銀山城、因島村上の王国 第7話:南蛮船来航
作者のかつをです。
第十一章の第7話をお届けします。
今回は、村上水軍の国際的な一面に光を当ててみました。彼らがただの海賊ではなく、新しい文化や技術を柔軟に取り入れる先進的な集団であったことを描いています。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
毛利家との盟約を結んでから、因島の周りはにわかに慌ただしくなった。
毛利の船が頻繁に行き来し、物資や兵士を運んでくる。
俺、海斗も見習い水夫として、その案内役や荷揚げの手伝いに追われる毎日だった。
そんなある風の穏やかな日の午後。
物見櫓から、鐘が激しく打ち鳴らされた。
「南蛮船じゃーっ! 黒いでかい船が、こっちへ向かってくるぞーっ!」
その声に、島中が騒然となった。
俺も慌てて浜辺へと駆け出した。
沖合に、その船は浮かんでいた。
噂に聞いていた通り、まるで山が動いているかのような巨大な黒い船体。
俺たちが乗っている小早船など、まるでおもちゃのようだった。
「……あれが、南蛮船か」
兄貴分の鉄心さんも、息を呑んでいる。
やがてその船から一艘の小舟が下ろされ、こちらへと向かってきた。
小舟には奇妙な服を着た鼻の高い男たちと、一人の通詞らしき日本人が乗っていた。
「我らは遠きエスパニアより参った商人である! 貴殿らの当主と話がしたい!」
当主の吉充様は臆することなく、その者たちを城へと招き入れた。
俺も末席で、その会見を見守ることを許された。
南蛮人たちは見たこともない珍しい品々を、吉充様の前に並べた。
硝子の器、美しい織物、そして鉄砲と呼ばれる新しい武器。
「これらの品と、食料、水を交換していただきたい」
吉充様は腕を組み、黙って南蛮人たちの話を聞いていた。
やがて彼は、鉄砲を手に取った。
「……面白いからくりよ。だが、我らには焙烙火矢がある。それよりも、わしが興味があるのは、お主たちの船の作りじゃ」
吉充様の言葉に、南蛮人たちは顔を見合わせた。
「取引はしよう。だが、条件がある。お主たちの船を我らに見せてもらいたい。船大工たちに、その作りを学ばせたいのじゃ」
それは海の王としての誇りに満ちた、堂々たる交渉だった。
俺は震えた。
吉充様はただ目先の珍しい品に目を奪われるのではなく、その先にある技術を手に入れようとしている。
これが、海の王か。
俺はこの時初めて、陸の大名とは違う、海に生きる者たちの世界の広さを知った気がした。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
鉄砲の伝来は日本の戦の形を大きく変えました。村上水軍もいち早くその重要性に気づき、導入したと言われています。
さて、新しい技術を手に入れ、さらにその力を増していく村上水軍。彼らの真価が問われる時が近づいていました。
次回、「海の戦」。
毛利の要請を受け、村上水軍は史上最大の海戦へと臨みます。
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