銀山城、因島村上の王国 第5話:毛利からの使者
作者のかつをです。
第十一章の第5話をお届けします。
ついに、陸の覇者、毛利元就が海の王、村上水軍に接触します。ここから、歴史は大きく動き出すことになります。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
海賊どもを討伐してから、数ヶ月が過ぎた。
俺、海斗は、あの初陣の光景を忘れることができずにいた。
夜、目を閉じると、今でも血の匂いや人の断末魔の叫びが蘇ってくる。
俺は本当に、海の王になれるのだろうか。
そんな迷いを抱えながらも、俺は日々の厳しい訓練に明け暮れていた。
そんなある日のこと。
一艘の立派な船が、因島の港に着いた。
船から下りてきたのは、毛利家の家紋をつけた武士の一団だった。
「――毛利元就様の御名代として参った。因島村上家の当主、村上吉充殿にお目通り願いたい」
使者の代表とおぼしき男の言葉に、城内はにわかに緊張に包まれた。
俺たち村上水軍は、特定の大名に仕えることはない。
あくまで独立した、海の王国。
だが、安芸の国で急速に力をつけている毛利元就という男の名は、俺たちの耳にも届いていた。
鏡山城を謀略で落とし、吉田郡山城では尼子の大軍を打ち破った、恐るべき知将。
そんな陸の覇者が、我ら海の王に何の用だ。
俺も父の供として、当主の吉充様と毛利の使者が対面する広間の末席に座ることを許された。
「……して、元就殿からのご用件とは」
吉充様の問いに、使者は静かに答えた。
「我が主、元就は貴殿ら村上水軍と手を組みたいと考えておられる」
「手を組む、だと?」
「左様。我らは陸の覇者。貴殿らは海の覇者。我らが手を組めば、この中国地方に敵はなくなる。そして、その先には天下も見えてきましょうぞ」
あまりにも大きな話だった。
俺はゴクリと喉を鳴らした。
吉充様は腕を組み、目を閉じたまま動かない。
広間には重い沈黙が流れた。
俺たち村上水軍は、これまで誰の下にもつかず、海の自由を守り抜いてきた。
ここで毛利と手を組むということは、その誇りを捨てることになるのではないか。
だが、断れば毛利を敵に回すことになる。
海の王、村上水軍は今、歴史の大きな岐路に立たされていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
毛利と手を組むのか、それとも独立を守り抜くのか。村上水軍の当主、吉充は重大な決断を迫られます。
そして、その決断が若き海斗の運命にも、大きな影響を与えることになります。
次回、「海賊か、大名か」。
海の男たちの葛藤が描かれます。
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