきた毛利の本隊が陶軍の背後を突いたのだ。
挟み撃ちにあった陶軍は、大混乱に陥った。
夜が明ける頃には、戦の勝敗は決していた。
俺は朝日に赤く染まる海を見つめていた。
海には数えきれないほどの船の残骸と亡骸が浮かんでいる。
俺は勝ったのだ。
だが、その勝利の代償として多くの命が失われた。
これが、戦。
俺はただ静かに、その光景を目に焼き付けていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この厳島合戦の勝利は、毛利元就の知略だけでなく村上水軍の力なくしてはありえませんでした。まさに、陸の王と海の王が手を組んだ奇跡の勝利だったのです。
さて、大きな戦を乗り越え、海斗は何を思うのか。
次回、「潮風の誇り(終)」。
第十一章、感動の最終話です。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。




