銀山城、因島村上の王国 第3話:水軍の日常
作者のかつをです。
第十一章の第3話をお届けします。
今回は、戦の合間の水軍衆の日常に焦点を当ててみました。地味で過酷な訓練こそが、彼らの強さの源泉だったのです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
「海の王」と言っても、俺たち水軍衆の暮らしは毎日が戦というわけではない。むしろ、地味な仕事の方が多い。
俺、海斗のような見習いがまず叩き込まれるのは、船の手入れだ。
船は俺たちの手足であり、城でもある。その手入れを怠ることは、自らの命を捨てることと同じだった。
「海斗! 船底の掃除は終わったか! 貝殻が一つでも残っていたら、夕飯は抜きだぞ!」
浜辺に引き上げられた小早船の下に潜り込み、船底にびっしりとこびりついたフジツボや貝を懸命に削り落とす。潮の香りと磯の匂いが混じり合った、独特の匂いが鼻をついた。
手は傷だらけになり、腰は鉛のように重い。
だが、この作業を怠れば船の速さは目に見えて落ちてしまう。海の戦において、それは死を意味した。
船の手入れが終われば、次は櫓を漕ぐ訓練だ。
「一、二、三、四!」
鉄心さんの掛け声に合わせて、俺たちはひたすら櫓を漕ぎ続ける。潮の流れに逆らい、島を一周する頃には腕の感覚はなくなっていた。
だが、この地味な訓練こそが、いざという時、自在に船を操り、敵の意表を突く神業のような動きを生み出すのだ。
日が暮れれば、ようやく飯の時間だ。
浜辺に大きな鍋が据えられ、その日獲れた新鮮な魚や貝が豪快に放り込まれる。潮汁だ。
「おう、海斗! お前も食え! 食える時に食っておかんと、戦には勝てんぞ!」
鉄心さんが俺の椀に、山盛りの汁をよそってくれる。
汗をかいた後の熱い汁は、五臓六腑に染み渡った。
男たちの荒々しい笑い声。
遠くで聞こえる波の音。
そして俺の帰りを待つ、母の顔。
俺は、この因島の暮らしが好きだった。
厳しい訓練も辛い仕事も、すべてはこの当たり前の日常を守るため。
そう思うと、不思議と力が湧いてくるのだった。
だが、そんな平穏な日常は長くは続かなかった。
ある日、見張りの櫓からけたたましい鐘の音が鳴り響いた。
それは敵の襲来を告げる、合図だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
厳しい訓練と仲間との絆。そして、家族の存在。それが海の男たちの強さの秘密でした。
しかし、そんな彼らの平穏な日常は破られることになります。
次回、「掟を破る者」。
ついに海斗の初陣の時がやってきます。
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