三原城、隆景の夢 第6話:浮かび上がる城
作者のかつをです。
第十章の第6話をお届けします。
今回は、ついに完成した三原城の威容と、そこに込められた隆景の深い思想を、側近である吉蔵の視点から描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
干拓が始まってから、数年の歳月が流れた。
あの何もなかった海の上に、今、巨大な石垣の塊がその威容を現していた。
わたくし、吉蔵は、主君、小早川隆景様と共に小舟に乗り、完成間近の三原城を海上から眺めていた。
「……見事なものじゃな」
隆景様がぽつりと呟かれた。
その横顔には、深い満足の色が浮かんでいる。
満潮時には城の石垣は海水に洗われ、まるで城全体が海に浮かんでいるように見える。
「浮城」。
まさにその名にふさわしい光景だった。
天守は持たない。
それは、もはや戦の世が終わり実利を重んじる新しい時代が来ることを見越した、隆景様の考えだった。
代わりに本丸には壮麗な御殿が築かれ、政治を司る拠点となる。
そして、城の周囲には巨大な船着き場がいくつも設けられ、数百隻の船が停泊できるようになっていた。
「吉蔵。この城はな、戦のためだけにあるのではない」
隆景様は、わたくしに語りかけるように言われた。
「この城の本当の強さは、石垣の高さでも堀の深さでもない。この城が生み出す富にある」
隆景様は、城の背後に広がる新しい城下町を指さした。
そこにはすでに多くの商家が軒を連ね、活気に満ち溢れていた。
「全国から人、物が集まり、ここで新しい富が生まれる。その富が国を豊かにし、兵を養い、ひいては毛利の家を守ることになるのじゃ。これからは武力だけでは国は治められぬ。経済を制する者が天下を制するのじゃ」
その言葉は、わたくしの胸に深く突き刺さった。
我が主君は、父、元就様とも伯父、元春様とも違う、新しい時代の為政者の姿を示しておられるのだ。
力ではなく、知力と経済力で国を治める。
この三原城こそが、その新しい時代の象徴なのだ。
わたくしは改めて、この偉大な主君に仕えることのできる喜びを噛みしめていた。
そしてこの城と国がこれからどのように発展していくのか、その未来を思うと胸が高鳴るのを抑えることができなかった。
海の上に浮かび上がった巨大な城。
それは一人の知将が描いた、未来への希望の形そのものだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
戦国時代が終わりを告げようとする中で、隆景は軍事と経済を融合させた新しい国創りを目指しました。彼の先見性は、同時代の武将の中でも突出していたと言えるでしょう。
さて、ついに完成した城と町。そこに暮らす人々の喜びが爆発します。
次回、「新しい時代」。
三原の夏の風物詩、「やっさ祭り」の起源が描かれます。
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