三原城、隆景の夢 第7話:新しい時代
作者のかつをです。
第十章の第7話をお届けします。
今回は、新しい城と町の完成を祝う領民たちの視点から、物語を描きました。彼らの純粋な喜びが伝われば幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
三原城と、その城下町が完成した祝賀の日。
城下はかつてないほどの熱気に包まれていた。
「新しい御城の完成じゃ!」「祝えや、歌えや!」
どこからともなく人々が広場に集まり始め、自然と踊りの輪が広がっていった。
わたくしは、お花。新しいこの町で小さな茶屋を営む、ただの町娘にございます。
わたくしも店の仕事を放り出し、その踊りの輪に加わっておりました。
「やっさ、やっさ!」
誰かがそう叫ぶと、皆がそれに続いて声を合わせる。
三味線や太鼓の音に合わせて、ただ夢中で踊り続けました。
ここには武士も商人も職人もございません。
皆、ただの一人の人間として、この新しい町の誕生を心から祝い、喜びを分かち合っておりました。
わたくしの隣では、いかつい顔をした石工のお爺さんや、真っ黒に日焼けした船大工のあんちゃんも、楽しそうに踊っております。
皆、この日のために何年も汗と涙を流してきたのです。
その喜びはいかばかりか。
踊りの輪は一人、また一人と増えていき、やがて町中の道という道を埋め尽くすほどの巨大なうねりとなりました。
その熱狂の中心で踊りながら、わたくしはふと城の天主台を見上げました。
すると、そこに一人の武将が静かに立っておられるのが見えました。
小早川隆景様でございました。
隆景様は豪華な着物をお召しになっておりましたが、決して偉ぶることなく、ただ穏やかな笑みを浮かべ、我々領民が踊り狂う様を見下ろしておられました。
その眼差しはまるで、我が子の成長を喜ぶ父親のように優しく、温かいものでした。
そのお姿を目にした時、わたくしはなぜか涙がこぼれて仕方がありませんでした。
このお方が我らの殿様で、よかった。
この町で生きていけて、よかった。
心から、そう思いました。
踊りは三日三晩続いたと、言われております。
この祝賀の踊りこそが、今も三原の夏を彩る「やっさ祭り」の始まりなのだとか。
新しい時代の幕開け。
それは戦の鬨の声ではなく、我々民の joyous な掛け声と共に始まったのでございます。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「やっさ祭り」の起源には諸説ありますが、この三原城の築城祝いが始まりだという説が最も有名です。
さて、城は完成し、国は活気づきました。隆景の夢は見事に実現したのです。
次回、「知将のまなざし(終)」。
第十章、感動の最終話です。隆景がこの城に託した本当の願いが明かされます。
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