銀山城、因島村上の王国 第2話:関料を払え
作者のかつをです。
第十一章の第2話をお届けします。
今回は、村上水軍の力の源泉である「海の関所」の様子を描きました。彼らがただの海賊ではなく、海の秩序を守る支配者であったことが窺えるエピソードです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
俺たち因島村上水軍の仕事は多岐にわたる。
一つは、「警固衆」としての働きだ。瀬戸内海を航行する商船を他の無法な海賊や悪さをする輩から守る、海の用心棒である。その見返りとして、積荷に応じた警固料をいただく。俺たちの「過所旗」を掲げた船に手を出す馬鹿はいない。
そしてもう一つが、「海の関所」としての役目だ。この因島の沖合には村上一族が管理する「関」が設けられている。この海域を通るすべての船は、我らに「帆別銭」と呼ばれる船の大きさに応じた通行料を支払わねばならない。それがこの海の掟だった。
ほとんどの船は、その掟に素直に従う。我らを敵に回すことがいかに高くつくかを、皆知っているからだ。
だが、その日は違った。
「何だと! 我らは京の都の高名な商人であるぞ! それを海賊ふぜいが道を塞ぎ、銭をよこせとはどういう了見だ!」
沖に浮かぶ一際大きな商船から、肥え太った商人が甲板の上で喚き散らしていた。
俺は鉄心さんの漕ぐ小早船の舳先に立ち、その様子をじっと見ていた。俺たちを取り囲むように、十艘ほどの村上の小早船が完璧な陣形を組んでいる。
「親方。どうします」
俺の父が、船団を指揮する当主の村上吉充様に静かに尋ねた。
吉充様はまだ三十代と若いが、その眼光は海の荒波よりも鋭い。彼は腕を組み、騒ぐ商人を冷ややかに見つめていた。
「面白い。都の者は海の掟を知らぬと見える。教えてやれ、鉄心」
「へい!」
鉄心さんはにやりと笑うと、足元の箱から丸い土の塊を取り出した。焙烙火矢だ。
彼は慣れた手つきで火縄に火をつけ、力いっぱいそれを放り投げた。
焙烙は綺麗な放物線を描き、商船の巨大な帆のすぐ横の海面に落ちた。
次の瞬間、ドォォン! という腹に響く轟音と共に、巨大な水柱が天高く噴き上がった。
商船が木の葉のように揺れる。
さっきまで威勢の良かった商人は、腰を抜かし甲板にへたり込んでいた。
「次はない」
吉充様の静かな、しかし有無を言わせぬ声が海上に響き渡った。
商人は顔を真っ青にし、何度も何度も頭を下げ、慌てて銀の包みをこちらへ投げ渡してきた。
それが、この海の掟。
俺は誇らしい気持ちで胸を張った。
力こそが正義。俺もいつか、あの吉充様のように海の男たちを束ねる立派な将になりたい。
そう、強く思った。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
焙烙火矢は村上水軍が得意とした、いわば手榴弾のような武器です。その威力は敵の船を焼き払うだけでなく、その精神を打ち砕くのにも十分だったことでしょう。
さて、海の王として君臨する村上水軍。しかし、彼らの日常は戦ばかりではありません。
次回、「水軍の日常」。
海の男たちの、意外な素顔に迫ります。
よろしければ、応援の評価をお願いいたします!




