銀山城、因島村上の王国 第6話:海賊か、大名か
作者のかつをです。
第十一章の第6話をお届けします。
今回は、村上水軍が歴史の大きな岐路に立つ、その内面の葛藤を描きました。独立か、協調か。それは、現代の我々にも通じるテーマかもしれません。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
毛利からの使者が帰った後、銀山城では連日評定が開かれた。
議題は、ただ一つ。
毛利と手を組むべきか、否か。
「毛利と手を組めば、我らの儲けはさらに大きくなる! これほどの好機はない!」
「馬鹿を言え! 毛利は陸の狼じゃ! いずれ我らも飲み込まれてしまうぞ! 我らは海賊。誰の下にもつかぬのが掟だろうが!」
一族の長老たちの意見は、真っ二つに割れた。
俺、海斗は、そんな大人たちの議論をただ聞いていることしかできなかった。
俺たちの当主、村上吉充様はただ黙って腕を組み、目を閉じている。
俺にはわからなかった。
海賊としての誇り。大名と手を組むことの利。
一体、どちらが正しいのか。
その夜、俺は一人、父の元を訪ねた。
「父上。俺にはわかりませぬ。俺たちは海賊なのですか。それとも、毛利のような大名になるべきなのでしょうか」
父は酒を飲みながら、静かに言った。
「……海斗。海賊と大名の違いは、何だと思う」
「それは……」
俺は答えに詰まった。
「海賊は己の力と掟だけで生きる。自由だが、常に危険と隣り合わせだ。大名は土地と民を支配する。力はあるが、多くのしがらみに縛られる。どちらが正しいというわけではない。ただ、生き方が違うだけだ」
父は続けた。
「だがな、海斗。時代は変わろうとしておる。もはや我ら海の民が、力だけで自由に生きていける時代では、なくなりつつあるのかもしれん。元就という男は、その時代の流れを誰よりもよく読んでいる」
父の言葉は重かった。
数日後、吉充様はついに決断を下された。
「――毛利と手を組む」
城内は騒然となった。
「ただし、我らは毛利の家臣にはならぬ。あくまで対等の盟約じゃ。海のことはすべて我らに任せてもらう。陸のことは、毛利に任せる。それが条件じゃ」
それは海賊としての誇りを捨てず、そして新しい時代の流れにも乗るという、絶妙な決断だった。
海の王、村上水軍は、この日、大きくその舵を切った。
俺は、その大きな船の一人の水夫として、これから始まる荒波へと漕ぎ出していく覚悟を決めた。
俺たちの本当の戦は、まだ始まったばかりなのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
単なる従属ではなく、対等な盟約を結ぶ。村上水軍の当主、吉充の見事な政治判断でした。この決断が、後の厳島合戦で大きな意味を持つことになります。
さて、毛利と手を組んだ村上水軍。彼らの元に、思いもよらぬ客人が訪れます。
次回、「南蛮船来航」。
海の男たちと、未知との遭遇です。
よろしければ、応援の評価をお願いいたします!




