銀山城、因島村上の王国 第4話:掟を破る者
作者のかつをです。
第十一章の第4話をお届けします。
今回は、主人公、海斗の初陣を描きました。海の王として君臨する村上水軍。その力の裏側にある戦の厳しさと悲しみが伝われば幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
鐘の音を聞き、俺たち水軍衆は浜辺へと駆け出した。
銀山城の物見櫓からは、旗が振られている。
「――東より、船団、七艘! 旗印はなし! 掟を破る、海賊のようです!」
当主である吉充様の鋭い声が、浜に響いた。
「者ども、出陣じゃ! 村上の海の掟を知らぬ馬鹿者どもに、本当の海の恐ろしさを教えてやれ!」
「応!」という地響きのような雄叫びが上がる。
俺、海斗は、鉄心さんや父と同じ小早船に乗り込んだ。
ついに、俺の初陣だ。
武者震いが止まらなかった。だが、それは恐怖だけではない。一人前の水軍衆として戦えることへの高揚感が入り混じっていた。
我らの二十艘ほどの小早船は、まるで生き物のように滑るように海へと漕ぎ出していく。
やがて沖合に、敵の船団が見えてきた。
我らの倍以上の大きさの安宅船も混じっている。
「怯むな! 小回りが利くのはこっちじゃ!」
父の檄が飛ぶ。
俺たちは敵の船団の懐へと一気に潜り込んだ。
「火矢を放てーっ!」
鉄心さんの号令で、いくつもの焙烙火矢が放物線を描き、敵船の甲板へと降り注ぐ。
ドォォン! ドォォン!
轟音と共に、敵船から火の手が上がった。
敵兵が阿鼻叫喚の中、海へと飛び込んでいく。
「海斗! 乗り込むぞ!」
俺たちの船が敵の安宅船に横付けされる。
俺は父に続き、敵船へと飛び移った。
甲板の上はすでに地獄絵図だった。
血の匂い、肉の焼ける匂い、そして男たちの怒号と悲鳴。
俺はただ夢中で、槍を振るった。
目の前に立ちはだかった大男の腹に、槍を突き立てる。
生温かい感触。
俺は初めて、人を殺した。
吐き気がこみ上げてくる。
だが、次の瞬間には別の敵が斬りかかってきた。
考える暇などなかった。
生きるために、殺す。
それだけだった。
どれだけの時間が経っただろうか。
気づくと周りにはもう敵はいなかった。
甲板は味方と敵の血で赤く染まっている。
俺はその場にへたり込んだ。
手も足も震えていた。
これが、戦か。
これが、海の掟を守るということの、本当の意味なのか。
俺は、海の王になるという夢の本当の重さを、初めて知った。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
初めて人の命を奪い、戦の現実を目の当たりにした海斗。彼の心は大きく揺れ動きます。
そんな彼の元に、ある日、陸の覇者からの使者が訪れます。
次回、「毛利からの使者」。
海の王国に、新しい風が吹き始めます。
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